↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十一章:繋がる世界、重なる咆哮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
287/346

◆第267話:歌姫クリシュニアの実力◆

水都ヴェルミオラの昼下がり――

セディオス・ルゼリア・ライナは都市部の中央、噴水が見える大広場の長椅子に腰かけていた。

三人とも腹をさすり、一日の中盤にして早くも満たされた顔をしていた。


「満足しましたね。……いえ、食べすぎました……」

赤毛の少女は満足しているが、反省もしているという声を出していた。


「うん、僕もお腹いっぱい……夜も食べたいのに……」

セディオスに夜のことを注意しておきながら、思いっきり食べた青髪少女であった。


「こんなに海産物を食べたのは初めてだ……うますぎたな」

朝に買った酒は既に飲み尽くし、ほろ酔い加減の茶髪のおじさんはだらけた姿だった。


「今夜も『海の家』で夕食でしたね?」

ルゼリアは隣のセディオスにこの後の予定を聞く。


「ああ……あそこ以外に行く気がしないな。料理に酒はもちろんだが、歌を楽しめる店はあそこだけだからな」

セディオスは当然とばかりに答えた。


「ほかのお店も面白そうだけど、またあの歌を聞きたいよね~」

ライナは昨晩の歌姫の歌唱を思いだしていた。


「ならば、何か腹ごなしをしましょうか。このままでは夕食が入らないかもしれませんね」

「そういえばさ、気になってたんだけど……アレ何なのかな?」


ルゼリアが腹を減らすための相談を持ち掛けると、ライナが目に入っていた"舞台"を指さした。


「人が徐々に集まっているな……催し物かもな、行ってみるか?」


セディオスはライナが指さしている舞台に行こうと提案した。

昨日の段階で、観光名所はある程度見ていたため、新たな目的を模索しているところであった。


「いいですね、行きましょう」

「何があるのかな?」


二人はその提案に乗り、同時に立ち上がる。


「ほら、行きますよ」

「セディオス~立って」

ルゼリアとライナはセディオスの左右の手を握り、立つのを促すように手を引いた。


「まだまだ、元気だな……わかったよ」

セディオスはクスリと引かれるままに立ち上がり、そのまま舞台まで引かれていった。


舞台に近づくと、思いのほか大きかった。

簡易的に作られているようではあったが、天幕が付いており舞台に奥行きが出ていた。


舞台の上では、まだ準備中のようであった。

虹色の髪をオールバックに固め、紅いスーツに蝶ネクタイをつけた見慣れた男が、棒に取り付けられた拡声術具の高さを調整していた。


フォルネア魔導戦具祭で実況を行っていた『コモス』がそこにいた。


「ねえ、あの人って……」

「間違いないですね……」

奇抜な服装に極めつけは遠近兼用のゴーグルを掛けた姿を忘れるはずがなかった。


「あんた、ここで何しているんだ?」

セディオスが舞台下から声を掛けた。


「??」

声を掛けられ、その方向を向くコモス。


「おお! これはセディオスさんではないですか! しかもルゼリアさんとライナさんまで一緒に!」

舞台から下にヒラリと跳び下りながら言う。


「またお会いできるとは、何たる幸運! 戦具祭での華々しいご活躍は今でも鮮明に残ってますよ」

コモスは三人との再会を心底喜び、闘技場での戦いの場面を想起していた。


相変わらずの快活な話し方に少しだけ懐かしさを覚える三人であった。

二週間程度前の出来事が、遠い過去であるかのような思いであった。

それほどまでに激しい戦いだったと再認識していた。


「実はですね、本日の司会を任されましてフォルネアから出張してきたんですよ~」

コモスは自身が舞台に立っている理由を説明した。


「ほう、やっぱり何かあるんだな」

「何があるの?」

セディオスの予想は的中していた。ライナはコモスに催し物の内容を聞いた。


「この水都にはですね、歌姫がいるのですよ。普段は酒場の舞台で歌っているのですが、月に何度かこの広場で歌うことになっているようです」

「歌姫につられて、演奏者や観光客も集まるので、それなりの催しですね。二週間前くらいにもありましたが、その時は来ることができず残念でしたが、今回は予定を合わせて来訪しました」


コモスは人気者らしく、何度も呼ばれているようであった。


「なるほど、その歌姫はクリシュニアだな?」

セディオスは歌姫の名を言ってみた。


「お。ご存じでしたか。その通りです、当方も何度も聞いていますが実に素晴らしい歌声です!」

コモスは両手を組んで感激というような仕草をしていた。


すると――コモスが関係者に呼ばれていた。

「あ、呼ばれてしまいましたか……もう少しで始まりますのでお待ちください」

一礼をすると舞台の端へ掛けていった。


「クリシュニアは凄い歌姫なんですね」

「まさに街の名物! て感じだね」

ルゼリアとライナはコモスが去る姿を見ながら声を漏らしていた。


「大舞台での歌か、しばらく待つか」

「前は二週間前と言ってましたね、ちょうどエクリナやティセラが来ている時期ですね」

「多分王さまも聞いたんじゃないかな? クリシュニアとも仲良さそうだったし」


三人は雑談をしながら大舞台の開幕を待つことにした。

エクリナとクリシュニアの関係性に花が咲いていた。


 ◇


しばらくして――

コモスが舞台に立ち、拡声術具を棒ごと持つ。

既に大舞台の前には人だかりができており、今や遅しと待っていた頃合いでもあった。


「さあ、皆様! お待たせしました!」

「これより、行われるは水都の歌姫クリシュニアの単独歌唱です! 存分にお楽しみください!」


フォルネア魔導戦具祭の実況と同様に民衆の前でも堂々と話すコモスは司会進行を行っていく。

放たれる言葉に呼応するように大歓声が目の前の人々から湧き出てくる。


「素晴らしい歓声なんです。もう待ちきれないことでしょう! 早速歌姫の登場です!」

コモスは紹介を終えると、舞台袖に下がる。


入れ替わりに現れるは豪奢なドレスを纏った長身で栗色の長髪の少女であった。

相変わらずオドオドしており、大観衆を横目でチラチラ見ながら舞台中央を目指していた。


その最中――舞台前にいるセディオス・ルゼリア・ライナの姿が目に入ると少しだけ安堵しているようであった。

自身の理解者たるエクリナの家族、頑張って歌おうと鼓舞していた。


「く、く、く、クリシュニア……でふぅ……」


彼女はどもり過ぎて、自身の名を噛んでしまった。

クリシュニアは顔を赤らめて、下をうつむいた。


それを見た観衆から――


「頑張って!」

「楽しみにしてますよ!」

と、ライナとルゼリアが励ましの声を大声で掛けた。


その声をきっかけに歌姫の名を呼ぶ声が、ポツリポツリと現れる。

「クリシュニア! クリシュニア! クリシュニア!――」


その声たちに励まされる歌姫は微笑むと前を向く。

「こ、こ、こ、こなたが! 歌います!!」

古めかしい一人称で伴奏の始まりを宣言する。


クリシュニアの背後の幕が左右に分かれると、五人の奏者が楽器を手に持ち演奏を始めた。

最初の楽曲にふさわしく、アップテンポの曲であった。

その瞬間、歌姫はカッ!と靴音を鳴らし足を開く。

髪をかき上げ、長髪を耳にかけ、眼前の観客をまっすぐに見つめる。


伴奏が頂点に達しようとする中――

「此方の歌を聴け!!」


拡声術具を強く握りしめ、人が変わったように宣言する。

ひとたび歌が始まると、言葉の芯まで変わる――それがクリシュニアだった。

先ほどまでのオドオドした少女はもういなかった――眼光が鋭い歌姫が雄々しく立っていた。


歌姫のあおりに観客が一層大きな声を上げていく。

名を呼ぶ者、励ます者、手を振る者、様々に盛り上げていく。


「♪♪♪♪♪! ♬♬♬♬♬――!!」

クリシュニアが伴奏に合わせ歌い始めた。


人々は鼓舞されたかのようにさらに盛り上がっていく。

セディオス・ルゼリア・ライナも他の観客同様に盛り上がり、手を振ったり、合唱したりしていた。

水都の中央広場から爆音が鳴り響き、それを目当てにさらなる観客が集い始める。


「……♪……♪……♪……♪ ♬♬♬♬♬♬――――!!」


クリシュニアの歌唱はさらに熱を帯びる。

一瞬だけスローペースになり、声を溜めてから、一気に爆発したように解放して声を張り上げる。

観客は一層盛り上がり、「オオオーーーー!」と団結したように応える。


昼下がりの野外舞台から発せられる音は都市部の細部に届いているようであった。

生活音が一つのリズムに溶け合い、街中が一つとなり音楽を奏でているようであった。

それほどまでに歌姫クリシュニアの声には力があった。



その光景を一つの術具が大きな目玉のように空中からジッと見つめていた。

「間違いないようですね……」


魔哭神の居城、地下工房にも鳴り響く歌姫の声。

石壁が微かに震え、音だけが地上から降ってきた。


それを聞きながら、映像を見やるリゼルは確認していた。

「集音機能を付けさせて正解でした、聞くほどに驚きの効果を感じます」


昨日の一件を見て、ネヴァに徹夜で改造させた。

映像だけではなく音も転送できるようになった球型術具は、もはや万能ともいえるものに近づいていた。


「直接会いましょうかね……」

ほほ杖を突きながら怪しく嗤うリゼルは、歌姫が声を張り上げる姿をすっと見ていた。


地下工房内に響き渡る、神をも魅了した歌声。

計画がまた少しだけ前進していた。


次回は、『5月31日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

引き続き、評価・ブックマーク・感想で応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。