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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第179話:戦闘の傷跡、開けられない扉◆

地下の隠し工房を出たリゼルは、玉座前の大広間へ向かった。

緩やかに下る階段を一歩ずつ降りていく。


「玉座に入る前の部屋ですからね。大したものは無いでしょうが、確認はしましょうか」


階段の幅が違う、下るのに少し手間取った。

ようやく大扉が見えてくる。


「大きい扉……ふう、よいしょ!」

大きい扉に警戒して、呼吸を整え力強く扉を押す。

意外とあっさり開いた。


扉の先は――驚くべき光景であった。

数体の巨像が砕け横たわり、剣や槍が方々に刺さり、数多の矢が焼けていた。

床は真っ黒に煤け、亀裂が走り、広間を支える石柱は数本砕けて役割を失っていた。

戦場が目の前に広がっていた。わずかに残る焦げと鉄の匂いが、今も喉の奥に刺さる。


「……」

リゼルは想定と違った光景に唖然とした。

玉座の間に負けないくらいの損壊状態であった。


「なんですか……これは……」

恐る恐る一歩を踏み出す。


瓦礫が散乱し、矢じりや壊れた戦具が転がる床。

裸足のリゼルが踏破するのは厳しい環境であった。


「あの石像までならたどり着けそうですね……」

足の踏み場を確認しながら、怪我をしないように進んでいく。


ようやく、頭部が無くなっている石の巨像にたどり着く。

「ふう、ようやく見れますね。そもそもこれは何ですか? ただの石像ではなさそうですね……」

「状況を見る限り、動いていたようですが……ああ、これが研究紙片に書かれていたゴーレムと呼ばれる人造生物かもしれないですね」


「どうやって動いて……」

頭部が無いからこそ、中身がよく見えた――横たわる巨像は空洞だった。

石像は中空構造で、外殻は厚みはあるがそれだけであった。


「中身が無い? いえ、詰める必要が無いのか……軽量化による機動力の確保ですかね……」

「これを動かすのは……石に埋められた糸? あ、内壁には幾つもの紋様も刻まれてますね」

しげしげと巨像を観察し、飛び出ていた糸を引っ張る。


「この糸は金属ですか……よく見るとここにも小さい紋様が……これが魔法式を刻んだ姿ですか……」

「何と精巧な……これが魔導術具……ヴァルザ様が御造りになられたんですね。素晴らしい!」

主であるヴァルザの御業に感嘆するリゼルであった。


それから他の巨像を見て回り、落ちていた戦具を拾っては観察と考察を繰り返していた。

ヴァルザが残した研究資料や既存の本を読み漁っていた甲斐もあり、実物に触れることで理解が深まっていった。


ひとしきり楽しんだ後――

玉座の間に続く大扉の正反対に存在する扉に興味が出る。恐らくは外に続いているだろうと予測しているリゼル。

これまでずっと城のみを探索しており、危険なことなどほぼ無かった。

少なくとも敵対生物に出会うことはなかった。


「……少しだけ、見てみますか」

好奇心を押さえられないリゼルは、外へと続く扉に向かう。


大広間の扉を開けると、石柱が立ち並ぶ回廊が続く。

その先には扉が見える。

恐らくは城の最後の扉――開ければ本物の外界。

ゆっくりと扉に近づく。


「……何ですか、これは……進むごとに寒気が……」

身体を擦りながら進む、進むたびに扉から出る冷気を強く感じる。


「うっ……気分が……」

吐き気を押さえ、なお進む。

魔の霧が、扉の隙間から“生き物”のように這い入っていた。


進むたびに頭がふらつく。

「はあ……はあ……も、もう少し……」

息を荒くし、ようやく扉にたどり着く。


扉を開ければ外界――魔の森が広がる。

これまでは窓から見ていた景色に入れる――はずだった。

リゼルは把手に手を掛けられなかった。指先が痺れ、皮膚が拒んだ。


「……これがわたくしの限界……まだ早いということですね……」


扉からの冷気、微かに入り込む魔の霧――その圧力を受け、負けを認めていた。

本当の外界に出るには未熟であると結論を出していた。


「……」


「戻りましょう……」

方向を転換する――朦朧とする意識を我慢し、玉座へ向かってたどたどしく歩んでいく。


「この程度では……使命など果たせません……」

少しずつ頭が痛くなってきた。

そのたびに、自身が如何に矮小であるのかを自覚していた。


ゆっくりゆっくりとリゼルは小さな世界を歩む。

外へ出るには、まだ足りない。だからこそ――神の子は、使命のために強くなると決めた。

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次回は、『2月5日(木)20時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

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