◆第275話:ドロモス鎮圧作戦開始◆
獅子型ゴーレム《ドロモス》は目覚めた。
だが、完全ではなかった――本来、双眸に映る魔法陣は定まらず、目が見えていなかった。
グルゥゥゥ――と唸り続ける《ドロモス》。
それは威嚇であるものの、強敵たちに対してすぐに攻撃に移れないようでもあった。
「イーサリさん! イーサリさんッ!!」
ティセラは隣に立つ、唖然として立ちすくんでいるイーサリに声を掛ける。
「はッ! す、すまない……」
何とか意識を手繰り寄せ、混乱する状況を整理する。
そして、思い当たる。
「小生の手落ちだ……焦っていた……嬢たちの魔力波長を登録していなかった……」
本来は《ガルダ》同様に登録しておけば、神造生命体でも敵対しない。
だが事を急ぐあまり、イーサリはそれを失念していた。
研究者の行動よりも母の想いが前に出すぎた結果ともいえた。
「それに加えて視界不良だ……恐らく鼻先で、嬢たちを脅威と感じているのだろう……」
冷静に分析を始めるイーサリ。
「間違いはわかった……だがどうする? もう壊すしかないのか?」
セディオスは方針を決めるために声を出す。
「駄目だよ! 折角ここまで連れてきたんだよ!」
「あの子だって、起きたばかりで怯えてるだけかもしれないじゃん!」
ライナはその言葉に反論する。まだ見捨てるには早いと告げていた。
「ライナ……ですが、この状況では……」
妹分の想いがわかる反面、打開も必要と思案するルゼリア。
「ひとまず、外に出しましょう! この工房の裏は広い道なんです、そこでなら安全に戦えます」
周囲の面々を見ながら言うティセラは全員に提案した。
「良し、それでいこう! あいつを追い出すぞ!!」
セディオスはその提案に頷き、双剣を握りしめた。
工房の奥では術具士たちが息を潜め、誰一人として工具を鳴らさなくなっていた。
ここで踏み違えれば、再会の場はそのまま惨劇に変わる。
「で、どうやってデカイ扉を開けるんだ?」
「扉の横にボタンがあるので、それを押せれば自動で開きます」
《ドロモス》を見つめながら、セディオスとティセラは短く言葉を交わした。
「赤いボタンだよね? 僕が押しに行くよ!」
目がいいライナは、遠くのボタンの色を言い当てた。
「ティセラ、指示をお願いします」
ルゼリアは指揮をするのに長けたティセラに促す。
ティセラは思案し、決めた。
「セディオスとルゼリアは、結界が解けた瞬間に《ドロモス》へ渾身の一撃を叩き込んでください」
「やるしかないな……」
「了解です」
セディオスとルゼリアは頷いた。
「その隙にライナは最速で扉のボタンを起動してください」
「わかった!」
大事な役割と理解し、勇んで返事する。
ティセラは家族の役割に応じた指示を的確に出していく。
まだ決め手に欠けるこの作戦。
さらに――
「そして……イーサリさん、《ガルダ》に《ドロモス》を外に連れ出す指示をお願いします」
《ガルダ》の助力も必要であるため、イーサリにも指示を出した。
「……承知した……」
愛する子に睨まれ、緊張するイーサリは何とか返事をした。
「作戦――開始!!」
ティセラが号令を掛け、同時に正面の結界をパキンと解く。
そして、すぐさま自身の背後に再展開し、ガンゴたち術具士集団の守護に回した。
剣士が獅子めがけて駆ける。
既に身体強化を付与していた。
「ルゼリア! 頼むぞ!!」
「はあぁぁぁッ! バァーーーーニング・デクリエイト!!」
赤毛の少女は、《フレア・クリスタリア》を『紅蓮双輪』へと変え、一点集中の極太炎熱線を放った。
セディオスはその射線から離れ、獅子へ穿たれる炎を横目に踏み込んだ。
それに対する《ドロモス》。
キュイィィィ――ン! ドォォン!!
背部の巨砲が同時に唸り、〈バーニング・デクリエイト〉を迎え撃つ。
バアァァンと打ち合い、衝撃音が反響する。
その隙に――
「吹き飛ばすぜ! グランド・テンペスト!!」
セディオスは叫びながら、二刀を《双詠大剣アルディス》へと合体させ、暴風の一撃を見舞う。
それは獅子の顎を仕留め、僅かにのけ反る。
「ガウッ!」
《ドロモス》は呻きながらも、左足を踏みつけ、氷杭をセディオスの足元に突き出させた。
その動きを見たセディオスは横に飛びのく。
獅子との攻防が始まったと同時にライナは疾駆していた。
「エレクトロ・ダッシュ!」
脚に雷速を付与し、最速を目指す。
脚を踏み出すたびに紫電がほとばしっていた。
獅子は敵を視認できていなかった。
鼻先で感じるのは、目の前の三人の敵と、横を走り抜ける一人の敵――熱と魔力だけだった。
指令が巡る――全て殲滅せよ、と。
獅子は口を開け、空気を限界まで吸うと、火炎放射を吐き出す。
同時に腹の複眼で蒼の少女を見やると、四連の多列魔導銃を向けて撃ち始めた。
「させませんよ! ミメシス・アークレイ!!」
ティセラは右手を向け、自身の正面とライナに結界を同時に展開する。
火炎放射は阻まれ、銃撃がライナに届くことはなかった。
「もう少し!」
ライナはまっすぐに駆ける。
ティセラの守護を信じて、だけを見ていた。
ほどなくして――
「ひっ! らっ! けぇぇ!!」
扉の開閉ボタンを見事に押した。
ガコン!! ゴゴゴゴゴ―――と裏手に続く大扉が左右に開いていく。
それを見たイーサリは精一杯の声で叫んでいた。
「《ガルダ》! 《ドロモス》を外に出せ!!」
どうしたらいいかわからずに、オロオロしていた《ガルダ》はその声を指令として受け取った。
「クエェェェェ――――!!」
一声鳴くと、ダン!ダン!と走り、低く飛翔。
《ドロモス》の尻尾を爪で掴んだ。
そのまま噴出口の推力を高め、獅子を引っ張る。
「ガオォォッ!」
突然の衝撃に吠える獅子。
放置していた魔力波長の高まりを感知し、新たな敵と認識した。
爪を立て、床に突き立てて反抗する。
「キュエェェェェ――!!」
ひときわ大きく嘶くと推力を最大に高め、ゴウッ!!という風鳴りと共に外へ引きずり出した。
工房の床は引き裂かれたが、《ドロモス》は裏手の大きな道――滑走路へと投げ出された。
「やった!」
ティセラは歓喜の声を思わず出した。
「さて、ここからが本番です!」
すぐさま自身を引き締めるように言い放った。
滑走路に出された《ドロモス》は、見えない黒い眼で《ガルダ》を睨む。
滞空する《ガルダ》は《ドロモス》を見下ろしていた。
獅子対大鷲。
兄弟喧嘩――その名の戦いが、幕を開けようとしていた。




