◆第280話:美しき魔晶の森、轟く脅威◆
幻環山ミラネリオン。
巨大なカルデラで構成され、中心部の『星楔樹エトワコル』を護るようにそびえたつ。
マナの生み出す大樹を目指し、エクリナたちは大森林を進んでいた。
ガサガサ――ノッシノシと進んでいく。
エクリナらの一団はオオトカゲに乗り、カルデラの中心を目指していた。
「今回は放牧地が壊れてなくてよかったどぉ」
ジャバープルはオオトカゲに乗らず先導していた。
「そうだな、でなければ大変な旅路であったろうな」
エクリナは先導するジャバープルにうなずいた。
一行はすでに大森林を抜け、岸壁沿いの悪路をオオトカゲで進んでいた。
この獣は、その程度では足を止めぬらしい。
「エクリナさん……絶対に落ちないでくださいね……」
ヴァレンシアはエクリナの背中に抱き付き、崖のはるか下を見てしまった。
誰でも怖いものは存在する。
「それはこのトカゲ次第だな。頼むから踏み外すなよ?」
エクリナはトカゲの首を撫でて、お願いする。
皆オオトカゲに乗り、縦一列で進んでいた。
すると――ジャバープルが立ち止まる。
「……ようやく見えたど。もう少しで着くどぉ!!」
目的地を視認すると大声をあげて、背後の集団に共有した。
彼が見ている先には色とりどりに輝く何かが見えていた。
ジャバープルの指差す先、虹色にきらめく森の上で――ひときわ大きな結晶だけが、不規則に脈打っていた。
美しい。だが、どこか生き物めいていた。
「なんだ……あれは……」
目を奪われる美しい光景に唖然とするエクリナであった。
しかし――他のものは岸壁という恐怖に余裕が全くなかった。
◇
二時間後――
目的地へたどり着いた。
そこには巨大な魔晶の森が広がっていた。
カルデラの頂にすら届くほど巨大で、まさしく山中にそびえる“もう一つの山”であった。
大小無数の結晶が空へ突き立ち、色彩は虹では足りぬほどに濃い。
一団は、しばし声を失った。
「……」
出せる言葉はひとつ。
「美しい……」
ため息とともに漏れる言葉は、それだけであった。
エクリナは脳裏に焼き付けるようにしばらく見つめていた。
「この中に大樹があるど」
ジャバープルが一団を見ながら話す。
「いつ見ても綺麗だぬう……」
「前よりも育っているのであるな」
シルヴァは感嘆し、リンデは記憶の中の大きさと比較していた。
「これは成長するのか?」
聞こえた言葉に疑問を投げかけるエクリナ。
「魔晶はマナの結晶体、そしてここはあふれるマナの濃度が高いぬう。さほど時間が掛からずに大きくなるぬう」
シルヴァは先生のように説明をした。
「見たことない魔晶だらけですわ……術具士にとっては宝の山ですわね……」
「あ、コルネさん! こちらに来てくださる?」
ヴァレンシアは思い出したかのようにコルネを呼んだ。
「どうした?」
駆け寄ってきたコルネは何用かと聞いた。
「《ヴォトカスト》につけた鏡映術具を稼働させてくださる?」
「ああ、あれね。ちょっと待ってね、《ヴォトカスト》おいで!」
コルネは騎士型ゴーレムを呼び寄せると搭乗席に乗り込む。
そして、胸に即興で取り付けられた《鏡映術具》を起動した。
その映像は――大型開発工房に届く。
ミラネリオンに行く道中で立ち寄った駅に通信術具用の増幅器を置かせてもらっていた。
その結果が出ていた。
「「「おおお!」」」
と、《ヴォトカスト》の搭乗席内部から声が発せられた。
集団の声が織り交ざる音だった。
「お、ちゃんと見えているみたいだね!」
その声を聴き、話しかけてみるコルネ。
「はい、工房内の大型鏡映術具にバッチリ映ってます!」
その声はティセラであった。感度良好であることを告げていた。
その声の背後では、「すご~い!」「な、なんとうらやましい」といった姉妹の声が小さく聞こえた。
「ヴァレンシアさん、見えてるみたいだよ!」
コルネは《ヴォトカスト》の搭乗席から顔を出し、手を振った。
「それは良かったですわ!」
遠距離撮影の成功に、ヴァレンシアは頬を綻ばせた。
「これならば、色んなところを皆に見せることができるのである」
リンデも隣に立ち、祝福していた。
そのとき――
不意にオオトカゲが喉を鳴らし、周囲を見渡した。
同時に、《鏡映術具》の映像が一瞬だけぶれた。
次の瞬間――ゴゴ、と地の底から何かが唸った。
それは次第に大きくなる。
ゴゴゴゴゴッ!! と地響きに変わっていく。
「何事だ!」
金の輪が輝き、《深淵纏装ドミヌス・クロア》が身を包む。
右に《アビス・クレイヴ》、左に《ヴェヌシエラ》。
エクリナは即座に前へ出た。
少し遠くで、ドゴオオォォォーーーーンッ!!と大地を割る轟音が出た。
土煙が沸き立ち、巨大な影がうごめいていた。
「あ、あれはなんだど……レンジャーども警戒だど!」
「警備隊、護りを固めろ!」
ジャバープルとコルネは部下たちにすぐさま指示を出す。
リンデ・ヴァレンシア・シルヴァを囲むように配置につく。
土煙の中で、眼光がちらつく。
徐々に煙が晴れていく――そこには魔獣がいた。
四つ足で、背中には尖った岩が立っており、まるでリクガメのような風貌であった。
ただ圧倒的に違うのは、大きさ。
高さ十メートルはあろうか。
まるで小さな砦が歩いているかのような威容であった。
ギャオォォォーーーーーーー!!と吠え猛る。
巨大魔獣は、明らかな敵意をもってこちらを見据えていた。
依頼は、どうやら穏便には終わらぬらしい。
次回は、『6月18日(木)13時ごろ』の投稿となります。
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