表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
更なる乙女ゲームの世界とは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/78

38.新しい討伐仲間


セルフィシュ国のカルヴィン第一王子は、ルシールより小さな男の子だった。

――当たり前だ。

彼はルシールより二つ年下の14歳なのだ。


ルシールはこの秋休み中に誕生日を迎えて17歳になってので、正確には三つも年下になる。



通信機で話を聞いた時は、確かに男性にしたら少し声が高めに感じたが、話し方があまりに落ち着いていたので、まるで年上の人と話しているように感じていた。


でもこうして姿を見ながら話すと、やっぱり弟みたいに可愛らしく感じてしまう。

ルシールは一人っ子なので、弟はいないのだが。




そしてカルヴィン王子の横手のソファーに座っているのが、通信機で最初に少しだけ挨拶をした、カルヴィン王子の側近ライナートという者だった。


彼もまた若く、20歳らしい。

――20歳には見えず、もっと年上に見えるくらいに、雰囲気からして落ち着いた大人に見える。


 


ちなみにエルノノーラも20歳になったところらしい。

エルノノーラは黙っていると年相応に見えなくもないが、話すとかなり幼くみえる。

ルシールの前では大人っぽく振る舞おうとしているのが分かるので、ルシールもエルノノーラをなるべく大人扱いするように心がけている。

――これはここまでの移動の旅の中で気づいた事だった。




そして。

チラリとライナートの向かいの、横手のソファーに座る男性を見た。


ソファーに座っていても分かるくらい、背が高い彼は勇者レオだ。

長い足を持て余すように、ソファーで組んでいる。

黒髪黒目の彼は、前世で馴染みのある色で、親近感を持てた。

――第一印象では。


21歳という、この部屋に集まる中で一番年長であるレオは………「子供」だった。



「ルシールちゃん、魔法使って見せてよ。俺、魔法って見たことないんだ。あれだろ?四次元なポケットみたいなヤツ使うんだろ?いいな〜」


『四次元なポケット』

あの国民的アニメのアレを指すのだろう。

その言葉で、勇者レオもまた転生者だと気づく。


「何言ってんだコイツ」という冷たい目を勇者に向けるカルヴィン王子とライナートは違うようだが。


だけどレオに「転生者ですか?」とルシールが聞くことは、これから先もないだろう。

何というか、レオは面倒くさい空気をまとっている。



「ねえねえ、どうして聞こえないフリするわけ?ルシールちゃんって、エルと同じくらい冷たいよね〜」


エル。――レオが呼ぶエルノノーラの事だ。


意外な事に、エルノノーラとレオは恋人同士だった。

言動には問題ありそうだが、確かにレオも勇者に相応しく格好がいい。

顔も整っているし、背も高く体格もいい。

二人が黙って並んでいれば、お似合いの恋人達に見えるだろう。

だけど「恋人」と言うには、エルノノーラの態度は冷めたものだった。




コホンとカルヴィン王子が小さく咳払いする。


「ルシール嬢。勇者レオの話ではないが、もし良ければ魔法を見せてもらえないだろうか。ルシール嬢の魔法を疑う訳ではないが、好奇心を感じてしまってね」


「あ、はい。先ほどもお話したように、私の魔法は微弱なのですが。それでもよろしければ」


そう言ってルシールは、カバンをゴソゴソしてマシュマロを取り出した。



『マシュマロ?』

カルヴィン王子とライナートとレオが不思議そうに見つめる。


ルシールはマシュマロに、同じくカバンに入れていた竹串をプスと刺して、火の魔法で焼きマシュマロを作り、「はい」と王子に手渡した。


次にまたプスとマシマロに竹串を刺して、二個目の焼きマシュマロを作ってライナートに手渡す。


三個目を勇者レオに、四個目をエルノノーラに、最後に自分の分を焼く。


あちちと言いながらマシュマロを食べて顔を上げると、皆の視線はルシールに向いていた。

「あ、おかわりですか?焼きマシュマロ、美味しいですからね。これをクッキーに挟んでも絶品ですよ」


いそいそとマシュマロを取り出そうとするルシールを、カルヴィン王子が止めた。

「いや、十分にご馳走になった。……他の魔法はどうだろうか」


「あ。じゃあ風の魔法を。熱いものを食べましたからね」

そう言ってそよそよとカルヴィン王子の前髪を揺らした。



「ルシール嬢。出来れば討伐に関する魔法を見せていただければと思うのですが」

そうライナートに声をかけられ、ルシールは快く頷く。


そしてテーブルの上に、いつもより小さな泥兎を一羽生み出した。

ピルピルピルピルと小さく泥兎が震える。


「これは……?」

ライナートが静かに尋ねる。


「泥兎です」

「泥兎?」

「はい。外だともう少し大きくて、三羽出せるんですけどね。部屋の中では、これが精一杯なんですよ」


「どのように討伐に関わるのでしょうか」

ライナートが尋ねる。


「飛びます」

「飛ぶ?」

「はい。飛んで相手にぶつかります」


「どのくらいのダメージを与えるものでしょうか?」

更にライナートが尋ねる。


「服を汚します」

「……そうですか。服を」





ライナートとルシールのやり取りに、エルノノーラは震えた。


どう見ても王子は、光魔法の事を指していた。

先ほどまで魔王討伐と光魔法の関係を話していたからだ。

それを火の魔法でマシュマロを焼き、風の魔法でそよ風を送り、泥兎まで生み出してみせた。


『どうして?どうしてそんなに可愛いのよ!マシュマロを焼いて見せるにしても、食べやすいように竹串に刺してるし、全員分も焼くなんて!

それにあの感情ゼロの陰湿なライナートまで黙らせるなんて、最高過ぎるわ!私のルル様……!!』


エルノノーラは今日も心臓を撃ち抜かれて、痛いくらいだった。

胸に震える手を当てて、目をギュッと目を瞑る。




そんなエルノノーラを、カルヴィン王子とライナートは静かに見つめていた。


『エルノノーラがこれだけ浮かれているのは、おそらくルシール嬢が、エルノノーラのおかしな妄想の聖女像に当てはまったのだろう』

――そう見当をつける。


もしそういうことならば。

『ルシール嬢は、今まで散々聞かされてきた、あり得ない人物像という事か』


初対面にも関わらず、二人は聖女ルシールを理解できた気がした。





その横で勇者レオが騒ぐ。

「ちょっと〜ルシールちゃん!泥蛙、こっちに飛んで来たし!俺、蛙嫌いなんだよ〜。なんかツヤツヤしてて嫌なんだよ〜」


ルシールが訂正する。

「レオ様、蛙じゃなくて兎ですよ」

「え〜ピョンピョン跳ねてんじゃん。…わ!また飛んだ!」


残念そうにルシールが呟く。

「レオ様……勇者様なのに……」

「え〜勇者だって蛙は嫌いなんだよ〜。もうマジで早く消してよ〜」



王城で、初めての顔合わせと共に開かれた魔王討伐会議は、緊張感なく終わっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ