◆第278話:幻環山、荒々しき歓迎◆
霊機自治区アークの大型開発工房の騒動から二日。
新たな任務を帯びている魔導列車は走り続けていた。
途中のいくつかの駅で、魔力補給を行い、車両の点検が行われていた。
そして、何も知らないエクリナたちは、ようやく幻環山ミラネリオン付近の駅に到着する。
駅を降りた正面、視界のほとんどを巨山が塞いでいた。
左右には草原と街道。空だけが、わずかに抜けている。
その“山”は、近づくほどに山ではなく、巨大な壁のように見えた。
「あれが……ミラネリオンと呼ばれるものか?」
エクリナは眼前にそびえる山を指しコルネに聞いていた。
「そうだよ。大きいでしょ?」
コルネは笑いながら答えた。
「"大きい"という簡単な言葉では済まされない荘厳な山ですわね……」
エクリナの隣に立つヴァレンシアは心底驚いているという声を出していた。
「見た目は山だぬうが、中は空洞だぬう。天然の城壁と言った方が近いぬう。その中心に目的の大樹があるぬう」
列車から少し遅れて下りてくるシルヴァが補足説明した。
「そうなのか。で、我らはどこに向かうのだ? どこかに入り口が……」
「まずは町に行くのである。山の前に町があってな、そこに管理者がいるのである」
段取りを聞くエクリナに、背後からリンデが話しかけた。
「うむ、そうか」
列車から全員が出ると、歩き出した。
ドシンーードシン――と歩むたびに列の背後から鈍音が発せられていた。
音が出るたびに僅かに地面が揺れているように感じた。
護衛列の最後尾を《巨岩兵装ヴォトカスト》が自動で歩いていた。
「以前もそうであったが、《ヴォトカスト》は自立しているのか? 勝手に動いておるが……」
前から疑問だったことを聞くエクリナ。
「そうだね~。簡単な指示だったら聞いてくれるよ、ただ戦闘になると難しいかな」
コルネは相棒のことを説明する。
その時だった。
先に届いたのは、地鳴りだった。
ダン! ダン! と、街の方から巨体が駆けてくる。
その光景を見て、立ち止まる一同。
エクリナが構えようとしたとき、コルネがそれを止めた。
「はあ~~歓迎だね。また来たよ、あいつ。うちが相手するよ」
「来い! 《ヴォトカスト》!!」
コルネは手を掲げ、相棒の名を呼ぶ。
呼応するように背後にいた騎士型ゴーレムはうなり、一団を避けるように跳び上がる。
そして――ダアァァァン! と踏み鳴らし、左膝を折って着地する。
コルネは相棒の左手・腕・肩を踏み台にして軽快に搭乗席に乗り、戦闘準備に入った。
その間、エクリナは《魔盾盤ヴェヌシエラ》を装備しており、一団に合図を送って退避させていた。
巨体が目の前にまで近づいていた。体長は《ヴォトカスト》とほぼ同じ。
全身毛だらけのオオザルの亜人が騎士型ゴーレムへ向かって拳を振るっていた。
「おおおおお!!」
気合を入れるように大声を出す。
「おりゃ!」
コルネは《ヴォトカスト》を操作し、右拳を打ち出す。
ゴォォォーーンと打ち合う。
オオザルの脚は地面にめり込むも耐えていた。
《ヴォトカスト》はギギと軋むが、大したことがない様子であった。
オオザルの亜人が拳を払うと、両手を開き掴もうとしてくる。
それに対してコルネも《ヴォトカスト》の両手を開き対抗。
互いの手を握り合い、力比べが始まった。
「おおおお! どどどどど!!」
言葉を吐き、自身を鼓舞するように猛るオオザル。
「この程度でぇ!」
対するコルネも負けじと魔力を流していた。
ビキビキ――ギギギ――
異様な音が鳴り響く。
《ヴォトカスト》の踵が、ずぶりと土を噛んだ。
その一瞬を見逃さず、オオザルは勝ち鬨のように吠えた。
「おおお! やったどぉぉ!!」と喜び、握り手を解放した。
「負けたぁ~~。ごめん、《ヴォトカスト》、魔力を入れる瞬間が遅れたぁ」
コルネは搭乗席にもたれかかると、操縦桿を撫でて謝っていた。
「シルヴァ殿……これはなんだ?」
ドシンドシンと喜び跳ねるオオザルと、制止している騎士型ゴーレムを交互に見てエクリナは聞いていた。
「通過儀礼みたいなものぬう。ここに来たらいつもやってる力比べぬう」
笑いながらシルヴァは話す。
「ジャバープル。相変わらずであるな」
リンデが《ヴォトカスト》の横まで歩むとオオザルの名を呼んだ。
「おお! リンデ様ど。お久しいど!」
ジャバープルはリンデに近づき、再会の握手を交わした。
すると、背後の一団に気づく、
「今日は客人が多いど?」
ようやくこちらに目を向けたオオザル。
「おいどんは、ジャバープル、ど。この山の管理者をやっているど」
そのまま自己紹介をした。
それを聞いたヴァレンシアは、前に出る。
「あたくしはヴァレンシア。本日はお邪魔しますわ」
きちんと礼をし、挨拶を交わした。
「お邪魔?ど?」
よくわかってないジャバープル。
「この前、エトワコルに取り付けた術具を見に来たぬう。だから案内して欲しいぬう」
シルヴァが訪問した目的を話す。
「お! あれのことどぉか!」
自分の手を叩き、納得する。
「まずは、町に案内するど。ついてくるどぉ」
微笑みながら案内を開始した。
「いつもあんな感じなのか?」
騎士型ゴーレムから降りたコルネに声を掛けるエクリナ。
「アイツ、力比べが好きでさ、ここに来るといつも迫ってくるんだよね。今日は負けちゃって最悪だよ……」
事情を話しつつうな垂れるコルネだった。
「ふふ、そうか。色んな者がおるのだな」
エクリナはコルネに微笑みかけながら、一団の護衛に戻る。
荒々しい歓迎を受けた一同は、ジャバープルの背を追って町へ足を踏み入れた。
町へ踏み入れた瞬間、山肌のどこか奥から、低く脈打つような音が響いた。
エクリナは無言で空を見上げる。
――ただの山ではないと感じていた。




