第74話 【マボロシ森】
マッピング機能でノックしてきた人物がすでに分かっていたが、特に声には出さずに答えた。
「入って」
ガチャッ。
「あ!政宗先生……いや〜、ここに当たっていてよかったです」
確か智也、だったか。その隣にいるのは雪乃だ。
「よくたどり着いたね。この小屋は狭いけど、ここを合流地点として2〜3日は滞在するつもりだよ」
「その間、訓練はどこでやればいいですか?」
その辺でやってくれって言いたいところだけど、今の状態で魔王軍に見つかったらボコボコにされかねない。テラミルワームを仕留めた時に派手な技を使ったから、バレるのも時間の問題だしな。俺が管理できるこの小屋の周辺が訓練する場所としては適正かな、狭いけど
「俺が見てやれるこの小屋の周辺でやってくれ」
「あと2〜3日経ったら、全員が揃っていなくても問答無用で幻の迷宮に突入するから、そのつもりでいてくれ」
「分かりました!」
とは言ったものの、正直なところ俺は今まで成長倍率のゴリ押しで強くなってきただけだ。人に教えるとなると、どこから手をつければいいのか……という不安を内側にしまいながら、二人にとりあえず食料を取り出した。
「よし、まずご飯にしようか。1日何も食ってないだろ?」
「いえ、もう食べました」
「え?」
「雪乃の『万象錬成』が強くて、食料も作れるんです」
「……そうか。やっぱり固有スキルは強いな」
「いやいや、政宗先生の固有スキルも滅茶苦茶じゃないですか」
「まぁ、すでに食べてるなら早速訓練といこうか」
三人で小屋の外に出た。俺は胸を張り、単刀直入に言った。
「よし、正直に言う。訓練してやると言ったが、何を鍛えてやればいいか分からん。だからまず二人が足りていないと感じることを教えてくれ」
智也と雪乃は一瞬驚いた顔をしてから、それぞれ口を開いた。
「じゃあ自分から言います。俺は魔法の根本的な威力が足りていないんです。どうすればいいでしょう?」
「私は、万象錬成を使うのに必要な万物への理解が足りない気がしています」
俺はうんうんと頷いた。
「よし、智也にはまず三つの選択肢がある。一つ目、魔法の術式の効率化。二つ目、極大魔術の使用。三つ目——いっそのこと魔法を捨てる」
「え!?」
「一つ目は単純だ。魔術を行使するための術式を効率化すれば、同じ魔力量でも威力を引き上げることができる」
「はい」
「二つ目の極大魔術についてだが——」
「すみません、それは自分には無理だと思います!無限魔力炉があるせいかどうか分からないんですけど、魔力の上限値がなかなか伸びなくて。高位の魔法を使うと魔力がマイナスに転落して最悪死にます」
「そのデメリットを完璧に解決できる方法がある。名付けるなら——魔力のストックだ」
「そんなものがあるんですか!?」
「かなり難しいぞ。理論はこうだ」
俺は一歩前に出て説明を始めた。
「まず戦闘前でもいいし日常的に行ってもいいが、体内の魔力を最大値の9割だけ体外へ放出する。そして残り1割の魔力で、放出した9割が漏れ出ないように薄い膜で包み込み、その膜を魔力回路で体と接続する。これで9割分を体外にストックしたまま使いたい時に引き出せる。消費しながら体内の1割は回復していく——次は8割放出して1割で保護、また回復したら7割放出と繰り返せば、最大で自身の魔力上限値の4.6倍ほどが使えるようになる」
「それは……画期的だ!」
「しかもこの術式全体を効率化すれば、9.5割放出で0.5割保護という運用も可能になる。そうなったら凄まじいことになるぞ」
「なんで他の魔術師はやらないんですか?」
「単純に魔力回復速度が遅すぎるからだ。この世界には魔力回復薬のようなものがない。自力回復だけでこれを繰り返すのは現実的じゃない。だが、君の無限魔力炉なら話が違う」
「なるほど!今すぐやってみます!」
智也は少し離れた場所で練習を始めた。正直言ってあのスキルは、理論値だけで見ると『剣神の後継者』以上のポテンシャルを秘めていると思う。
「よし、次は雪乃だ。正直に言う——君のスキルは剣術にも魔術にも属していないから、自分で道を切り拓くしかない部分が大きい」
「そ、そんな!」
「ただ、一つだけ言えることがある。万象錬成は、架空のものすら生み出せる可能性があるということだ」
「というと?」
「恐らく君の万象錬成は、思い浮かべたものに近い何かを選んで生成しているわけじゃない。思い浮かべたもの通りのものを、そのまま生み出している」
「はい。だから細部まで詳しくイメージしないと、食パン一枚すら満足に作れないんです」
「では——この世に存在しない、架空のものを超詳細にイメージしたらどうなると思う?」
雪乃の目が大きく見開いた。
「確かに……この世に存在しないものを、ゼロから作り出せるということ。それは……革命だわ!」
「そういうことだ。あとは架空の何かを詳細にイメージする特訓をするだけだな。俺に言えることはここまでだ。即死効果が付与された武器でも、どんな物理法則も無効化する結界でも——思い浮かべられるなら、作れるかもしれない。頑張れ」
そう言い残して小屋の中に戻った。
訓練というよりは助言に近かったが、二人が確実に強くなれる方向性は示せたと思う。万象錬成で本当に架空のものが生み出せるかどうかはまだ分からないが、可能性は十分ある。
それにしても——成長とか能力の覚醒とか、以前は何かアニメか漫画で見た気がするんだが、思い出せない。地球での記憶がどうしても断片的にしか浮かばない。完全には思い出せないまま、この世界に来てしまったのだろうか。
そんなことを考えていると、小屋のドアがバンッと勢いよく開いた。
「うわっ、びっくりした」
「政宗先生!他の勇者が5人来ました!彼らにも助言をお願いします!」
智也が息を切らして言う。
「はいはい、待ってろよ」
こうして、幻の迷宮への出発まで3日間、俺は集まってくる勇者たちのスキルに関する助言を次々とこなし続けた。気づけばあっという間に時間が過ぎていた。




