第68話 【魔物達】
政宗先生が黒竜を一撃で仕留めた後、俺たちは訓練も兼ねて周囲の弱いモンスターを狩ることになった。
俺は無限魔力炉を活かして、ファイアボールやウォーターボールを連射し続けた。加えて地魔法で細かい石礫を生成し、それをウォーターカッターに混ぜることで切断力を底上げした弾を放つ。
魔法組は基本的に遠距離から攻撃できるため消耗が少ない。一方、物理攻撃組は体を動かし続けるため相当な体力を使っていた。ただその分、大量の敵を効率よく仕留めていく。大規模魔法がまだ使えない魔法組よりも、物理組の方が早くレベルが上がるだろう。
俺も物理組に負けじと、弱いファイアボールを途切れることなく連射し続けた。
「ゴブリンは一発で仕留められるけど、ゴーレムはウォーターカッターじゃないと厳しいな」
そう呟きながらふと蒼真の方を見ると、神眼での解析に集中しているうちにゴブリンの接近に気づいていなかった。刃が迫ったその瞬間——巨大な腕がゴブリンを横から吹き飛ばした。
「よそ見していると危ないですよ」
楓が穏やかな声で言った。
「このゴーレムは……?」
「固有スキル『精霊王契約』で召喚・契約した、レベル1の地属性精霊王です」
「……強いな」
改めて周囲を見渡すと、最初は神眼のおかげで効果は分かっていたものの発動方法が掴めなかった者たちが、次々とスキルを使いこなし始めていた。
特に目立っていたのが瀬川千尋の『契約神』と小倉莉奈の『魅了女王』の連携だ。ゴブリンからオークまでの魔族の精神に干渉して攻撃性を消し、そのまま契約神で配下として取り込んでいく。気づけば周囲に従属した魔族が増え続けていた。配下は『モンスターBOX』という専用の格納スキルに収められるらしく、増やせば増やすほど有利になるとのことだ。
……それにしても、女子陣営のスキルが規格外に強くないか?
そうこうしているうちに、辺りに魔族の姿は一匹もいなくなっていた。
政宗先生がそれを確認し、口を開いた。
「よし、最低限の戦力はある。ここからさらに魔族の領域へ踏み込むぞ。ただ一つ言っておく——今のをそのまま基準にするなよ。魔力の濃度が増すにつれ、モンスターの基礎能力値も上がる。つまり人間界のゴブリンと魔界のゴブリンは根本的に強さが違う。これからどんどん強くなっていくから、慢心するな」
全員が静かに頷いた。
俺たちが向かうルートは、政宗先生がついでに捕まえたゴブリンから吐かせた情報をもとに以下の通りになるらしい。
・関門都市・幻の迷宮
・魔界中央部・バルゼイン要塞
・魔界最深部・終焉の間
・魔王城
まず最初の目的地は、人間界に最も近く、ここを突破しなければ奥へ進めないという幻の迷宮だ。道中にはいくつかの魔界の集落も通ることになりそうだ。
「今日はまずこの近くにある地獄の峡谷を越えるぞ」
5kmほど歩くと、視界が開けた。
「うわ……でかい」
先が霞んで見えないほどの巨大な峡谷だった。両側の崖壁には無数の穴が口を開けており、覗き込んだ真下には漆黒の深淵が広がっている。落ちたら間違いなく終わりだという確信が、全員の顔に浮かんでいた。
「どう乗り越えるか……」
政宗先生が腕を組んで考え込み、俺たちに意見を求めた。
「転移魔法で向こう側に飛べばいいんじゃないですか?」
神崎優斗がそう言うと、政宗先生は首を振った。
「転移魔法は正確な座標が分かる場所か、一度訪れたことがある場所にしか使えない。1m先でも座標が曖昧なら移動できないんだ」
「じゃあ、政宗先生が先に向こう側まで行って、戻ってきてからみんなを転移させるというのは?」
小川晴人がそう提案した。
「あそこは遠すぎる……。やはり一度、峡谷の底まで降りて通れる場所を探しながら転移で皆を移動させるしかなさそうだな」
そう言い残すと、政宗先生は躊躇なく峡谷へと飛び降りた。
1分が経った。5分が経った。10分が経っても、政宗先生は戻ってこなかった。
クラスメイトたちに動揺が広がり始めた。このまま先生が戻ってこなかったら——固有スキルがあるとはいえ、あの黒竜のような化け物が現れたら、俺たちだけでは勝てない。誰もそれを口にはしなかったが、全員が同じことを考えているのは雰囲気で分かった。
沈黙が続く中、突然後方の草むらが激しく揺れた。
座学で聞いたことがある。ギガノトクスだ。
巨大な猪を思わせる魔獣で、人間界に現れれば村一つを壊滅状態に追い込み、分隊規模でなければ討伐不可能とされている凶悪な魔物だ。全員が瞬時に戦闘態勢を取った。
ギガノトクスはこちらを見た瞬間に興奮し、猛然と突進してきた。
次の瞬間、竜牙が両腕を部分的に竜化させてギガノトクスの角を正面から掴み、そのまま腕力だけで峡谷へ向けて放り投げた。
巨体が宙を舞い、深淵へ落ちていく。
全員が崖を覗き込んだ。
落下するギガノトクスが崖壁の穴に差し掛かった瞬間、穴から何かが飛び出した。ミルワームに似た、体長10メートルを超えるような白い生物だ。それは体長5メートルはあるギガノトクスを——一口で丸呑みにした。
「……」
誰も声を出せなかった。
村を壊滅させるほどの魔獣が、一口で消えた。魔界の生物は、次元が違う。
全員が戦慄していたその時、眼前に青い魔法陣が展開され——政宗先生が何事もなかったように帰ってきた。




