◆第277話:ゴーレム対決の行く先◆
轟音が鳴り響く、大型開発工房の裏。
その音は自治区中に鳴り響いていた。だが、それを止めることは容易ではなかった。
ガッキィィィ――ン!!
ガイィィ――ン!!
刃が打ち合う音が鳴り響く。
しかし、規模がまるで違った。巨体が振るう刃のように重く、衝撃波を伴っていた。
《ガルダ》は喉も脚も狙わない。ただ押し返し、押し留める軌道を選び続けていた。
五度の打ち合いを行い、《ドロモス》が届かない高さまで退避する《ガルダ》。
「キョエェェェーーーーー!!」
「ガオ! ガオォォーーーン!!」
互いに何かを訴えるように喚き合う。
すると――ガゴ、ジャキーーン!
双方の背部の砲身が互いを向け合う。
キュイーーーーーン。
共に魔力を収束させ、砲身を熱くさせる。
そして――
ドン、ドドン!
ダ、ダダァァン!
獅子と大鷲はほぼ同時に解き放つ。
空中で接触し、バアァァン!!と爆発音が轟く。
白い煙に変わり、煙幕となる。
その中を――《ガルダ》は飛び出した。
「ーーーーーーー!!!」
嘴を開き、声なき声――音波を浴びせかけながら、再び突貫する。
「ガウゥゥウウ!!」
《ドロモス》は呻く。
よほど不快だったらしく、後ずさりを始める。
「ひるんだ! 何が起きているんですか!」
ティセラは低姿勢になる《ドロモス》を見て驚く。
「風魔法でしょうか? 私たちには聞こえない何かのような……」
ルゼリアは隣で自身の知識と照合をする。
「魔獣除けの音波だ……空気を微振動させると一部の生物がひるんだり、逃げ出したりする」
「まさか《ドロモス》にも有効とは……」
《ガルダ》の判断に、イーサリは驚いていた。
大鷲は獅子の挙動をしっかりと観察し、有効打を叩きつけていた。
「ーーーーーーー!!!」
滞空し、音波を浴びせ続ける。
このまま《ガルダ》の優勢で持久戦と思われたが―――
ガ、ガシャン!!と獅子から音が出る。
大刃の上部に杭の射出口が突き出す。
ダ、ダダ、ダン!――
そして、即座に空中へ向けて撃ち放つ。
それを見た《ガルダ》は音波攻撃を中断し、翻りながら回避を行う。
追尾してくる杭を次々と大翼でいなしていく。
その隙に、《ドロモス》は大口を開け、巨砲を伸長し魔力を流し込んでいく。
遺跡でセディオスとリゼルに撃ち放った切り札であった。
「おい、大丈夫なのか! あれはやばいぞ!」
セディオスはイーサリへ向き、必殺の攻撃であることを話す。
もちろん製作者の彼女は承知であった。
「……あの高さでは指令は出せない……《ガルダ》を信じるしかない」
イーサリは真っすぐに、二体のゴーレムの喧嘩を見守る。
口出しできない、もどかしい母の気持ちに似ていた。
ギュイイイーーーーン……ドオォォン!!
獅子は撃ち放つ。最後の悪あがきだ。
杭落としに夢中になっている大鷲に向けて放っていた。
魔力の波長を頼りに、盲目のままに。
《ドロモス》も理解していた、魔力がもうすぐ尽きると。
それでも――
(モウ マケナイ)
やられっぱなしでは終われなかった。
視えずとも分かる。押されている。削られている。奪われる――そう獅子の中で警告が鳴っていた。
全力には程遠い砲撃が《ガルダ》へ向かう。
気付いている大鷲は翻りながら難なく回避する。
《ドロモス》から、「ガウ」と嬉しそうな鳴き声が聞こえた。
ダダダダン!と、四連の杭を追加で撃つ。
避けられるのは織り込み済、本命は回避行動中の追撃であった。
「《ガルダ》! 《ドロモス》!」
イーサリはその光景を見て、思わず子に等しいゴーレムたちの名を叫ぶ。
《ガルダ》の尾翼、噴出口、大翼へ、襲い掛かる追尾の杭。
大鷲は上空へ飛び、当たるまいと動き続ける。
だが、挟み撃ちに合い、尾翼を砕き飛ばされてしまった。
《ガルダ》は理解した、墜落すると。
取るべき選択肢はひとつだけであった。
「クゥエェーー!」
ひと声嘶き、覚悟を決める。
一瞬だけ錐揉みとなる。
その動きを殺さぬまま、大翼で姿勢を制御し、《ドロモス》へ最後の突貫を仕掛ける。
「ガオォーーン!」
それを認めた獅子は迎え打つとばかりに吠える。
僅かな時間で二体の距離が縮まる。
《ドロモス》は最後の力を振り絞り、跳びはねると右爪で仕留めに掛かる。
《ガルダ》は避けない。獅子の喉元を狙い、最後の加速をする。
ドオオオォォーーーン!
ぶつかり合う二体巨獣ゴーレム。
《ドロモス》の爪は翼に突き刺さり、《ガルダ》の翼は喉元を打った。
ドッシーーーーン!
そのまま、二体は落下する。
ギ、ギギッと、金属がきしむ音だけが鳴る。
もう、戦える状態ではなかった。
耐えられなくなったイーサリは走り出す。
ようやく喧嘩が収まった二体へ向かっていた。
「イーサリさん、まだ危ないですよ!」
ティセラは制止を促すが、その横を走り抜ける少女がいた。
ライナはイーサリの背を追った。
「僕がついていくよ!」
《ドロモス》が気になるライナは護衛を買ってでて、ついていった。
「仕方ありませんね」
「俺たちも行こう」
ルゼリアとセディオスも後を追った。
「わかりました……」
ティセラも気になっていたため、ついていった。
抱き合うように微小に動く獅子と大鷲。
イーサリは、ようやく手が届く距離まで近づいた。
すると――
《ドロモス》の双眸に動きが見えた。
ライナがイーサリの前に立ち、右手で制止させる。
その手を優しく下ろすイーサリは微笑んでいた。
何故ならば、《ドロモス》の眼には魔法陣が浮かんでいたからだ。
ぶつかり合った衝撃で何かがかみあい、視えるようになったのだとイーサリは感じていた。
魔導術具にはそういった事象がよくあったからだ。
《ドロモス》の眼はイーサリを捉えていた。
その瞬間だけ、滑走路の風音すら遠のいた気がした。
黒かった双眸が、ようやく一点を見つける。
ジッと見ていた、身じろぎをやめて、見落とさないように、記録するように制止していた。
イーサリは《ドロモス》の眼を見つめ、体を震わす。
眼鏡の奥からは涙があふれていた。
「おかえり、《ドロモス》……やっと会えたな……」
本当の再会を果たした《ドロモス》。
もう魔力が無く、限界だった。
「ガウゥ……」と、小さく鳴く。
なんとなく、嬉しさ、優しさを感じる声のように聞こえた。
そして――双眸は再び黒くなり、完全に《ドロモス》は沈黙した。
イーサリはひたすらに涙を流し続けた。
《ドロモス》の脚を撫でていた。
「……よかったね。ほんとうに、よかったね……ありがとう《ガルダ》!」
ライナも隣で泣いていた。
そして、《ドロモス》の魔力枯渇という勝利条件をこなした大鷲型ゴーレムに手を振っていた。
「クエェェ!」
と、ひときわ大きく鳴くと、力なく動かなくなった。
ようやく獅子と大鷲の兄弟喧嘩が収まった。
母と雷の少女は泣き、追いついたルゼリアはライナを背中から抱いていた。
セディオスとティセラは静かにその光景を眺めていた。
次回は、『6月14日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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