◆第257話:技術の発展◆
《巨岩兵装ヴォトカスト》の修理が完了し、コルネは慣らし運転がてらに紅い騎士を駆り、荷物運びを手伝っていた。
エクリナはそれを見送り、他の作業を見学することにした。
離れたところにヴァレンシアとリンデが見えていた。何かを設置しているようであったため見てみることにした。
「ここに設置をお願いしたいのである」
リンデは工房の壁際、資料などが置かれている区域を指差す。
「わかりましたわ。皆さんお願いします」
ヴァレンシアの背後にいた術具士に命じ、次々と資材を運び組み立てを始める。
「何をしておるのだ?」
エクリナは二人の間に立ち、何の作業か聞くために声を掛ける。
「あら、エクリナさん」
ヴァレンシアは近づいてきた銀髪碧眼の少女に笑いかけた。
「お、来られたか。《ヴォトカスト》の修復感謝する、コルネもご機嫌なようであるな」
リンデは遠くで荷物を動かす騎士ゴーレムをみて、エクリナに感謝を伝えていた。
「我ができたことなどほとんどない……己の無力さを思い知っただけだ」
ため息をついて、肩をすくめるエクリナだった。
「ははは! 術具は難しい、だがコルネの傍に居てくれたではないか。あやつには友がおらなんだ、そういった意味も含めて感謝である」
リンデは豪快に笑いながら、答えていた。コルネとは長い付き合いの自治区長は、娘に友達が出来たような言い方をしていた。
「ふふ、素直に受け取っておこう。それで、これらはなんなのだ?」
エクリナはくすぐったく微笑みつつ、組み立てられていく術具を指差す。
「『鏡映術具』ですわ、試用も兼ねて設置してほしいとのことでしたので進めていますわ」
ヴァレンシアは作業を眺めながら答えてくれた。
フォルネアの闘技場に設置されたものよりは二回りほど小さい魔晶の板が壁に取り付けられていた。
その下に机を設置し、『記録術具』を置いて魔導管を繋いでいた。
「神が作った術具には劣るかもしれませんが、人属最先端の技術と自負していますわ」
ヴァレンシアはガンゴに言われたことを気にしているらしく、ティセラが操作している端末を一瞥しながら言っていた。
机にはさらに撮像術具が置かれ、試し撮りしていた像を映し始めていた。
大型開発工房内の作業風景を写し取っていたらしく、術具士たちが楽し気に働いている映像が流れていた。
「おお! これは素晴らしいのである!」
「綺麗な絵が動き、音まで記録できるとは!」
『鏡映術具』に映し出された動く像を目で追うリンデは、嬉々として声を上げていた。
初めて見る術具に作業していた亜人属の職人たちは手を止め、集まっていた。
「面白い!」「すげえ!」と声を漏らしていた。
片や、「撮像の方は小さくしたいな」や「《ヴォトカスト》に付けようぜ」などの声も上がっていた。
「評判は良いようですわね!」
盛り上がる職人たちを見て大喜びのヴァレンシアであった。
「さて、リンデ殿、もう一つ見て欲しいものがあります」
ヴァレンシアはリンデを、机の横に設置した身の丈ほどもある八角形の柱の元へ案内した。
柱には紋様が刻まれ、魔法陣が面を滑るように回転し、色とりどりの光を放っていた。
微かに魔力が漏れ出ており、近づくほどに違和感を感じていた。エクリナの皮膚が、戦具の起動前に似た“ざわり”を拾っていた。
「これが増幅器であるか……通信用の術具に必要な物であるな?」
「ええ、これを設置することでフォルネアまで魔力を飛ばし、会話をすることができますわ」
事前にリンデに説明し、許可をもらって通信術具用の増幅器を置かせてもらっていた。
「吾輩らも似たようなものを作って運用はしているが、どうしても長距離の通信が実現できなかったのである」
亜人属側の事情を話すリンデは、増幅器を見ながら話す。
「魔力と反応して振動する魔晶を鉱山で発見しまして、試しに組み込んだところ波長のうねりが大きく、強固になりましたわ」
「それが、通信術具と共鳴したようでして、通信術具の間にこの増幅器があることで長距離での会話が可能になりましたわ」
ヴァレンシアは原理を掻い摘んで説明した。
「……魔力波長を中継しているということであるな? そういうことが可能なのだな……」
リンデは顎の角を撫でながら、自身で理解できるようにつぶやいていた。
「ええ、その理解で合ってますわ」
ヴァレンシアは理解してもらえたのが嬉しいようであった。
「アークの位置であれば、理論上ですが港のペラギアにも届くようになったはずです。試してみましょうか?」
増幅器の設置が完了しているため、通信状態を確認したくなっていた。
「それは良い案である」
「コルネ! すまないがナギロ殿を呼んでくるのである、通信術具を持ってくるようにも伝えてくれ」
リンデは試すべく、潮刃隊隊長のナギロを呼ぶようにコルネに指示していた。
「わかったよ、リンデ爺さん! 少し待ってて」
コルネは軽快に返事をし、《ヴォトカスト》に乗ったまま工房を出て行った。
しばらくして――
濃い青の制服を着た海人族のナギロが通信術具を抱えてやってきた。
「お呼びと聞き、参上いたした。如何されましたかな? ちょうど報告があったゆえ、ちょうどよかったですが……」
ナギロは呼ばれた意図を知らず、リンデに確認をした。
「先に報告を聞かせてもらうのである。何かあったのであるか?」
通信術具の実験を横に置き、報告内容を確認する。
「ペラギアの管理官、タラッサより書状が送られてきました」
「エル・クラウゼという都市からアークへ機密貨物の護衛するため、潮刃隊の一時帰還をリンデ様に要請させて頂きたいとのことです」
「……貨物は“機密”ゆえ、襲撃の懸念がある、との記載もありましたな」
リンデに事情を説明するナギロ。帰還の任について了承を伺っていた。
「エル・クラウゼからであるか。なるほど、エクリナ殿の家族は依頼を完了したようであるな」
リンデはそれを聞き、エクリナに伝えた。
「おお! 完了したのだな。無事ならばよいのだが……」
依頼完了と生存は別の話であるため、分けて考えていた。
「タラッサ殿の要請を了承する」
「それで、お呼びした件だが、その通信術具を使ってタラッサ殿に連絡できるのかを実感してみたいのである」
潮刃隊の帰還を了承し、本題を伝える。
「使用可能になったということでしょうか? もしそうであれば、大変な技術革新ですな!」
「早速実験いたしましょう、どうしたらよいかな?」
ナギロは話を聞き、率先して実験に協力することにした。
「少し貸していただけるかしら? 調整しますわ」
ヴァレンシアはナギロから通信術具を受け取り、増幅器を使えるように調整を施していく。
最終確認をして、ナギロに術具を返した。
「できましたわ。連絡できるか確認をお願いしますわ」
ナギロは早速タラッサへ通信を繋げてみる。
ジリリリリリィーーーーン!
ジリリリリリィーーーーン!
――と通信待機の音が鳴り響く。
「お! 音が鳴りましたな!」
いつもだと待機音すらならない通信術具が、遠方のアークにいても音を発したことに驚くナギロ。
そして――
ガチャンと音が鳴り、「はい、どなた?」と声が聞こえた。
「こちら、ナギロです。タラッサ管理官でしょうか?」
「タラッサでありますが……ナギロ隊長でありますか! 今アークで任務中であるはずですが……もう魔導列車の中でありますか?」
ナギロとタラッサが問題なく会話を始めていた。
タラッサは少し混乱しているようで、ナギロの行動を疑い始めていた。
ナギロが困っていると、横合いからリンデが助け舟を出す。
「タラッサ殿、声を聴くには久々であるな。リンデである、潮刃隊の一時帰還の件は了承したのである」
先ほどの書状の件を引き合いに出し、ナギロが誠実に働いているのを証明した。
「リンデ殿、お久しぶりであります!」
「どういうことでありますか? アークとペラギアの距離では通信ができなかったはずであります」
タラッサは訳が分からずリンデに説明を求めていた。
リンデは笑いながら、ヴァレンシアが通信術具の増幅器を開発したこと、実験でペラギアに連絡を取ったことを伝えていた。
術具を介して、問題なく会話している三人をエクリナとヴァレンシアは微笑みながら見ていた。
「実験は成功のようだな。おめでとう、ヴァレンシア殿」
エクリナは隣にいる老婆に声をかけていた。
「ありがとう」
「これで、フォルネアと即時連絡が取れるようになりましたわ。これまでは書状でしか連絡できませんでしたが、通信術具が活用できればさらに発展できるはずですわ」
ヴァレンシアは未来を見据えて、術具の開発を進めていた。
自動馬車・鏡映術具・通信術具などなど、すべては人属の発展のために尽くしている経営者は、また一つ偉業を成し遂げた。
大型開発工房はさらなる盛り上がりを見せていた。
次回は、『5月17日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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