◆第266話:ヴェルミオラ市場観光◆
エクリナらが魔導列車で幻環山ミラネリオンへ向かっている頃――
セディオスたちは水都ヴェルミオラで一日休暇を得ており、朝から賑わう市場へと足を運んでいた。
「凄い人の数だね……なんかあっちこっちで大声が聞こえるんだけど……」
ライナは海産物が立ち並ぶ複数の区画から、手を挙げては声を張り上げる人々を見て戸惑っていた。
「これは、競りと言われる行為ですね。ああやって手を上げることで、買いたい商品の値を釣り上げていくと本で見たことがあります」
様々な本を読み漁っているルゼリアは、知っている範囲でライナに説明していた。
「最終的に一番高い値段をつけた人が購入できる仕組みです」
「へ~そうなんだ。あ、大きい魚が運ばれていった」
ルゼリアの解説を聞きながら、競りを見るライナであった。
「まあ、俺たちは競りに参加はできないらしいからな、見ているだけだな。それでもすごい光景に変わりはないけどな」
セディオスは姉妹の後ろで、補足を入れていた。
「大丈夫です、ここに来た目的は別にあるのですから」
「そうだよ~、早く行こ!」
ルゼリアは気を取り直し、ライナは移動をせがんでいた。
「わかったわかった。昨日の酒場の店主のおすすめの店を探そう」
セディオスは紙に書かれた場所を探すことにした。
けたたましい競りの区画から、屋台街へ歩みを進めていた。
「獲れたて海産物が食べられるとは、水都は違いますね」
海産物が好物となったルゼリアは楽しみにしていた。
「分け合って、いっぱい食べようね」
ライナは色んなものが食べたいと提案していた。
大型の魚から、甲殻類、軟体生物と進むたびに競りが行われる食材の種類が変わっていく。
それを横目で見るたびに三人の期待は膨らんでいく。
ほどなくして屋台街に到着すると、競りの区画とは違った騒がしさが出ていた。
既に屋台では魚や貝が捌かれ、焼く・煮る・揚げるなど様々な調理が行われていた。
まだ入り口だというのに、芳しい香りが三人の鼻をくすぐり、腹が大いにうなりを上げた。
「どれから行く? 早く食べよう!」
「まずは生食とやらを試しましょう、食材の味が楽しめると伺いました!」
ライナとルゼリアは屋台街攻略の作戦を練り始める。
「生食なら、まずはカキかカニだろうな。新鮮な時にしか食べられないし、濃厚でうまいぞ」
セディオスは自己体験談を二人に聞かせる。
それを聞き、頷く炎雷の姉妹はすぐさま目当ての屋台を見つける。
「ありました、行きましょう!」
「よし、まずはカキとカニだ!」
珍しくルゼリアが先頭で、ライナが後ろに続く。
セディオスはそれを見送ると、近くの屋台に立ち寄った。
今日ばかりは屋台街の熱気につられ、ある物が我慢ができなくなっていたのであった。
そうとは気づかないルゼリアとライナは屋台で注文を始める。
「思ったより種類がありますね……」
「おいしそう……」
目の前には、目的のカキとカニだけではなく、エビやイカなども新鮮な状態で陳列されていた。
「かわいいお嬢ちゃんたち、迷ってるなら盛り合わせはどうだい? いろんな味が楽しめるよ」
恰幅のいいおばさんが包丁を研ぎながら進めてくる。
「なるほど、その手がありましたか!」
「カキとカニ、そしてエビをそれぞれ入れたものをください」
おばさんの提案に乗り、食べたい食材を指さしていく。
「あ、このトゲトゲしたのも食べられるの? おいしいのかな?」
初めて見る黒いトゲまみれの食材を指さしてライナは聞いていた。
「それはウニだね、中に身が入っていてそれを食べるの。トロっとしておいしいよ」
おばさんはルゼリアが注文した盛り合わせを手早く作りつつ、ライナに笑顔で答えた。
「じゃあ、それも頂戴。二つね!」
ライナは指を二本見せて追加の注文をした。
「ありがとね、先に盛り合わせをどうぞ」
追加注文に礼を言いつつルゼリアにカキ・カニ・エビの盛り合わせを渡していた。
「特製の油と塩、そしてレモンを掛けてあるからね。混ぜながら食べてね」
「初めての食べ方ですね、期待してます」
笑顔で受け取るルゼリアであった。
「一件目から凄いな、飛ばしすぎるなよ?」
ルゼリアとライナの背にセディオスが声を掛けていた。
「全く問題ないですね」
ルゼリアは笑顔で振り向く、早く食べたい様子だった。
「これくらい大丈夫だよ」
ライナを半割りのウニを木皿ごと受け取り、振り向く。
二人の目には驚きの光景が映っていた。
セディオスの手には、木のジョッキがあり、泡立ちのいい大麦酒が入っていた。
肩にはお代わりらしき水筒も見えていた。
「セディオス………」
「まだ朝だよ……」
朝っぱらから酒をあおる準備をしている剣士を見て呆れていた。
「今日は休みだし、たまには……な?」
セディオスは羽目を外すのを許してほしいと、二人にお願いをしていた。
「はあ~まあ、いいでしょう。飲みすぎないでくださいね」
「まだ夜もあるからね、ほどほどにね!」
ルゼリアとライナは仕方がないと承諾していた。
いつも、真面目で頼もしい主人が水都という観光地で明らかにはしゃいでいる姿を微笑ましくも思っていた。
「隣で座って食べられるからね、自由にしてね」
屋台のおばさんが隣の横並びの椅子と机の空間を紹介していた。
「ありがとうございます、行きますよ!」
ルゼリアはおばさんに礼を言うと椅子に腰かけていた。
ライナも続いて隣に座る。
「早く食べよ!」
「俺の分も少しはくれよ!」
セディオスは二人の正面に座り、つまみが欲しいと言っていた。
ルゼリアは早速カニの脚をつまんで口に運ぶ。
ライナはカキをフォークで刺し、口に放り込む。
セディオスはエビの切り身を摘まんで食べた。
「「「!?」」」
口に入れた瞬間、海の冷たさが舌に広がった。
同時に噛みしめ、口いっぱいに潮の風味が襲ってくる。
咀嚼が止まらず、惜しみながら飲み込んだ。
「これは美味です!」
「すっごい濃厚だね!」
「生だと甘みが強いな!」
ルゼリア・ライナ・セディオスはたったの一口で、生食の虜になっていた。
さらに追加で買ったウニも三人で分け合う。
「潮の香りが強いですね!」
「ほんとにトロっとしてる!」
「こいつは酒が進むな!」
初めてのウニも気に入りご満悦の三人だった。
あっという間に最初の屋台料理を食べきってしまった。
「次は焼き物ですかね?」
「いいね、あっちのイカが気になってたんだ~」
次は焼き物屋台に目的地に定める二人。
「楽しみだな、行くぞ!」
セディオスも焼き物の口になったらしく同意した。
ヴェルミオラ市場観光は始まったばかりだった。
魅惑の食べものたちが三人を待ち構えていた。




