◆第264話:マナ運用会議◆
朝の会話を楽しんだエクリナたちは、一路、迎賓館へ向かっていた。
自治区アークとアーク駅の中間に位置する、来賓客を迎える豪奢な建物。
そこの大会議室に再び集合する運びとなっていた。
アーク使節団側は、リンデを筆頭にシルヴァとコルネが赴いていた。
フォルネア使節団側は、ヴァレンシアを筆頭にガンゴ・エクリナ・ティセラが代表と護衛として集まっていた。
先般の会議で決まった要綱についての話し合いであった。
各位が席に着くと会議が開始となった。
「ガルダの修復が忙しい中、集まっていただき感謝である。先日の決定にあったマナ運用に関しての相談である」
リンデは結んだ外交の約束を満たすために関係者を集めていた。
「いよいよですわね。楽しみにしていますわ」
ヴァレンシアは待望の案件とばかりに微笑んでいた。
「ではシルヴァ、説明を頼むのである」
リンデは説明役のシルヴァに声を掛ける。シルヴァは頷き、承諾する。
「マナ運用について少し説明するぬう。人属領でマナを使うにはそれに関わる星の器官の位置を調べる必要があるぬう」
「星にも“臓器”みたいなものがあるぬう」
シルヴァは早速重要な事項を説明し始める。
「前も説明したぬうが、マナの流れは人の血液と同じだぬう。ゆえに太く流れる場所と細い場所が存在するぬう」
「大地よりマナを取り出すのであれば、命脈が太い場所から取らないと細い場所ではいずれ枯渇が起きるぬう」
「……要するに、流れの“太い所”を見誤ると危ないぬう」
シルヴァは枝の指を振り、注意事項を告げていた。
「マナが枯渇した大地はどうなりますの?」
ヴァレンシアは忠告を聞いて抱いた疑問を聞いた。
わざわざ最初に伝えている以上、大事な要素があることを理解しているからであった。
「命脈から流れるマナが枯渇すると、その周辺の大地が死ぬぬう。荒廃した大地へと変わり死滅するぬう」
「マナは本来、星を成長・繁栄させるために使われるぬう。もし、許容値を超えて搾取すればいずれ星が死ぬぬう……それは人と変わらないぬう」
シルヴァはヴァレンシアの質問に淡々と答え、禁忌を犯した場合の仮定についても付け加えていた。
マナと星の在り方は、人でいう血液と身体と同じ、血がなくなることで死に至るのと同じであるという口ぶりであった。
「説明ありがとうございます。失敗しないようにしっかりと人属側でも話し合いを進めていきますわ」
ヴァレンシアは丁寧に教えてくれたシルヴァに礼を言う。
そして、人属という国が過ちを起こさないように尽力するとも伝えていた。その解答には隣のリンデも頷いていた。
「よろしく頼むぬう。ここからが本題だぬう、さっき話した星の器官が人属領にもあるはずだぬう」
「マナはこの大陸、『トリスクレオン』を循環しているぬう。亜人属領と人属領に存在する器官を経由して星核に戻るぬう」
「これまでの観測から見るに、人属領の器官ではマナの濃縮を行っているようだぬう、対して亜人属領の器官は大気を星核に送って、マナ生成を育んでいるようだぬう」
「これは極めて重要だぬう――」
「「「「……」」」」
難しい専門用語が多く、何を質問していいかがわからないフォルネア使節団一同。
なんだか会議というよりは、学び舎の講義を受けているような感覚も出ていたが、熱心に説明するシルヴァに圧され、止めることすらできなかった。
そこに助け舟を出したのはリンデであった。
「シルヴァ……話が逸れているのである。内容が首都で行っている研究発表の内容になっているのである……」
「何をしなければならないのかを簡潔に頼むのである」
「ぬう……すまないぬう。木を育てるには水が必要だが、多すぎたようだぬう……」
シルヴァは自身の行いを良くわからない例えで伝えていた。
「結論から言えば、幻環山ミラネリオンに行きたいぬう。この外交が決まった二か月前にマナの流れを調べる術具を星の器官に取り付けていたぬう」
「記録はできているはずだから、術具を回収して人属側の星の器官の位置を調べたいぬう」
シルヴァは外交のために事前に仕込んでいたと話した。
(二か月も前にこの外交は決まっておったのか……道理で周到なわけだ)
エクリナは外交には相応の準備期間が必要なのだなと思っていた。
「ミラネリオンとはどういった場所ですの? 星の器官があるのですわね」
ヴァレンシアは目的について聞いた。
わざわざ会議を行ってまで移動する場所、何かあると察したようであった。
「そうだぬう、《星楔樹エトワコル》という大樹が生息しているぬう。亜人属領で最も重要な場所だぬう」
「大型の魔獣が生息する自然豊かな場所だぬうが、ちょうど繁殖期に入っていて危険度が上がっているぬう。そのため……そこの最強の人に護衛を頼みたいぬう」
シルヴァは答えつつ、この会議の本当の狙いを口に出した。
要は亜人属の警護だけでは《星楔樹エトワコル》にたどり着くのは厳しいため、最強の人こと、エクリナに護衛を依頼したいということであった。
全員の視線がエクリナに注がれる。
「我はヴァレンシア殿の決定に従おう……今は雇われの身だからな」
エクリナは隣にいるヴァレンシアを横目で見て、判断を仰いだ。
「そうですわね……視察を兼ねてあたくしと術具士何人かで行きましょう」
「ガンゴとティセラさんはガルダの修繕がありますから、護衛はエクリナさんだけですが、如何ですか?」
ヴァレンシアは問題ないと回答をした。
「助かるぬう、転移が使えるのなら緊急脱出ができるぬう。この時期はあまりミラネリオンに立ち入らないため、新たな発見も期待できるぬう」
「苦い果実とわからないときは口にする必要があるぬう」
長命であるドライアドとはいえ、危険を冒してまで研究はしていないというシルヴァであった。
よくわからない例えをしながら、未知の地に行くことができるのを心底楽しみにしているようであった。
「……行ってみたかったです。それにエクリナだけでは心配ですね……」
ティセラは留守番ということになり、その胸中には残念さと心配が共存していた。
「エクリナなら大丈夫だろうよ、儂らは儂らのやるべきことをやろう。むしろガルダが直ったら、そのままミラネリオンとやらに向かってもいいかもしれんな!」
ガンゴは笑いながらうな垂れるティセラを慰めていた。
「ではこの会議をまとめるのである。マナ運用のため幻環山ミラネリオンに向かうのである」
「明日の早朝に魔導列車で出立。参加者は吾輩・シルヴァ・護衛にコルネと警護兵。ヴァレンシア殿・エクリナ殿と人属術具士数名であるな」
会議室の面々を見ながら今回の会議の締めに入っていた。
「ミラネリオンは西側に存在しており、アークから二日は掛かる。現地に案内人がいるのでそれに従うのである」
「では、本日は解散である」
大まかな段取りを説明して、会議の終了を告げるリンデであった。
いよいよマナ運用について本格的に始動した。
期待と不安が入り混じるエクリナらは、幻環山ミラネリオンへ向かう。




