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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十一章:繋がる世界、重なる咆哮

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◆第255話:遠い地への声◆

夕刻――

暖かな日差しが客車の窓を橙色に染める。


カポ、カポ、カポと——客車を引く馬の足音が小気味よく街道を歩んでいた。

二台の人を乗せた馬車。そして巨大な積み荷を乗せた、およそ馬車とすら呼べない異質な荷車は床板が鉄で補強され、車輪だけが不釣り合いに巨大だった。

客車には依頼途中のセディオス・ルゼリア・ライナが乗っていた。


目的はただ一つ――遺跡都市から回収した獅子型ゴーレム《ドロモス》を、霊機自治区アークに搬送することだった。

海を渡る必要があるため、水都ヴェルミオラへ向かっていた。それは先日、エクリナたちが通った同じ旅路をなぞっていた。


客車に乗っているセディオスは扱いなれていない魔導術具を手にしていた。

馬車に乗る前に同行している回収班から渡され、操作を口頭で教えてもらっていた。

バスケットくらいの箱に黄色と緑の魔晶が一つずつと十の押しボタンが嵌っており、異なる番号が振られていた。


セディオスは、横に嵌っている硝子の筒を外し、真ん中にそれを差す、そして――手が止まった。


「次は……ここを押すんだったか?」

膝の上の術具を見つめ、唸りながら思案する。


セディオスの向かい側に座る炎雷の姉妹、ルゼリアとライナはそれを見つめていた。

だが、一向に進まない操作を見かねて、ルゼリアが立ち上がる。


「セディオス……その緑の魔晶を押してください。それで起動するはずです」


ルゼリアは悩む彼を見て左隣に座り、指を指しながら操作を改めて教えていた。

セディオスが言われるがままに緑の魔晶を押すとブーーンという音が鳴り、硝子の筒が紫に光り始めた。


「お、光ったな」

ようやく進捗した操作に喜ぶセディオス。


「そのあとで番号のボタンを――」

ルゼリアは続けて回収班から教えてもらった操作をなぞるように押すボタンの順番を伝える。


「そうだったな、すまん。これで……終わりだな?」

セディオスが指示通りにボタンを押し続けて、ようやく操作が完了する。


すると、ジリリリリィ――ン、ジリリリリィ――ンと音が繰り返し鳴り始める。


「あ、鳴った。変な音だね~」

ライナが、セディオスの右隣に座り、ベルのように鳴る術具を見る。


「この通信術具とやら……本当に連絡が取れるんだろうな……」


エル・クラウゼへ再度向かう際に、連絡手段として渡されていた術具。ヴァレンシア商会が開発した便利な道具であった。

同型の術具に魔力波長を飛ばして繋がることで、会話ができるという代物であった。


ほどなくして――ガチャンと音が鳴る。

プツプツと途切れるような音が流れ始める。


「あーあー、聞こえるか? 私だ」


聞いたことがあるような男の声が術具から発生した。

名前を最初に言わないのは警戒してのことだろうと推察ができた。


「こちらはセディオスだ、テルティウス様で合ってますか?」


連絡を取ろうとしていたのは、技術都市フォルネア領主であるテルティウスであった。

こちらから名乗り、なるべく敬語を使っていたが内心は貴族との会話は嫌いであった。


「ああそうだ。その口調はセディオスで間違いなさそうだな」

「首尾はどうだ?」


テルティウスは口調でセディオスと判断し進捗を確認する。

「特に問題なしです。二日後にはヴェルミオラに到着です」

簡単に報告し、今後の予定を伝える。


「そうか、それは良かった。ペラギア行きの船は手配済みだ。使節団と同じ船だ、問題無く運べるだろう」

「ペラギアに着いたらそこで出迎えがあるはずだ。細かい指示はそこで貰ってくれ、書状は送っているから何とかしてくれるはずだ」


テルティウスが段取りをしているらしく、先の行程を教えてくれた。

セディオスの両隣でそれを聞くルゼリアとライナは初めての土地にたどり着くのを楽しみにしていた。


「了解だ。段取りいいんだな……失礼、大変助かります」


セディオスはテルティウスの手腕を悟り、素直な言葉を出していた。

取り繕うように言い方を訂正していた。


「はは! ようやく君本来の口調が聞けたよ」


セディオスは、肩の力が抜けるのを自覚して舌打ちしそうになった――油断するな、と自分に言い聞かせていた。

不遜な言い方を笑い飛ばす領主。貴族に対する態度が悪いと処罰の対象にもなりかねるが、テルティウスは庶民からの成り上がりということもあり気にしていなかった。


「そうだ、伝え忘れていた。ヴェルミオラに着いたら回収班の皆と共に『海の家』という酒場に行くといい」

「ヴァレンシア商会の行きつけでな、慰労するように店主に伝えてある。代金は私持ちだ、宴会を楽しむといい」


遺跡都市への再遠征に加え、獅子型ゴーレムの回収。

道中が長い上に、遺跡からの困難な回収をねぎらうためにささやかな宴会を準備していた。


「お、それはありがたい。皆も喜ぶだろう、あんたは話がわかる貴族のようだな」

敬語を忘れ、素直に感謝するセディオスだった。


「道中は長いからな、気を付けるように。それと、形ばかりでも敬語は忘れないように、これからも用心ばかりだからな」

「それでは、頑張ってくれ。以上だ、通信を切る」


テルティウスはねぎらいの言葉を掛けつつも、やんわりと言葉遣いに対して指摘をしていた。

アークにおける外交上の問題が出るのを懸念しての発言であった。


ガチャン――と通話が切れる音がした。

紫色に輝いていた硝子の筒は沈黙し、黒い粉だけが内部に浮遊していた。


「宴会だって、楽しみだね! それに早くベッドで寝たいよ~」


堅苦しい報告が終わって、緊張を解くライナ。

水都で予定されている宴会に胸を躍らせていた。


「馬車での移動が長いですからね、既に二日目が終わろうとしています」

ルゼリアはセディオスが通信術具の片付けをしているのを見ながら言う。


日中は馬車で移動し、日がくれたら野営をする。

それを四日ほど続ければようやく水都ヴェルミオラにたどり着く行程であった。

獅子型ゴーレムの重量が重いため、移動速度が遅いということもあった。


「あの自動馬車は凄かったんだな……揺れはひどかったが……」

フォルネアとエル・クラウゼの道のりを一日でこなした自動馬車をセディオスは思い出していた。


「あれに乗るくらいなら、今のままでいいかな……」

「同感です……速いことが良いことばかりではないことを学びましたね」


ライナとルゼリアはセディオスの言葉で客車酔いを思い出していた。

そして、二度と乗りたくないという結論は変わらなかった。


「そういえば、この通信術具は凄いですね。ティセラが作ったアストラルリンクを越えるものとは……」

ルゼリアは連携時に時折使っている《意伝耳環アストラルリンク》と通信術具を比較していた。


《アストラルリンク》は耳飾り型で小型だが、短距離の範囲でしか使えなかった。

それに比べ、数十キロメートル先の街に届くほどの出力を持つ通信術具は規格外とも思えた。


「ヴァルザが作った術具よりも凄いよね。あの玉みたいなやつよりも」

ライナは手を動かして球状を表しながら、感想を述べていた。


「そうなのか? もっと凄いものがあると思っていたが……」

セディオスの疑問にルゼリアが答える。

「似たようなものはありましたが、こちらの声を録音して、それを送るという手段でしたね。ただ、そもそもヴァルザが声を送ってくることはありませんでしたが……」


「あいつの声なんて聴きたくなかったから、ちょうど良かったけどね」

ライナはルゼリアの説明に付け足した。


「なるほどな、これがどれだけ凄いものかが良くわかったよ。壊すと大変そうだな……」

遠くの相手と会話できる通信術具、その重要性を再認識するセディオスであった。


「これ使って、王さまとティセラに連絡取れないのかな? 多分持ってるよね?」

「そろそろ声聞きたいなぁ~」


ライナは思い付いたように語る。ヴァレンシア商会が作ったものなら携帯していると予想していた。

二人と離れて二週間が経過しており、恋しくなっていた。


「同じものを持っているらしいんだが、さすがにアークは遠すぎて魔力が届かないらしい」

「魔力を増幅する術具をアークに設置する? みたいなことはレコから聞いたな」


セディオスは、回収班隊長のレコから通信術具を渡されたときにライナと同じことを言っていた。

だが、通信距離には限界があり、今連絡できたのもフォルネア付近の街道に入ったからであった。

ヴァレンシアは今後の外交を円滑にするために、フォルネアとアークを繋ぐ通信術具の増幅器を設置する計画を立てていた。


「そうですか……残念ですね……」


ライナの提案に期待していたルゼリアはがっかりしていた。

エクリナとティセラを恋しがっているのはルゼリアも同じであった。


「もう少しの辛抱だ、我慢しよう……」

姉妹の発言にセディオスの胸の内にも寂しさが出ていた。


霊機自治区アークへ向かう一同は、中継地点である水都ヴェルミオラを目指す。

そこには再開したい、すぐにでも会いたい家族がいる。

三人は我慢し、山へ沈む夕日を客車の窓から眺める――彼らの旅はまだまだ続く。


もし館だったなら、そろそろ夕餉の匂いが立つ頃だろう。呼べば届くはずの名が、今日も喉の奥で止まったままだった。


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