第79話 【魔熊】
2階層へ続く階段の周辺は草原になっており、出現するモンスターのレベルは0〜50と幅広かった。
「レベル50程度なら余裕だな」
戦闘系の固有スキルを持たない蒼真や晴人でも難なく倒せる。成長倍率1200倍の恩恵がそのまま出ているのだろう。
俺たちは草原を抜けて森エリアへ入った。草原は明るかったが、話に聞いていた通り森エリアの内部は薄暗く、高い木々が光を遮っている。
「気をつけながら進むぞ」
様々なきのこが生えていたが、食べようとは誰も思わない。慎重に進んでいると——俺たちの間を弓矢がかすめた。弾丸をゆうに超えるほどの速度だ。
「化け物がいるぞ……!」
警戒態勢に入り、高くそびえる木々へ視線を向ける。影のようなものが見えた瞬間、逃すまいと濃縮したウォータージェット砲を放った。水流は木々をえぐりながら影を正確に貫通し、重い落下音がした。
四人でそこへ向かうと——落ちていたのは木で作られた人形だった。
「騙された!」
晴人が叫んだ瞬間、周囲の木々の間でキラリと光るものが見えた。
「危なっ!」
颯真が【時空歩法】を即座に発動し、俺たちをその場から瞬時に移動させた。直後、さっきまで俺たちがいた地点に16本の弓矢が突き刺さった。
「智也、話がある」
「うん?」
「俺が時空歩法でお前を上空に飛ばす。お前は上から敵を狙い打ちしてくれないか?」
「場所が分からないけど」
「蒼真の解析データを晴人の情報送受信魔法でお前にリアルタイムで送らせる」
「わかった」
言い終えた瞬間、颯真は現在の限界である時空歩法5連続使用を行い、勢いそのままに俺を上空へぶん投げた。颯真が親指を立てながら木々の下へ落下していくのが見えた。
高い木々の頂点すら超えた上空で、すぐに解析データが送られてきた。視界と同期させると、敵の魔物16体が赤く発光するように見えた。落下が始まる前に一息で全員へウォータージェットを撃ち込む。赤い光が次々と地面へ落ちていく。全員仕留めた。
落下しながら着地点を確認すると、そこにたまたまスライムがいた。それをクッションに無傷で生還した。
「全員死んでたか?」
颯真が親指を立てながら落ちてきた死体を一体掲げた。
しかも俺はレベルが80から90へと10上がり、間接的に支援した他の三人も80から85へ5上昇していた。
「よしオッケー!どんどん奥へ進もう!」
その後もチームプレイの精度を上げながら進み続けた。レベル90のオークの亜種、鬼面オークなども倒しながら奥へ踏み込んでいくと、木の葉の色が緑から濃く暗い色に変わり、木の高さもさらに増していた。
そんな場所で、それは姿を現した。
全身が黒く、暗い空間の中でひときわ目立つ赤い瞳を持った、体長5メートルほどの巨大な熊だ。
「あれ、この森エリアのボス……推定レベルは130。百手鬼よりは弱いけど、140の百手鬼はクラス全員で協力してやっと仕留めた相手だ。今の俺たち4人でいけるのかな」
「あの時より強くなっているのは確かだ。やるぞ」
俺は威嚇も兼ねて渾身のファイアビームを魔熊へ放った。
しかし魔熊の分厚い皮膚に弾き返され、そのまま凶暴化した魔熊が目にも止まらない速度で俺の腹部に爪を突き立て、そのまま後方へ吹き飛ばした。
腸が抉られるような音が静寂な森に響いた。
痛い痛い痛いッッッ……!正常に息ができない。呼吸しても意味があるのかと思うほどの激痛が腹部を支配している。
「大丈夫か!?」
振り返ろうとした颯真に、俺は力を振り絞って言った。
「前を……向いて。そいつを仕留めろ……!」
颯真が蒼真の解析データを受け取りながら魔熊と戦い続ける声が遠ざかっていく中、俺の意識はだんだんと——
目が覚めた。相変わらず薄暗い森の中だ。目の前に颯真が小瓶を手に持ってこちらを見ている。
「バカタレがよ……お前、死にかけてたんだぞ」
「あれ……魔熊は?俺の腹は……」
腹を見ると、服はその部分だけ破れていたが、皮膚は綺麗に元通りになっていた。
「魔熊か……そうだなぁ。お前が倒れた後も戦い続けてたけど、普通に俺も死にかけた。でもそこで——晴人の幸運神が作用したのかは分からないけど」
「どうなったんだ?」
「だんだん木が高くなってたじゃん、あの辺の頂上付近500メートルのところに、木の一部が脆くなってる箇所があったんだよ。蒼真が気づいて俺に報告してくれて、そこをファイアボールで狙い撃ちしたら急落下……で、ご覧の通り串刺しさ」
颯真が少し体を動かして視線を通すと、魔熊の死体に木が突き刺さっているのが見えた。
「運が良かったな……ところで、経験値は入ったのか?」
「もちろん!お前はやられてたから対象外だったみたいだけど、俺たちはちゃんと入って——念願のレベル100に到達したぞ!」
「いいなぁ……俺はもっと警戒しないと」
「それと、魔熊を仕留めた報酬として回復薬が4本手に入って、そのうち1本をお前に使ったってわけ。ちなみに3階層への通行証も取ってあるから、行こうと思えばすぐ行けるぞ」
「俺が言うのもなんだけど……これから先はレベルの格差がさらに広がると思う。今日はここで一度休もう。3階層に入ったら帰れないしな」
「それもそうだな。蒼真、どこで休めばいいかな?」
「解析したら中央の草原エリアにセーブポイントみたいな場所があるみたいだから、とりあえずそこに向かうしかないな」
「そうしよう」
俺たちはセーブポイントへと向かった。




