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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第三章:静穏と影の狭間

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◆第24話:新天地へ ――協力という名の家族の形◆

翌日——早朝の館。

五人は再び広間に集まっていた。

ルゼリアの描いた魔法式の配置図が、机いっぱいに広げられていた。


「空間重心をずらすための補助陣は、ここからここまで。総数で十二ヶ所、全周囲に設置します」

「うん……なるほど。距離と配置、だいたい頭に入ったよ」


ルゼリアの解説にライナが配置図を覗き込み、真剣な顔でうなずく。

隣ではティセラが魔導術具を並べて、最終調整に入っている。


「制御魔晶の安定性、向上させておきますね。これなら、少しの誤差にも耐えられるはずです」

「はい、それでお願いします。式の展開は私の方で主導します」

「我は中央制御陣に魔力を流し、全体の統括も行うとしよう」


セディオスはそんな四人の間を軽やかに行き来し、差し入れの軽食と水を配る。

「はい、クッキー追加。ルゼリアにはハーブティーもあるよ」


「ふむ、助かるぞ」とエクリナが笑顔をこぼす。

「ありがとう、セディオス」とライナが礼を言う。


誰もが持ち場をこなし、何も言わずとも呼吸を合わせる――

その姿は、まさしく“家族”としての在り方そのものであった。


 ◇


昼頃――

ライナとセディオスは共同で館の外壁を回っていた。


「配置図的にはここだな」

セディオスが図面を見てライナに告げる。


それを聞いたライナは、《次元重層収納ミディア・アーカイヴ》から『ディメンション・リアロケート』の補助端末を取り出す。

それを外壁に押し付けると、ガガガッと端末の側面からトゲが伸び、外壁に突き刺さる。

外装にはめられた魔晶が、淡く点滅を始める。


「うお! こんな感じで付くんだ……」

初めての設置ということもあり、驚くライナ。

「ほう、これで設置は完了らしいな」

ティセラから渡されたメモを見て確認するセディオス。


「あと十一個だね、行こ」

残り数を確認し歩き出す二人。



「あのね……セディオス……」

言いづらそうに声を掛けるライナ。

「ん? どうした?」

聞くセディオス。


「こんなことになってごめんね。あの時は、なんか……その……ね」

言葉にならない思いを、どうにか口にしようとするライナ。


「気にすることなんてないさ。まあ、エクリナは怒っていたが、姉妹喧嘩なんて普通だ」

「それに――追っ手が来てしまった。全部、二人が悪いわけじゃないよ」

「その結果が、引っ越しだとしても、だ」


「最近エクリナが『賊が多い!』ってぼやいていたからな。引っ越しはちょうどいいだろう」

セディオスは穏やかにライナに告げる。


「でも、王さまが好きな平穏を壊しちゃったし……」

ライナは、自身の行いが周囲の迷惑になっていることを自覚し、自責の念が強かった。


「確かにそうだな」


セディオスは静かに同意する。

それを聞いたライナは「ビクッ」と肩を震わせた。


「それを自覚したのだからいいんじゃないか? それにエクリナが本当に好きなのは『家族』がいる日常だ」

「しっかりとした成長を見せればいいんだよ」

セディオスは続けていった。


「そうなんだ……」

「ねえ、セディオス。どうしたら『成長』って見せられるかな?」

ライナは折角だと思い、意を決して聞いてみることにした。


「それは……分からないな!」

あっさり回答を放棄するセディオス。


「ええ~!セディオスでも分からないの!?」

いつも頼りになるセディオスが回答を持ってないことに驚愕する。


「ははっ!俺だって『成長』の途中だし、そもそも内面の成長は見た目じゃ分からないんだよ」

「だから、今みたいにできることをして『今の自分』を見てもらおう」

館の主は、自身の気持ちを素直に吐露していた。


「うん、分かった! ありがとうセディオス!」


セディオスの言葉に励まされるライナは少しだけ、心のモヤモヤが晴れていた。

そんな彼女の横顔を見ながら、セディオスは心の中で苦笑する。


(俺だって、エクリナたちの前で胸を張っていられるほど、成長しきれているわけじゃないさ)


「ああ、一緒に頑張ろう! お、そろそろ次の設置場所だな」

「うん! 僕……王さまの役に立てるように頑張るから!」


二つ目の設置場所にたどり着く二人。

ライナは新たに補助術具を取り出すと作業を再開していた。


 * * *


同じ頃――

ルゼリアとティセラは居間で『ディメンション・リアロケート』の補助端末の最終調整を行なっていた。

端末に刻まれた魔法式の確認を一つ終えると、ティセラをちらちらと窺うルゼリア。


「ティセラ……その……先日は申し訳ありませんでした」

隣で端末に魔力を込めているティセラへ声を掛ける。


「ふふ、いいんですよ。まあ、庭は焼き尽くされ、抉られ、おまけに外壁が破壊されましたけど♪」

意地悪く言うティセラ。


「うっ……本当に申し訳ないです……」

謝ることしかできないルゼリアだった。


「あ、冗談ですからね!もう、ルゼリアは真面目過ぎるんですから……」

「でも、それがいいところじゃないですか」


作業の手を止め、ルゼリアへ向くティセラ。


「今回、私はライナの気持ちを理解してあげられませんでした。あんなに『姉』と言ってくれるのに私は……」

自身の至らなさを嘆くルゼリア。

姉として慕われている以上、求めに応じられなかったのは、非常につらかったようであった。


「……ルゼリアにも『姉』がいるじゃないですか。頼れる王が」

「相談しても良かったと思いますよ……」

ティセラは、まるで当たり前のことのように言った。


「いえ!あのような些事……王を頼るわけには……」

ライナとの諍い自体を些事と言い退けるルゼリアであった。


「わたしには重要な家族のことだったと思います。エクリナが怒ったのは……きっと、そういうところなのだと思います……」

と優しく、しかし鋭く言うティセラ。


「ぐうっ……そうかも……しれませんね」

「王……エクリナは私にとって、命の恩人であり、師であり、憧れです。迷惑を掛けたくないと思いすぎたのかもしれませんね」

「頼りたいのに、頼ることを自分で禁じていたのは……私の方だったのかもしれません」


なんとなく理解したルゼリア。


「ええ、エクリナは家族を大切にします。今度は相談しましょうね、ルゼリア姉さん♪」

ティセラはからかうように言った。


「ふふ、そうですね。ただ、ティセラ、今のは悪乗りが過ぎてませんか?」

同意しつつ窘めるルゼリアであった。


扉の陰からこっそり様子をうかがっていたメイドは、その場からそっと離れた。

離れ際、小さく口元がほころんだことに、本人も気づいていなかった。


  ◇


夕暮れ過ぎ――


全ての準備が終わり、庭に集まる五人。

そこには巨大な魔法陣が描かれており、中央には《魔杖アビス・クレイヴ》と《魔盾盤ヴェヌシエラ》を携えた『魔王』が立っていた。

館の周囲に設置された十二の魔導術具が、淡く輝きを放っていた。


「全周囲、展開完了。制御端末も接続済みだよ!」

ライナが最後の接続を終えると同時に、空気が震え始めた。


「中央核、術式起動まで十秒……」

ティセラが静かにカウントを始める。


「……皆、我が声に従え。これより……空間跳躍を行う!」


エクリナが手を掲げると、術具が連動して蒼い光柱を放ち始めた。

天まで届くかのように伸びていく。


その途端——ズ、ズズンッ!

外壁に設置した十二個の補助端末が、大地を丸ごと抉り取っていく。

転送される館の周囲が、世界から切り離されていく。


ゴゴゴゴゴゴ――――と、地鳴りが発生する。

「うわ!」「皆気を付けろよ!」「大丈夫なはずです!」「落ち着きましょう!」


体験したことのない大地の揺らぎに浮足立つ四人。

転移魔法を制御しているエクリナだけが、深く集中し落ち着いていた。


ゴゴゴ――――と地鳴りが響き渡る。

その揺れは増し、もはや立っていられないほどに揺らぎ始める。

ついに四人は庭に膝を付いた。


バッチ―――――ンッ!

大地が脈動し、空間がねじれる音が響く。


「この一歩は、我らの新たな日常への一歩でもある。恐れず、胸を張って進め」

「さあ、行くぞ! ディメンション・リアロケート、発動!」


術式が炸裂する――

まるで世界の“断片”が切り離され、ふわりと浮かび上がるような感覚。

視界が反転し、音も感覚も数秒間消える。


そして――バッシーンッ!!


どこかに着地したらしく大地がひときわ揺れると、浮遊感がなくなった。

鳥たちが飛び立ち、獣たちの鳴き声がそこかしこから聞こえる。

だが、それはすぐに収まった。


「……成功、ですかね?」


と、ティセラがおそるおそる呟き、空間の静寂を破った。

庭の外へ出ると、そこには――


深緑の森と、水のせせらぎが響く静かな大地。

澄んだ空気が肌に触れ、どこまでも青と橙が織り交じった空が広がっていた。

少し離れたところには大きな湖や草原が見えた。


「移動座標、完璧です。転移誤差もありません。ここにあった大地とも、しっかり融合できています」

ルゼリアが術具を確認しながら報告する。


「すっごい……本当に、誰もいない」


ライナが目を丸くして辺りを見回す。

人の気配はまったくない、まさに“誰にも邪魔されない場所”。


「いいところじゃないか。これぞ、隠居生活にぴったりだな」

セディオスも気に入ったようであった。


「ふむ、悪くない」

エクリナは静かにうなずき、風に髪をなびかせながら言葉を重ねた。

「この地を、我らの新たな居城の地とする。ここから再び始めよう。平穏と……もし来るならば、嵐と共に」


彼女の言葉に、誰もがうなずいた。

前代未聞の大引っ越しは成功に終わりを告げた。


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