◆第256話:本領発揮の魔導術具士たち◆
朽ちた神の研究所から『人造魔核』の情報を持ち帰って二日が経過していた。
ここは神領にほどなく近い、霊機自治区アーク。
街並みは大通りが中央で交差し、区画がマス目状で美しく設計されている。
住居区画、工房区画、マナ炉区画、と役割別に配置が成されていた。
工房区画の奥――大型開発工房が鎮座していた。
その中で、フォルネア使節団とアーク使節団が合同で修復技術を競い合っていた。
「これでどうだ、ティセラ!」
師匠のガンゴが、金属箱の配管を繋ぎ終えると同時に弟子の名を呼んだ。
「あ、また魔晶が光りましたね! ちょっと待ってください!」
ティセラは術具をみて、ガンゴに制止を促す。
エクリナらは神の研究所にあった情報が詰まった魔導術具を丸ごと持ち出していた。情報量が多いため、流用していく算段であった。
その術具を大型開発工房に据え、起動のための配管と魔法式を組み直していた。
ガンゴは配管を繋げては外し、試してはやり直す。
「お願いですから、そろそろ動いてくださいね……」
設置を進めて二日が過ぎていた。そろそろ稼働してほしいティセラは物言わぬ術具にお願いをしていた。
すると――
ブーーーーンッ!と音が鳴り、空中に映像を映し出す表示面が展開された。
文字が羅列され、下から上へ文章が昇っていた。長々と続く文字たち、ほどなくして最後に”起動完了”と表示が出た。
「おお! やっと動いたか!」
ガンゴは唸りを上げる術具を見て喜びの声を上げる。
「空中に文字を映すとは、ヴァレンシアの術具よりすごいな!」
ヴァレンシアが開発した鏡映術具を引き合いに出し、感嘆していた。
「あたくしの術具より”すごい”は余計です。神が作った術具ですよ? 負けて当然です」
ガンゴの大声に寄ってきたヴァレンシアは隣で言い返していた。
「ともあれ、ようやく起動か。ティセラ、ガンゴ殿、ご苦労様だ」
いつの間にかティセラの隣にいたエクリナはねぎらいの声を掛ける。
「動いたようで良かった。こちらは既にガルダの解体を終えている」
「あとは人造魔核の濃縮導管の準備だけだ」
騒ぎを見かけ、情報が詰まった術具に近づくイーサリは、現状を共有した。
「少し待ってくださいね、今から検索して出していきます」
ティセラは笑顔で答え、端末の操作を始めた。
タン、タン、タンと小気味のいい押しボタンの音が聞こえてきた。
イーサリはティセラの横に立ち、興味深そうに次々と切り替わる映像を見ていた。
それを見ていたガンゴは――
「さてと、ここはティセラに任せて、儂は《ヴォトカスト》を見てくる」
と言い、ガルダの隣で修理が進んでいる《巨岩兵装ヴォトカスト》の様子を見に行く。
「我も付き合うぞ。進捗は上々だ、あとは内装と魔力出力の調整が残っているらしいな」
歩くガンゴの隣で、赤い騎士ゴーレムの修理状況を伝える。
エクリナはコルネとの約束通りに、できうる限り修理に参加していた。
それでもできることは僅かで部材の転移や差し入れをする程度で、本職の魔導術具士を補助することしかできなかった。
それでも、一度は破壊したゴーレムに報いるためにコルネと共に協力をしていた。
「おお、早いな。あいつらも腕を上げていたか……」
ガンゴはそれを聞いて、感慨深そうにつぶやいた。
《ヴォトカスト》の実質上の修理担当は、ヴァレンシア商会が雇っている術具士、かつてのガンゴの弟子であった。
ガンゴの厳しい指導に耐えきれなかった弟子たちはヴァレンシアの元に身を寄せていた。
フォルネア使節団として同行し、ガンゴとの仲は修復していた。成長した弟子たちは今ではガンゴのことを恩師と仰いでいた。
ガンゴは物言いが厳しかったが、的確な指導はできていた。だからこそ宴会の席で信頼を取り戻すことができたのであった。
ガンゴとエクリナは作業場にたどり着いた。
「あ、ガンゴにエクリナ! 待ってたよ!」
ツインテールを揺らし、コルネが《ヴォトカスト》の中から手を振っていた。
ガンゴに気づき、弟子たちが近寄ってくる。
「親方!」
「待ってました。最後の調整がうまくいきません、どうしたらいいか……」
赤い騎士は以前よりも美しい色をしており、艶やかで光沢が出ていた。
しっかりと自身の足で立ち、目覚めの時を待っていた。だが、コルネが搭乗席で動かそうとするも起動せずにいた。
「初期動作用の魔晶は変えたか? 人造魔核の魔導管はどうだった? 操作舵は稼働しているのか?」
ガンゴは《ヴォトカスト》を撫で、搭乗席の端末を見ながら、弟子たちに疑問を飛ばす。
「すべて問題なしです。でも、動かないんですよ……」
弟子たちは、親方が想定している懸念は既に対応済であった。
「いつも通りに魔力を流しても全く手ごたえが無いんだよ……」
操作舵を握りながらコルネが追加で答えた。
《巨岩兵装ヴォトカスト》はコルネの魔力波長に同期して起動する搭乗型の魔導戦具。
ひとたび起動すれば、遠隔でも駆け寄ってくれるゴーレムが沈黙を貫いていた。
彼らのやり取りを遠巻きに見ていたエクリナは疑問に感じたことがあった。
無意識に、己の戦具へ触れるときと同じ意識で《ヴォトカスト》の気配を探した。
だが――返ってくるはずの“応え”が、ない。
「ガンゴ殿、《ヴォトカスト》は戦具で合っているのだな?」
頭を悩ませる名匠に確認を取るエクリナ。
「ん? ああ、そうだ。見た目はデカいが扱いは戦具と変わらんな、それがどうした?」
頭を掻きながら答えるガンゴは、エクリナの質問の意図がわかりかねていた。
「コルネと《ヴォトカスト》の繋がりが切れているだけのように思えるのだが、どうだろうか?」
常に戦具と繋がり、心を通わせるように操っているエクリナには動かない理由はそれではないかと思っていた。
「……見てみるか。コルネ、そこをどいてくれ」
ガンゴは言いながら、台座に乗りコルネと入れ替わる。
コルネが魔力を流す操作舵をしげしげと見つめ、それに連なる魔導管や機構も見直しをしていた。
睨むようにすべてを怪しみ、先入観を捨て、公平に見直していくガンゴは険しい顔を見せていた。
すると――
「エクリナ、嬢ちゃんの言うとおりだ。繋がるための術式が壊れていやがる、奥の方で気づきにくい場所だ」
搭乗席から顔を出し、動かない原因を教えた。
「おい野郎ども! ここの場所の紋様を修繕してくれ、そのあとで稼働確認だ!」
弟子たちを呼び、修繕箇所を丁寧に教えていくガンゴはそのまま手直しの指示をしていた。
最後まで弟子たちの手で修理させたい想いがエクリナには伝わってきた。
「はい! 今すぐに取り掛かります!」
威勢のいい返事をする弟子たちは搭乗席に体をねじ込み紋様を刻み直す。
「エクリナ、ありがとう! お手柄だよ!」
コルネはエクリナの発想に感謝していた。
「我にも愛着のある戦具があるゆえ、なんとなく思ってしまったのだ」
エクリナは微笑み、頬を掻いて照れ隠ししていた。
刻み直された紋様が淡く脈打ち、《ヴォトカスト》周辺の空気が一瞬だけ張り詰めた。
——次の瞬間。
《巨岩兵装ヴォトカスト》は目覚めた。ウィーン、ガキョンと独特な音を鳴らし身体を動かしていた。
コルネは久々の相棒の動くさまを感じて、大声で「ありがとう!」と術具士に感謝していた。
その目にはほんのわずかに涙が光っていた。それほどまでに、嬉しかった。
大型開発工房での活気はさらなる熱を帯びていった。




