◆第268話:転移門への挑戦◆
エクリナらが幻環山ミラネリオンを目指して丸一日が経過していた。
霊機自治区アークでは、眠りについている大鷲ゴーレム、ガルダの修繕作業が進捗していた。
名匠ガンゴが檄を飛ばし、フォルネアとアークの魔導術具士たちは腕を大いに振るっていた。
人造魔核に備えられた往路復路の魔導管が丁寧に交換されていく。
ドワーフのブロムはガンゴの技術力を見つつ、自身の技術も教えていた。
ガルダの目覚めの時が確実に近づいていた。
そんな最中――大型開発工房の出口門の前でティセラは唸っていた。
「う~~ん……うまくいきませんね……」
眼前には黒い柱と梁で鳥の巣のように組み合わされた門のような骨組みがあった。
柱にはマナ収集機とマナ補充機が接続され動力源としての役割を持っていた。
ブロムたちの班が主導で、大型術具としての形を成すことはできていた。
しかし、ティセラが思っている動作にはたどり着いていなかった。
「館の転移扉の大型化……魔力源にマナ……改良した空間魔法式……構想は同じはずなのになんで動かないのでしょう……」
制御術具の画面を見ながら、ひとりでぶつぶつと考察を繰り返すティセラであった。
ティセラが構築しているのは館で使用している転移用の扉を基にした『転移門』であった。
転移扉は、遠い場所に旅に行ったり、買い物したりと生活を豊かにするために空間魔法を研究して誂えた逸品であった。
イーサリと話す中でゴーレムたちを遠征として移動する手段として構築を依頼されており、転移扉の技術を応用・大型化しようとしていた。
「うまくいかないのだな」
そう声を掛けるのはエルフの研究者イーサリだった。
「そうなんですよ……そもそも起動時間が短い、転移の裂け目が小さい、と課題が出てるのですが、どちらも解消できなくて……」
転移扉の大型化という大仕事。
マナ運用という未知の技術を取り入れ安定稼働を模索するも、うまくいっていなかった。
「マナ不足か?……単純に出力が足りてないかもしれない」
イーサリは転移門を見ながら思案する。
空気中のマナを収集する『マナ収集機』と大地より徴用したマナを保管した『マナ補充機』を四基ずつ、計八基を備えても十全には動いていないと考えた。
「そうなんですかね……設計想定よりもマナを多く使用するのかもしれませんね」
「ゴーレムたちは大きいからな、それに合わせて構築してもらったが、この大きさは実例がないな。大型化により、必要な要素が増えたのかもしれない」
ティセラとイーサリは意見を出し合い解決策を模索していく。
「試しに駆動源を倍にしてみるか、少し時間をくれ」
そういうとイーサリはその場を離れ、『マナ収集機』と『マナ補充機』を探しに行く。
道中でブロムに声を掛け、ウシ族やクマ族の若いのを何人か引き連れて工房の外へ出ていた。
「大型化……単純ではないですね……」
ティセラは五メートル近くもある天井を見つめ、少しぼやいていた。
◇
一時間後――
イーサリたちはオオトカゲ車に乗り、そのまま転移門の前まで運んでいた。
「ティセラ嬢、待たせたな。とりあえず、追加で十基集めてきたぞ」
イーサリはオオトカゲ車から降り、ティセラに駆け寄る。
「ありがとうございます! では早速繋げてみましょう」
ブロムたちが荷車から次々と『マナ収集機』四基と『マナ補充機』六基を下ろしていく。
転移門に接続していた同じ機器の隣に陳列をした。
ティセラは準備していた魔力導管を手早く繋いでいく。
イーサリも加わり、計十八基の『マナ収集機』と『マナ補充機』が輪になるように接続された。
急いで行ったため、皆汗だくになっていた。
それぞれが汗をぬぐうと――
「では、実験開始です!」
ティセラが宣言し、制御術具を操作していく。
タンタンタンと、小気味よいテンポで押しボタンを押し続ける。
空中の画面には次々と魔法式が現れ、転移門に刻まれていく。
そして――タンッ!と、ひときわ大きく音を立てながらボタンを押し終えた。
転移門の柱や梁からゴウンゴウンと重低音が響き出す。
その音を聞き、離れて作業をしていたガンゴたちも近づいてくる。
「今度は成功するといいな」
ティセラが苦悩している姿を見守っていた師匠は柔らかな声を掛ける。
「だといいのですが……」
既に起動に四度も失敗しているティセラは、不安でしかなかった。
ほどなくして、制御術具からの魔法式転送が完了した。
転移門から鳴っていたゴウンゴウンという音は、いつしかゴンゴンゴン――と何かを訴えるような音に代わっていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――――!!!
そして――
ドンッ! ダァァァ――――――ァン!
と雷が落ちたような怒号が起きると、一瞬だけ空間の裂け目が見えた。
空気が“裏返る”感触が走り、鼓膜が遅れて悲鳴を上げた。
だが、破裂するように霧散し、その余波が工房内を襲う。
「いけない!」
ティセラは《瞬装環アペリオ》を煌めかせ、《ソリッド・エデン》を四基異空間より取り出す。
「ミメシス・アークレイ!」
手をかざし、転移門周辺を包むように結界を展開する。
起動失敗の余波は結界内に封じ込められ、暴風雨のようなものが渦巻いていた。
門の梁は吹き飛び、接続していた『マナ補充機』が、ボンボンッ!と爆鎖していく。
ティセラの判断が遅ければ、工房内の人々は無事では済まない損壊であった。
「あ、危なかった……」
何とか皆を護りきれたことに安堵するティセラは周囲を見渡した。
損壊した転移門に釘付けとなる面々。
ここまでの大失敗は無かったことから、自分たちの責務を思い知ることにも繋がっていた。
ティセラは結界の外、仲間の人数を無意識に数えていた。
「す、すみません……」
恐怖の顔で埋め尽くされる空間を見て、謝罪をするティセラは非常に申し訳なさそうな顔をしていた。
すると――
「天才弟子のティセラでも失敗するか……次はうまくやろうや、儂も協力するぞ!」
ガンゴはティセラの背中をバンッと叩き、励ましの声を掛ける。
「一旦、基礎から見直そうか。小生にもできることがあるやもしれない」
イーサリはティセラの頭をなで、微笑んでいた。
その声に惹かれるように転移門の構築に参加する術具士たち。
新たな技術に失敗はつきもの、誰も責めたりはしなかった。
ティセラの挑戦は仲間が集い、奮起して進む。




