◆第259話:水都の夜は騒がしい◆
セディオスは右にライナ、左にルゼリアで挟まれ、水都ヴェルミオラの中心部に向かっていた。
立ち並ぶ倉庫群、大小さまざまな船が停泊する港を離れ、よりにぎやかな方角へ歩みを進んでいた。
漆喰塗、赤レンガ、木造りの家が建ち並び、区画ごとに様式がばらついていた。
物見の塔も三棟ほどそびえており、にぎやかさの中にも警備の厳重さが垣間見えた。
中心の円形広場にたどり着く。
輪を幾重にも描くように屋台が整然と並び、活気に満ち溢れていた。
香辛料と焼き油の匂い、異国語まじりの呼び声が渦を巻き、広場そのものが熱を持っていた。
「「おお~~」」
ライナとルゼリアは異国情緒漂う広場を見渡し、歓喜の声を上げる。
これまで、交易都市アヴェリア、霊泉郷セイリョウ、技術都市フォルネアなど、大小さまざまな街や都市を訪問していたが、異文化がまじりあうことで生まれる賑わいに心が躍っていた。
「おいしそうなものがいっぱいあるね!」
青髪の少女は初めて見る食べ物に鼻をひくつかせて、涎をたらしそうになっていた。
「これまでの様式と違いますね!」
赤毛の少女は造りが違う建物、屋台の販売品を観察し、これまでの街と比較していた。
炎雷の姉妹は目移りさせながら、互いに感想を漏らしていた。
二週間以上も探索と移動を続け、娯楽に飢えており、目に映るすべてが煌びやかに見えていた。
ライナとルゼリアにとっては、ひと時の休息は旅のご褒美であった。
その姿を見護るセディオスは、静かに微笑んでいた。
「まだ依頼の途中なんだが……少しは遊ぶ権利があるよな。俺も楽しむか!」
既に屋台で見たこともない食べ物を買っているライナとルゼリアの背を追いかけ、追加で注文をしていた。
◇
昼過ぎに水都についていたこともあり、広場の屋台を見て回るだけで夕方になっていた。
夕食はテルティウスから紹介されていた『海の家』で取ると決めていたため、屋台の食べ物購入は三人で分けつつ、食べ過ぎないよう控えていた。
装飾品や食器、術具を見ているだけで時間は溶けていった。
「セディオス、これからどうしますか?」
物見の塔の後ろを夕日が通り過ぎていくのを見て確認するルゼリア。
「そうだな……このまま酒場に行くか? 紹介されたヴァレンシアさん行きつけのところだし、早いほうがいいだろうな」
「一旦、宿でもいいぞ」
夜に近づき、酒が欲しくなったセディオスは酒場に行きたい気持ちだったが、歩き続けた二人を気遣い宿の選択肢も出す。
「酒場に行こうよ! まだまだ食べれるよ!」
ライナは腹をさすりながら、今、腹が何分目かを思案し酒場行きに一票入れていた。
「私も問題ないです。このまま行ってしまいましょう」
ルゼリアはセディオスが酒を欲しているのを察して、酒場に行くのを同意していた。
「よし、決まりだな!」
三人の意見が一致し、一路『海の家』に向かう。
繁華街の道に入り、広場と違った賑わいを見せていた。
客引き、酔っぱらい、妖艶な女性、旅人ら、商人などあらゆる人々が集まっているかのようであった。
その雑踏を掻き分け、目的の店を探す三人。
押され、ぶつかりながら、遺跡とは別種の――人波という険路を進んでいた。
「まだ、夕方なんだがな……」
「まだ増えそうですね、早く店を見つけましょう」
セディオスは呆れ、ルゼリアは想定をしていた。
「どこだろう~~。あ、あったよ!」
ライナは店の看板を見渡し、『海の家』と書かれた酒場を見つけ出した。
「でかした! さっさと入ろう」
セディオスは先行して、後ろからルゼリアとライナがついてくる。
酒場の扉を開け入ると、既に満席に近くなっており酔っ払いを量産していた。
飛び交う乾杯の音頭に矢継ぎ早の注文の声、店の外でも中でも騒がしいのは一緒であった。
「人気店のようだな……入れるのか?」
セディオスたちが入り口で迷っていると、強面で小太りの男が近づいてきた。
「いらっしゃいでやんす! ご予約はされてやんすか?」
顔は怖いが愛想の良い男は予約確認をセディオスにした。
「多分……テルティウスの名で予約されていると思うが……」
通信術具の声を信用して、フォルネア領主の名を出した。
「セディオス様ご一行でやんすね! 伺っています、こちらへどうぞでやんす!」
「あ、オイラは店主のナミスケというでやんす、ご贔屓ありがとうでやんす」
案内しつつ、自身が店主であると挨拶をしていた。
騒がしい酒飲み客を掻き分け、四人が進むのは舞台前の卓。
舞台が真正面に見える主賓席であった。
「えらく、いい席だな……」
「なんかの真ん前だね」
「あれは舞台のようですね」
待遇の良さに三者三様の声を出していた。
「先日に続き、ご贔屓様の予約ですので一番いい席を準備しましたでやんす」
「どうぞお座りくださいでやんす」
『海の家』の店主ナミスケが着席を促す。
夕刻から夜に変わる頃、久々の宴が始まる。




