◆第281話:退路を喰らう魔獣たち◆
煌めく魔晶の森を前に、一団は窮地に立たされていた。
目的地『星楔樹エトワコル』は目前。
だがその行く手には、砦じみた巨獣が立ち塞がっている。
エクリナはそれを見て悩んでいた。
「脱出すべきか……」
黒衣を纏った少女の背後には、守護すべき人たちが立っていた。
戦うか、全員を連れて退くか。
エクリナは、その決断を迫られていた。
「皆! 撤退するぞ。来い、ノクタルシア!!」
心を決め、切り札を出す。
異空間より漆黒の円盾が現れ、《ヴェヌシエラ》と合体する。
《ノクタルシア》の力を使い、エクリナは魔力を高め、空間転送移動の魔法陣を展開する。
白く輝く魔法陣が一段の足元に大きく広がる。
十九名の一斉転移などエクリナでも初めて。
本来は時間を掛け、術具の補助を得て行うのが上策。
しかし――
そんなことは言ってられない。脳内で魔法式を組んでいく。
その最中で、周囲の森が揺れ始めた。
小型・中型の魔獣たちが一団を取り囲んでいた。
「まずいぬう! 強い魔力に惹かれて集まってきてるぬう!」
「ここは魔晶を食べる魔獣の餌場みたいだぬう!」
シルヴァが状況見て悟った。
周囲の魔獣、眼前に佇む巨獣。彼らは魔晶が好物であった、と。
「じゃあ、なんでうちらに向かってくるんだ! あんなにデカイ魔晶がいっぱいあるのに!!」
コルネは周囲を警戒し、シルヴァに質問を投げかけた。
「魔晶の魔力は中で安定しているぬう! それより、今まさに溢れている強い魔力の方が魔獣には分かりやすいぬう!」
シルヴァは端的に結論を告げた。
「我は餌ということか!」
転移魔法式を編んでいる最中のエクリナは歯噛みする。
自身の魔力の強さが裏目に出ている結果であったからだ。
そして――
周囲の魔獣たちが一斉に襲い掛かってきた。
それはまるで、美味しそうなごちそうに飛びつく仕草であった。
「プロモ・アース・ハージズ! 皆、エクリナを護るよ!!」
《ヴォトカスト》から放たれるは上位化された土壁。
コルネと共に警備隊やレンジャーも迎撃していた。
オオカミ種、トリ種、イノシシ種が群れを成して突撃していた。
「今のうちに逃げよう!」
コルネはエクリナの時間を稼ぐ。
皆、無事でいるためには、ここから転移するしかないと分かっているからだ。
「もちろんだ! 頼むぞ!!」
左手を掲げ《ノクタルシア》が眩く輝く、主のために転移の魔法を補助する。
やがて、魔法式の構築が完了する。
「出来た! 皆、跳ぶ―――」
転移の魔法を発動しようとしたとき、地が揺れ、ミミズ種が地中から飛び出した。
狙いはエクリナではない。
足元に展開された転移魔法陣――高密度の魔力そのものだった。
さらに上空からはトリ種が螺旋状に突っ込み、魔法陣を食い破る。
転移術式は、一瞬で崩された。
転移魔法に集中し、無防備になっていたエクリナには魔法陣まで護るほどの余力はなかった。
その場を飛びのき、自身を護るだけであった。
「おのれぇぇ! 邪魔だ!!」
闇弾で迎撃するも既に転移の魔法はつぶされていた。
「エクリナ、大丈夫か!」
「ああ、だが……こやつらが邪魔で転移ができん!」
いらつくエクリナは周囲の魔獣狩りを優先することにした。
まずは旅の仲間を護るべきだと割り切る。
その混乱をジッと見ていた巨獣が動き出した。
さらに高まる魔力に引かれるように、巨獣はエクリナへ歩み出した。
「まずい、アイツも動きだした!」
巨獣を見て叫ぶコルネであった。
* * *
ミラネリオンでの戦闘映像は、そのままアークの大型開発工房へ流れ込んでいた。
先ほどまで歓声を上げていた工房内は、一転して静まり返る。
鏡映術具に映るのは、森林から身を突き出す巨獣だった。
「あ、あれは……ドラコタスか!」
イーサリが映像見て叫ぶ。
「それは何ですか?」
ルゼリアは冷静にその生物らしきもののことを聞く。
「竜族の一種でな、四足の生き物なのだが……普通はオオトカゲの倍くらいの大きさしかないのだが……」
「どう見てもそれより大きいよ! 見間違いじゃないの!?」
イーサリの見解に異議を唱えるライナ。
どう見ても十倍以上ある体躯に見えたからであった。
「しかし! 背中の甲羅! 獰猛な面構え! 小生が知っているドラコタスだ!」
「……すまない、つい叫んでしまった……ん? まさか、マナに充てられた突然変異か!?」
イーサリも異様な事象に声を強める。
「イーサリさん! あれの特性を教えてください! それを伝えないと……」
ティセラはイーサリにドラコタスの情報を聞く。
画面の向こうにいるエクリナへ伝えるために少し焦れていた。
「特性も何も、ただの劣等竜種だ……魔力をブレスとして吐くのと、石を時折食す以外に特性などない……」
騒然となる工房内。
焦りが空間を支配していた。




