◆第276話:兄弟喧嘩の始まり◆
大型開発工房――裏手の滑走路。
元々、《ガルダ》が出撃するために道であった。
滑走路の片隅では工房の大扉が半ば開き、背後には術具士たちが固まっていた。
そこに、獅子と大鷲が対峙していた。
《ガルダ》にとっては、久々の飛翔、久々の自由、そして久々の外界だった。
そのすべてを記録する日に、初めて見る“兄弟機との戦い”まで刻まれていく。
「グルルルゥゥゥウ!」
「キョエェェーーー!」
吠え猛る獅子と鳴き叫ぶ大鷲。
兄弟機の戦いが始まろうとしていた。
「なんとか外に出せましたね……」
ティセラは外へ出るとゴーレム同士のにらみ合いを見つめていた。
「うまくいったな……あの鷲がうまく動いてくれて助かったぜ」
隣に立つセディオスは安堵していた。
「問題はここからです」
冷静に状況を見定めるルゼリアは先の展開を考えていた。
そんな中――
「喧嘩が始まろうとしてる……もう……《ドロモス》はダメなのかな……」
「やっと、造った人と会えたのに。兄ちゃんにも出会えたのに……なんでこんなことに……」
短い蒼い髪を揺らしながら、ライナは焦燥に駆られていた。
《ドロモス》と自身は似ているところが多いと思っていた。
一度は見捨てられ、ひとりきりで、姉とぶつかったことさえある。
嫌になるほど自分に似ていた。
「ライナ……嬢だったか? 嬢は優しいのだな……」
悲しく獅子を見つめる少女に声を掛けるのはイーサリだった。
「ねえ! 何とか助けられないの!!」
生みの母であるイーサリに懇願するように縋るライナ。
その眼には涙が溜められていた。
「外に出せたことで勝機が生まれた。ティセラ嬢の着想には感謝だ」
イーサリはライナの頭を撫でながら、喧嘩が始まった獅子と大鷲を見つめる。
「何かできるの!?」
ライナはイーサリの言葉に大きく反応する。
ティセラ・セディオス・ルゼリアも二人の話を聞いていた。
「ああ……《ドロモス》の魔力枯渇を狙う」
「まだ、僅かにしか充填していないからな。少し暴れさせれば眠るはずだ」
ライナにそう告げると、イーサリはティセラたちを見た。
皆、すぐに意図を悟った。
そして――
「《ガルダ》! そやつを……兄弟機の《ドロモス》を破壊しないように勝利しろ!!」
イーサリは口を手で囲い、大鷲ゴーレムに新たな指令を出す。
集音に長けている《ガルダ》は、《ドロモス》の爪を回避しながら指令を受け取る。
(シレイ……ジュダク)
(ソノイチ、ハカイシナイ……ソノニ、ショウリ スル)
上空へ退避し、指令を記録していく。
(キョウダイ…… キョウダイ…… キロク スル)
《ガルダ》の双眸の魔法陣がクルクルと回転する。
やがて、少しばかり光を強めると――
《ガルダ》は、《ドロモス》に向けて突貫した。
爪ではなく、翼の角度を選ぶ。斬るためではなく、押し返すための軌道だった。
噴出口は唸りを上げ、風切り音が滑走路を裂いた。
大きな翼には風の魔力刃を発生させていた。
「ちょっ! あれ大丈夫なの!」
その本気の攻撃態勢を視認したライナは叫ぶ。
「それでいい! 恐らく……」
信じるイーサリは《ドロモス》を見やる。
獅子型ゴーレムは疾駆すると、側部から大刃を展開し輝かせる。
「あれは、金属魔法ですか! 確かに資料にありましたね!」
「人属と亜人属が知る限りの魔法式を刻んでいる」
目を見張るルゼリアにイーサリは短く説明した。
そして――
ガキィィィーーーーンッ!!
《ガルダ》の突貫を《ドロモス》が大刃で受け、轟音が滑走路に響く。
互いに首だけを捻って相手を捉えたまま、交差し、すれ違った。
「獅子のやつ、見えないのに凄いな……」
割って入れない戦いを見ながら言うセディオス。
その声に――
「獅子じゃないよ! 《ドロモス》って名前があるんだから!」
ライナはセディオスの言い方が気に入らなかった。
獅子の名を叫んでいた。
「すまん、すまん……」
セディオスは少し驚き、謝罪をする。
「名は、大事なものですからね」
ルゼリアはライナに助力し、釘を刺していた。
何度も大翼と大刃が交錯し、衝撃波が生み出されていく。
人属と亜人属の技術の粋を目の当たりにし、魔導術具士たちはただ遥かな高みを見上げるしかなかった。




