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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十一章:巨獣たちの咆哮

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◆第275話:ドロモス鎮圧作戦開始◆

獅子型ゴーレム《ドロモス》は目覚めた。

だが、完全ではなかった――本来、双眸に映る魔法陣は定まらず、目が見えていなかった。


グルゥゥゥ――と唸り続ける《ドロモス》。

それは威嚇であるものの、強敵たちに対してすぐに攻撃に移れないようでもあった。


「イーサリさん! イーサリさんッ!!」

ティセラは隣に立つ、唖然として立ちすくんでいるイーサリに声を掛ける。


「はッ! す、すまない……」


何とか意識を手繰り寄せ、混乱する状況を整理する。

そして、思い当たる。


「小生の手落ちだ……焦っていた……嬢たちの魔力波長を登録していなかった……」


本来は《ガルダ》同様に登録しておけば、神造生命体でも敵対しない。

だが事を急ぐあまり、イーサリはそれを失念していた。

研究者の行動よりも母の想いが前に出すぎた結果ともいえた。


「それに加えて視界不良だ……恐らく鼻先で、嬢たちを脅威と感じているのだろう……」

冷静に分析を始めるイーサリ。


「間違いはわかった……だがどうする? もう壊すしかないのか?」

セディオスは方針を決めるために声を出す。


「駄目だよ! 折角ここまで連れてきたんだよ!」

「あの子だって、起きたばかりで怯えてるだけかもしれないじゃん!」


ライナはその言葉に反論する。まだ見捨てるには早いと告げていた。


「ライナ……ですが、この状況では……」

妹分の想いがわかる反面、打開も必要と思案するルゼリア。


「ひとまず、外に出しましょう! この工房の裏は広い道なんです、そこでなら安全に戦えます」

周囲の面々を見ながら言うティセラは全員に提案した。


「良し、それでいこう! あいつを追い出すぞ!!」

セディオスはその提案に頷き、双剣を握りしめた。


工房の奥では術具士たちが息を潜め、誰一人として工具を鳴らさなくなっていた。

ここで踏み違えれば、再会の場はそのまま惨劇に変わる。


「で、どうやってデカイ扉を開けるんだ?」


「扉の横にボタンがあるので、それを押せれば自動で開きます」

《ドロモス》を見つめながら、セディオスとティセラは短く言葉を交わした。


「赤いボタンだよね? 僕が押しに行くよ!」

目がいいライナは、遠くのボタンの色を言い当てた。


「ティセラ、指示をお願いします」

ルゼリアは指揮をするのに長けたティセラに促す。



ティセラは思案し、決めた。

「セディオスとルゼリアは、結界が解けた瞬間に《ドロモス》へ渾身の一撃を叩き込んでください」


「やるしかないな……」

「了解です」

セディオスとルゼリアは頷いた。


「その隙にライナは最速で扉のボタンを起動してください」

「わかった!」

大事な役割と理解し、勇んで返事する。


ティセラは家族の役割に応じた指示を的確に出していく。

まだ決め手に欠けるこの作戦。


さらに――


「そして……イーサリさん、《ガルダ》に《ドロモス》を外に連れ出す指示をお願いします」

《ガルダ》の助力も必要であるため、イーサリにも指示を出した。


「……承知した……」

愛する子に睨まれ、緊張するイーサリは何とか返事をした。


「作戦――開始!!」


ティセラが号令を掛け、同時に正面の結界をパキンと解く。

そして、すぐさま自身の背後に再展開し、ガンゴたち術具士集団の守護に回した。


剣士が獅子めがけて駆ける。

既に身体強化を付与していた。


「ルゼリア! 頼むぞ!!」


「はあぁぁぁッ! バァーーーーニング・デクリエイト!!」


赤毛の少女は、《フレア・クリスタリア》を『紅蓮双輪』へと変え、一点集中の極太炎熱線を放った。

セディオスはその射線から離れ、獅子へ穿たれる炎を横目に踏み込んだ。


それに対する《ドロモス》。

キュイィィィ――ン! ドォォン!!


背部の巨砲が同時に唸り、〈バーニング・デクリエイト〉を迎え撃つ。

バアァァンと打ち合い、衝撃音が反響する。


その隙に――

「吹き飛ばすぜ! グランド・テンペスト!!」


セディオスは叫びながら、二刀を《双詠大剣アルディス》へと合体させ、暴風の一撃を見舞う。

それは獅子の顎を仕留め、僅かにのけ反る。


「ガウッ!」


《ドロモス》は呻きながらも、左足を踏みつけ、氷杭をセディオスの足元に突き出させた。

その動きを見たセディオスは横に飛びのく。



獅子との攻防が始まったと同時にライナは疾駆していた。

「エレクトロ・ダッシュ!」


脚に雷速を付与し、最速を目指す。

脚を踏み出すたびに紫電がほとばしっていた。



獅子は敵を視認できていなかった。

鼻先で感じるのは、目の前の三人の敵と、横を走り抜ける一人の敵――熱と魔力だけだった。


指令が巡る――全て殲滅せよ、と。


獅子は口を開け、空気を限界まで吸うと、火炎放射を吐き出す。

同時に腹の複眼で蒼の少女を見やると、四連の多列魔導銃を向けて撃ち始めた。


「させませんよ! ミメシス・アークレイ!!」


ティセラは右手を向け、自身の正面とライナに結界を同時に展開する。

火炎放射は阻まれ、銃撃がライナに届くことはなかった。


「もう少し!」


ライナはまっすぐに駆ける。

ティセラの守護を信じて、だけを見ていた。


ほどなくして――


「ひっ! らっ! けぇぇ!!」

扉の開閉ボタンを見事に押した。


ガコン!! ゴゴゴゴゴ―――と裏手に続く大扉が左右に開いていく。


それを見たイーサリは精一杯の声で叫んでいた。

「《ガルダ》! 《ドロモス》を外に出せ!!」


どうしたらいいかわからずに、オロオロしていた《ガルダ》はその声を指令として受け取った。


「クエェェェェ――――!!」


一声鳴くと、ダン!ダン!と走り、低く飛翔。

《ドロモス》の尻尾を爪で掴んだ。


そのまま噴出口の推力を高め、獅子を引っ張る。


「ガオォォッ!」


突然の衝撃に吠える獅子。

放置していた魔力波長の高まりを感知し、新たな敵と認識した。

爪を立て、床に突き立てて反抗する。


「キュエェェェェ――!!」


ひときわ大きく嘶くと推力を最大に高め、ゴウッ!!という風鳴りと共に外へ引きずり出した。

工房の床は引き裂かれたが、《ドロモス》は裏手の大きな道――滑走路へと投げ出された。


「やった!」

ティセラは歓喜の声を思わず出した。


「さて、ここからが本番です!」

すぐさま自身を引き締めるように言い放った。


滑走路に出された《ドロモス》は、見えない黒い眼で《ガルダ》を睨む。

滞空する《ガルダ》は《ドロモス》を見下ろしていた。


獅子対大鷲。

兄弟喧嘩――その名の戦いが、幕を開けようとしていた。


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