◆第183話:新たな旅の相談◆
フォルネア魔導戦具祭の翌日。
工匠ガンゴ堂の居間に、エクリナ、セディオス、ルゼリア、ライナ、ティセラ、そして店主のガンゴが顔をそろえた。
朝食を終え、皆を呼んだのはガンゴだ。
ローズヒップティーをひと口含み、口を開く。
「祭りが終わって早々だが、相談があってな」
「領主からの依頼が二つある」
そう言って、卓上に二通の書状を置く。
封蝋の紋が重い――王都の朱が、卓上で鈍く光っていた。
「ほう……」
エクリナは視線で先を促した。
「一つ目は、遺跡都市エル・クラウゼの遺跡探索」
「二つ目は、亜人属領の霊機自治区アーク訪問における護衛だ」
「遺跡探索!?」
「興味深いですね!」
ライナとルゼリアの胸が高鳴る。
「霊機自治区アークとは、どういう所でしょう?」
ティセラが問う。
「ひとことで言えば技術都市だ。フォルネアに似ているが、根っこが違う」
「奴らは魔晶だけでなく『マナ』も資源にする」
「マナ、とは?」
ティセラが首をかしげる。
「この星には霊脈が血管のように張り巡らされていて、魔力が血のように流れている。そこに流れる魔力を通称『マナ』と呼ぶ、らしい」
「儂らが体内に魔力を巡らせるのと同じ理屈だな」
「なるほど……」
ティセラは顎に手を当て、思案する。
「魔哭神との戦で外交が止まっていたが、ようやく再開だ」
「ただ、向こうも荒事は多い。相応の腕が要るということで、儂らに話が来た」
ガンゴは経緯を簡潔に述べた。
「“儂ら”?」
エクリナが複数形を拾う。
「儂のほか、ヴァレンシアにも協力要請だ。依頼主は王都だ、テルティウスも断れんよ」
勅命に近いと言い、ガンゴは肩をすくめる。
「王都か。厄介ごとでなければいいが……」
セディオスが昔を思い出すように呟く。
「まあ、そう思うよなぁ」
ガンゴは苦笑し、皆を見渡した。
「それで、どうする? 引き受けてもらえんだろうか。儂とヴァレンシアは亜人属領行きがもう確定だ」
「今年の戦具祭の優勝者だからこその依頼なんだが……」
少し言いづらそうにするガンゴ。
元々、エクリナらは戦具の修繕と強化のためにガンゴの工房を訪れていた。
隠居しているという生活も知っている。
安寧を求めている彼女らに依頼すること自体が悩みどころだった。
「……」
視線がエクリナに集まる。しばし、沈黙が落ちた。
(ルゼリアとライナは遺跡探索に興味があるのか……アークへの訪問……マナとやらにはティセラも興味があるだろうな……)
書状を見つめ、家族の想いを考えるエクリナ。
(日程が違うか……全員で動くならば、二手だな)
ようやく結論を出す。
「我らの戦具、出立までに使えるよう整えてくれるなら受けよう」
「遺跡探索はセディオス、ルゼリア、ライナ」
「ガンゴ殿の護衛は我とティセラで行く」
エクリナは条件と布陣を明確に告げた。
「わかった。それでいこう」
セディオスがうなずく。
「ありがとう、王さま!」
「感謝いたします」
ライナとルゼリアが笑みを見せる。
「そうとなれば、修理を急がねば。出立はいつです?」
ティセラが実務に入る。
「遺跡探索が三日後、亜人属領はその二日後だな」
「整備の仕込みは済ませてある。何とかなる。皆、すまんな、助かる。礼を言う」
ガンゴは深く頭を下げた。
「構わん。ただし今回の依頼で、戦具整備の件はひとまず完了としたい。我らは平穏を求めるのでな」
エクリナは柔らかく笑う。
「では、新たな旅の準備だ!」
エクリナの一声に、場の空気が引き締まる。
それは未踏の地へ踏み出す号令。
ゆっくりと――だが確かに、世界のうねりが彼らを呑みに来る瞬間だった。




