◆第271話:潮刃隊の歓迎◆
海門港ペラギアへ向かう『魔導船フォルネア号』は丸一日海を駆けていた。
自動馬車のように指示通りの航路を守り、眠ることなく、疲れることなく進んでいた。
そして、ようやく目的地に到着する。
巨大な防壁に囲まれ、唯一の大門が設置されている。
現在は開放され、交易船や漁師船が列をなして滞留していた。
「凄い光景だな……港ってこんな感じで渋滞するのか?」
「まるで街に入場する際の検閲待ちのようですね」
「すごいねえ。あ、小さい船があちこちで近寄っているね」
ペラギア港への入場を待つ魔導船の甲板では、セディオスらは"港内警備艇"が検閲していく姿を見守っていた。
その最中、『魔導船フォルネア号』に向けて、中型の船が近づいていた。
明らかに戦闘用の兵装を備え、その船の側面には魔法式を文様化した装飾が見えた。
意匠として、司令官艇と判断できた。
「近づいてくるあの船ですが……ただならぬ感じです」
「……お偉いさんでも乗ってそうだな……」
ルゼリアとセディオスはフォルネア号に横付けし、縄梯子で乗り込んでいく軍服の集団を見ていた。
「僕たち何かしたかな?」
少し不安になるライナ。戦具を取り出そうか迷ってる様子だった。
「ライナ、少し待て。まずは話を聞いてからだな」
セディオスは察して、状況確認から開始と告げていた。
ほどなくして――
甲板に深い海を想起させる紺の軍服を纏った集団――『潮刃隊』が整列していた。
その中で、上官と思わしき人物と回収班隊長のレコが会話をしているようであった。
セディオス・ルゼリア・ライナの前に十四名の海人族が隊列を成した。
レコがこちらへ駆けてきた。セディオスの隣に立つと耳打ちを始める。
「珍しい状況っす。ペラギア警備を行っている『潮刃隊』の本隊が直々に検閲に入ってきたっす。しかもこの都市の管理官も同席っすね……」
「……テルティウス……様は書状を送っているんだよな?」
フォルネア領主の名にギリギリ敬称を付けて言い放つセディオスは、警戒を始めていた。
(俺たちはゴーレムを護送してきただけだが……まさか、ルゼリアとライナが"神の子"だと悟られてないよな……)
セディオスは炎雷の姉妹を一瞬だけ横目で見る。
見た目はただの少女だが、その実は神との戦争で世界を震撼させた神造生命体。
もしそれがバレているようであれば、闘争も考慮に入ると考えていた。
それは、大事な家族を護るための行為であり、当然の思考の帰結でもあった。
セディオスの緊張がルゼリアとライナにも伝わる。
《アペリオ》をいつでも起動できるよう構えていた。
すると――
「仰々しくして申し訳ないであります」
目の前の屈強な警備隊の背後から澄んだ声で謝罪が聞こえた。
その声を合図に警備隊が左右に六名ずつに分かれ、隊列中央から若い女性と中年の男性が歩み出てきた。
「自分はタラッサ、このペラギア全体の管理者を任されているであります」
軍人らしい礼を行うタラッサ。
それに続くは――
「小官はナギロと申す。目の前の『潮刃隊』警備隊長を任されておる」
タラッサ同様に礼をするナギロであった。
「こちらフォルネア領主より依頼を受けたセディオスだ。横の赤髪がルゼリア、青髪がライナと言う、管理者からの直々の検閲ありがとうございます」
セディオスは外面を少し良くすために恭しく自己と姉妹の紹介を行い、騎士の令で締める。
それを横目で見ていた姉妹は、ぎこちなく礼をしていた。
その姿に微笑みを見せるタラッサ。
「そう身構えなくてよいであります。エクリナさんとティセラさんのご家族で間違いないでありますね?」
確認するように、タラッサは二週間前に挨拶を交わした二人の名前を出していた。
「お二方のご家族にひとこと礼を言いたくて来たであります」
「「「!?」」」
少し、砕けて話すタラッサに驚く三人。
「警備隊長のナギロを始め、潮刃隊の面々がお二方にお世話になったと聞いているであります」
タラッサはナギロからアーク駅での騒動の報告を聞いており、事態を収拾したエクリナらの家族に礼を言った。
(世話になった? 何したんだエクリナは……)
(エクリナ……何か偉業を成したようですね)
(王さまが褒められている!)
告げられる称賛に三者三様で想う。
「エクリナとティセラが無事なようで安心した」
セディオスはその言葉に短く返した。
「時間も迫っているため本題に入るであります」
挨拶もそこそこに検閲を始めると宣言した。
「船底に保管されている"機密貨物"を拝見させて頂きたいであります。テルティウス様より連絡は受けておりますが、魔導列車で搬送できるのかの確認が必要であります」
タラッサは本来の目的を告げていた。
「レコ、案内を頼めるか? 俺たちも付いてく」
「わかりましたっす。自分についてきてくださいっす」
レコは丁寧に先導し始めた。
◇
魔導船の船底に向かう最中、ナギロがセディオスに近づいていた。
「その節は貴殿の家族に本当に助けられた。もしエクリナ殿とティセラ殿がいなければ、外交すらもなかったことになっていただろう……亜人属としては恩人であると思っている」
真面目な軍人は改めて礼を言っていた。
「うちのエクリナたちは何をしたんだ? そこまで認められるとは……」
セディオスはナギロに砕けた口調で話をする。
「今後の目的地になるアーク駅にて、それぞれの使節団が誤解により一触即発の危機に直面したのだ。外交の席ゆえ、ひとつ間違えれば、外交断絶にも繋がったと想定いたす」
ナギロは簡潔にセディオスに事の次第を伝える。
その言葉にセディオスだけではなく、ルゼリアとライナも振り返る。
「その際にガンゴ殿が身を挺して囮となり、エクリナ殿が制圧、ティセラ殿がフォルネ使節団の守護をされて、ことを収めてくれた。その後外交が再開でき、今に至る。誠に素晴らしい制圧であった、小官も含め恐怖で警戒するのがやっとであった」
エクリナとコルネ(ヴォトカスト)の戦いを思い出しながら、ナギロは少しだけ身震いをさせていた。
その声が聞こえている潮刃隊の面々は小さく頷いていた。
「……詳しくは本人たちに聞くが、何とかうまくいったようで良かった」
その光景を目にし、ねぎらうセディオスであった。
「もうすぐ到着するっす!」
先導していたレコが目的地到着を連絡していた。
潮刃隊たちの目の前に現れるは巨大な木箱、というよりは簡素な家のように見えた。
「……これは。大きいでありますね……ナギロ、列車の客車を最低数まで減らして最後尾で引くようにするであります」
タラッサが思案し、ナギロに指示を出す。
「承知いたした。寄港する場所は魔導列車に近いところとし、馬の数を倍にいたす」
タラッサの指示を具体化し返答する。
「ガゼ! 先行し準備を進めよ」
中隊長の一人ガゼは、「ハッ!」と返事をすると素早く行動した。
タラッサは実務をナギロに任せる。
「セディオス殿、ある程度準備はしていたでありますが、少々時間が掛かるであります。本日中には出立できるようにしますのでよろしくお願いであります」
タラッサはドロモスが入った巨大箱を確認する潮刃隊を横目で追いつつ、セディオスに伝えていた。
「ああ、よろしく頼む。俺たちも早く家族の顔が見たいのでな」
微笑みながら返事をするセディオス、人属と違って偉ぶらない管理者に少しだけ気を許していた。
「いよいよアークに行けるんだね」
「ええ、ようやくエクリナとティセラに会えます」
ライナとルゼリアは少し慌ただしくなった船底を見て言葉をこぼした。
眠っている獅子の搬送準備が進んでいく。
次回は、『6月7日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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