◆第258話:束の間の寄港◆
エクリナたちが霊機自治区アークで活動していた頃――
セディオスたちは水都ヴェルミオラに到着していた。
頑丈な城壁、大きな渡し橋、湖の中央には城塞都市、海へと繋がる運河、外海の窓口たる都市は国の様相であった。
湖風が運河を伝って流れ込み、潮の匂いが鼻先をかすめた――ここは内海であり、外海への玄関でもある。
外壁の門で立ち止まり、入国申請をしていた。
技術都市フォルネアの領主テルティウスは事前に連絡をしていたらしく、先導をする警備兵が隊列を組んでいた。
回収班の隊長レコは門番と話して、どこに運ぶのかを相談しているようであった。
止まっている客車の中で――
「大きいとこだね!」
ライナは客車の窓を開け放ち、頭を出して湖に浮かぶ都市を遠くから見ていた。
「これまで見てきた都市で一番ですね」
ルゼリアは反対の窓から顔を出して感想を述べていた。
「やっと着いたなぁ~。疲れたぜ……」
都市を見て興奮している二人を見ながらセディオスはため息をついていた。
「これからどうするの?」
「港に行くのですか?」
ライナとルゼリアが座席に座り直し、段取りを確認する。
「そうだろうな。停泊中の船に積み込むんだろう、レコたちが対応するはずだな」
隣で止まっている回収班の馬車を眺め、セディオスは答えた。
「指示通りにしか動けんからな、流れに任せるしかないな……」
段取りが決まったらしく、警備兵が先行して進み、少し後方から回収班の馬車、追走するようにセディオスらの馬車、最後に巨大荷車がゆったりと進んでいく。
外壁の門をくぐり、橋を渡り、都市へと向かう。カポカポと馬は歩み、客車を都市内部に入っていった。
警備兵が人除けを行い、警戒しながら港へ案内を進めていく。
そして、進むこと一時間が経過し、ようやく港に到着した。
人々の往来が激しいこともあり、交通整理に時間が掛かっていた。
セディオスらの馬車は動線の端に止められ、降りる案内が業者から出された。
「すごい街並みだったね! 見たことない屋台もいっぱいあったし、あとで行こうよ!」
「ライナ、観光に来たわけではないですよ。優先は依頼ですからね、終わったら行きましょうね」
水都来訪の目的を忘れかけているライナをルゼリアはたしなめてはいたが、少し気になっている様子でもあった。
「わかってるよリア姉~、でも気になるんでしょ?」
ライナはニヤニヤしながら、ルゼリアに返していた。
付き合いが長いこともあり、姉の考えは筒抜けであった。
「……セディオス、早く終わらせましょう」
図星を付かれたルゼリアは、隣のセディオスに要望を出した。
「そうしよ! そうしよ!」
ライナはルゼリアの提案に乗っかった。
「わかったわかった。レコに聞いてくるよ、出発の日も聞かないといけないしな」
長距離の移動のねぎらいも兼ねて、要望を受け入れることにした。
セディオスはレコの元へ向かっていく――その背後で炎雷の姉妹は、はしゃぎ声を飲み込み、唇だけで笑っていた。
岸壁の桟橋には『魔導船フォルネア号』が停泊していた。
海門港ペラギアへエクリナたちを送り届けた後、水都ヴェルミオラの港に戻っていた。
側部を開口し、乗り込み用の板を取り付けているところであった。
「お~い、レコ!」
セディオスは作業監督を引き受けていたレコに背後から声をかける。
「セディオスさん、どうしたんっすか?」
紙片に何か書いていた手を止め、その声に振り向く。
「今後の予定を教えてくれ。ついでに俺たちはいつまでここにいたほうがいいのかも、だ」
セディオスは今後の段取りを確認する。
「依頼の貨物は機密扱いとなっているようで、優先して積み込むっす」
「ただ……外交が再開したので追加の荷物が増えるようっすね。揃うまで待たなければならないため、明後日の朝に出航となる見込みっす」
レコは手持ちの紙片を見て、出航までの流れを説明する。
「それと、セディオスさん達は出航当日まで自由にして頂いていいっすよ。もう”アレ”の積み込みは終わりますし、港の警備兵が交代で監視しますから問題ないっす」
セディオスの背後で暇そうにしている少女を二人見て、笑顔で答えた。
「そうか、それは助かるな。今から自由にさせてもらおう」
セディオスは満足いく回答をもらえたため微笑んでいた。
「宿は『サンゴ亭』を取っていると聞いているっす。何かあればそこに伝言を残しますのでお願いするっす」
レコは指示を受け取っていたらしく、指定の宿を伝えた。
「至れり尽くせりだな。それでは明後日、よろしく頼む」
「はい、ごゆっくりされてくださいっす」
セディオスは踵を返しつつ、手を挙げて一時的な離脱を告げていた。
レコは頭を下げ、その背を見送っていた。
「どうだった?」
「どうでしたか?」
ライナとルゼリアは期待のまなざしで、セディオスの言葉を待っていた。
「今日と明日は自由でいいそうだ。明後日の朝に出航だな、観光に出れるぞ」
見つめてくる姉妹に得られた権限を教えていた。
「やった~」
「早速行きましょう!」
ライナとルゼリアはセディオスの両手をそれぞれで掴み、待ちきれないかのように腕を引いていく。
「引きすぎだ!」
「まあ、久々の街だ。色々見て回ろう」
セディオスは少し困った顔をしつつ、楽しみにしている二人を見て顔がほころんでいた。
少しの休息を得られ、三人は水都の中心部に向かう。
新たな出会い、新たな文化、新たな食事を期待して進んでいた。




