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第67話 【魔族領域へ】

「おい、政宗!王様に呼ばれてるぞ」


剣聖バルクから声がかかった。何か話があるのだろうか。


王の間へ向かうと、王が険しい表情で待っていた。


「政宗、現在魔族と人間の国境付近で、魔族による人間への大量虐殺が起きていることは知っているな。各国から軍を派遣しているが、魔族の力は日に日に増しており歯が立たない状況だ」


「そこで——明後日、政宗が率いる勇者パーティで魔王に挑んでもらいたい」


「明後日、ですか」


「あぁ。他の人員は魔族に敵わない可能性が高い上、それぞれの国の防衛もある。今動けるのはお前しかいない」


「俺は問題ないですが……勇者たちはまだ日が浅くて」


「勇者たちは、道中で何人か死ぬかもしれん。それでも魔王討伐を進めてくれ。それと、長期遠征になるから莫大な量の食料が必要になる。お前に空間ボックス系のスキルを2日以内に取得してもらいたい。成長倍率1000万倍超えなら不可能ではないと思っての頼みだが」


「できると思います」


「よし。ダニエルに教わって取得してくれ。明後日には出発だ」


初めての魔族領域への突入か。



その後、俺は今まで関わってきた人たちへ別れの挨拶をして回ることにした。とはいえ、ルミナスの牙のメンバーはグラニス奪還の戦いでほとんど逝ってしまった。残っている縁のある人間はそう多くない。


まず向かったのは、自分の屋敷に住んでいるマフィスのところだ。


「おーい、マフィス?」


俺が呼びかけると、まるで舎弟のように小走りでやってきた。


「政宗、どうした?」


「実は魔族の領域に行くことになった」


「……それは魔族に嫁ぐということか?」


「違う違う!魔王討伐に行くってことだよ。なんだよ嫁ぐって!」


「流石にな(笑)。で、勇者たちと一緒に行くわけか。最低でも1年は帰ってこれないだろうな」


「うん。もしかすると死ぬかもしれない。だから最後に——この屋敷、マフィスに譲ろうと思って」


「え!?マジで!?」


「そうしたら、クリスクさんの娘のクロエも一緒に住めるだろ?」


「あ〜……そうだな。一回クロエにも聞いてみるよ。政宗も直接挨拶してから行ったらどうだ?」


「よし、じゃあクロエがいる侯爵のところに行ってくるか」


「その侯爵の屋敷は俺なしでは入れないかもしれん。一緒に行くか?」


「頼む」


俺はマフィスから侯爵の屋敷の座標を聞き、転移魔法で二人まとめて瞬時にそこへ飛んだ。


「うわっ!転移魔法使えるなら先に言えよ!」


「ごめんごめん」


執事に用件を伝えると、マフィスパワーですぐに中へ通された。案内された客室で二人並んで椅子に座っていると、白いヒゲを蓄えたダンディな紳士が入ってきた。


マフィスが素早く立って握手を交わす。


「おい!早く立て!」


「いや、お構いなく」


紳士がそう言った。屋敷の主人——クロエを預かっている侯爵だろう。


「して、マフィス君。用件は?」


「はい、この政宗にクロエを会わせてやりたいんです」


「ほぅ!グラニスからクロエを救い出した人物か!すぐ呼んでくるから待っておれ」


待つこと数分。扉が開いた。


以前よりずっと顔色が良く、すっかり元気を取り戻したクロエが入ってきた。


「あ!政宗さん、久しぶり!」


「お、元気になったな」


「うん!この前はごめんね。見苦しいところ見せちゃって。あのグラニスから助け出してくれたこと、本当に感謝してる。あそこで死んでたら、勇敢に戦ったお父さんに顔向けできなかったもの」


「こちらこそ……クリスクさんを力不足で死なせてしまった。本当に済まない」


「俺からも謝る」


マフィスが隣で、真剣な表情のまま深く頭を下げた。


「しょうがないじゃない。お父さんも強かったけど、四天王はそれ以上だったんだもの」


クロエは静かに、でもしっかりとそう言った。


「それで、わざわざ来てくれた理由は?」


「魔王討伐に行くことになったから、最後に挨拶をしておこうと思って」


クロエの目が大きく見開いた。


「え……あの、最初にゴブリンに刺されてた政宗さんが?」


「あそこから色々あったんだよ」


「世の中、何があるか分からないわね……」


「まぁとにかく、最後に顔を見ておこうと思ってな」


クロエの表情が一瞬曇り、それからキッと真剣な目でこちらを見た。


「政宗、一つだけ言わせて。最後の挨拶なんて言葉、二度と使わないこと。また私の大切な人が死んだら、私がどうなるか分かる?絶対に生きて帰ってくるのよ!」


「できる限りそうするよ」


「できる限りじゃない!絶対よ!ここで死んだら、天国のお父さんも悲しんじゃうんだから!」


「わかった、わかった!」


侯爵とマフィスが和やかに微笑んでいるのを横目に、俺は最後に「絶対生きて帰る。安心しろ」と親指を立ててみせ、侯爵の屋敷を後にした。



屋敷の廊下に出てから、侯爵がマフィスに静かに語りかけた。


「マフィス君。彼が帰ってきた暁には、クロエを任せてもいいと思うかね?」


「私個人としては、ぜひ。クロエも喜ぶと思います」


「そうか。この数週間、親のような気持ちでクロエを見守ってきたから分かる——クロエの大切な人が戦地へ赴くというのは、こんなにも胸が痛いものなのだな」


「私は政宗に助けられてきた。だからこそ——彼には必ず生きて帰って、英雄として後世に語り継がれてほしい」


二人がそんな話をしているとは知らず、政宗はマフィスが出てくるのを外で待っていた。


「何を話してたんだよ」


「いや、何も」


マフィスと並んで転移魔法の準備をしていると、玄関の方からクロエと侯爵が出てきて「頑張ってね!」と声をかけながら手を振っていた。政宗はその光景を5秒ほど目に焼き付けてから、転移魔法を放った。


屋敷に戻った後、政宗は屋敷と土地と資産の譲渡書をまとめ、マフィスとともにサインをした。


「ありがとな!魔王討伐、頑張れよ!」


マフィスのその言葉を背に、俺は再び転移魔法で王宮へ戻り、空間ボックススキルの取得へと動き出した。



2日後、空間ボックススキルの取得も済ませ、魔族領域突入の日を迎えた。


目の前には高さ10メートルにもなりそうな食料の山が積み上げられていた。1年分ともなるとこうなるのか。俺はそれをすべて空間ボックスに収納してから、融合スキル【解析】を使ってスキルの整理に取り掛かった。スキルの数が膨大になりすぎて、個別管理が限界になってきていたからだ。


解析の結果、以下の形に統廃合された。


───────────────

・《肉体覇王》(Lv.1)

≪統合元≫

筋肉/筋肉の鎧/獣の肉体/疾風の如き早さ/機動力ブースト/筋肉層/筋肉断層/筋肉エボリューション/長期的筋肉/瞬発的筋肉/持久力/肺活量

≪効果≫

体力・攻撃力・防御力に+[Lv*500000]

全ステータスに+[Lv*1000]%

素早さ・体力に×[Lv*100+3.7]%

攻撃力・防御力・筋肉系基礎値をさらに×[Lv*2000]%

肺活量・持久力由来の戦闘継続補正が常時作用

筋肉の動作効率に+[Lv*100]%


・《剣神》(Lv.1)

≪統合元≫

剣術/剣の才能/剣の悪魔/間合いのコントロール/距離感/外剛/フットワーク

≪効果≫

剣術熟練度に+[Lv*100000]、さらに×[Lv*1000]%

素早さ・攻撃力に+[Lv*10000]

間合い・フットワーク・外剛の補正が剣撃全般に自動適用

剣術に関する直感的な判断力(経験由来)に対して効率+[Lv*500]%

剣聖・2つを制し者との連携時、剣術補正に追加×1.5


・《万象魔導》(Lv.1)

≪統合元≫

魔術/魔術理解/火魔法/水魔法/地魔法/風魔法/結界魔法/魔力感知/魔力的知見(魔力的思考・魔法的認知力・魔法的認識能力・魔力的想像力・魔力回路)/魔力錬成

≪効果≫

魔術・四大元素魔法・結界魔法の熟練度に+[Lv*80000]、さらに×[Lv*800]%

魔力感知の範囲・精度に+[Lv*5000]%

魔力の質が常時向上し、魔力回路の効率に+[Lv*3000]%

賢者・2つを制し者との連携時、魔術補正に追加×1.5


・《究極弓聖》(Lv.1)

≪統合元≫

弓術/弓の帝王/安定感/弾道計算/超演算/演算的思考能力

≪効果≫

弓術熟練度に+[Lv*50000]、さらに×[Lv*1000]%

安定感・弾道計算が常時MAXとして作用

演算精度に+[Lv*2000]%、複数目標への同時弾道計算が可能に


・《超越肉体》(Lv.1)

≪統合元≫

ランナー/思考速度/空間認識能力/器用さ/超集中

≪効果≫

思考速度・空間認識・器用さに+[Lv*80000]

戦闘中の情報処理速度に×[Lv*500]%

超集中発動時、全行動精度に+[Lv*3000]%

移動・回避・精密動作の総合補正が常時作用

───────────────


今まで積み重ねてきた基礎スキルと常時型上級スキルがまとめて整理され、それぞれより高次の効果へと昇格した。しかも各統合スキルは対応する行動を取るたびに全体が底上げされる仕組みになっているため、以前のように個別スキルごとに対応した行動を取り続けなければならないという手間も消えた。


ただ一つ気になるのが、この解析スキルは統合の際に元のスキルを消してしまうという点だ。元のスキルの効果を残しながら上位効果を重ねられる融合スキルと比べると、どちらが優れているのかは場合によりそうだな。


とりあえず今は考えても仕方ない。勇者たちのところへ向かって、転移魔法で魔族領域へ飛ぼう。



「勇者達よ、魔王を討伐しに行くぞ!」


全員の顔に覚悟の色が浮かんでいた。さすがだ。


「あの……」


「何だ?」


「どうやって遠く離れた魔族領域まで行くんですか?」


「転移魔法だ。座標は送られてきている」


「魔族領域の中での移動手段は?」


「馬車も考えたが、どうせ途中で襲われる。歩きでいこう」


全員がきつそうな目でこちらを見てきた。まぁそうか。


「とにかく、もう時間がない。行くぞ!」


勇者たちが集まり、転移魔法で一気に魔族領域と人間領域の中間地点へ飛んだ。


着地した瞬間、空気が変わった。


王都アルカディアの澄んだ青空とは何もかもが違う。頭上に広がるのは、禍々しい渦を巻く黒雲と、黒と赤が混ざり合ったどす暗い空だ。見ているだけで意識を吸い込まれそうな、不吉な色をしている。


地上にはゴブリンとゴーレムが徘徊しており、そして——上空に巨大な黒竜が翼を広げていた。


黒竜がゆっくりとこちらへ目を向け、口を開いた。


「ほぅ……噂の人間側の最高戦力がわざわざ戦線に出てきたか。こいつらを仕留めれば四天王への道が開けるかもしれんな」


言い終えると同時に、黒竜の全身が紫に発光し始めた。巨大な口腔内で紫と黒が混ざり合ったエネルギーが急速に凝縮されていく。全体に向けて放つつもりだ。


「皆、安心しろ。黒竜は俺が何とかする」


俺は静かにそう告げ、鉄砲の形に組んだ指先を黒竜へ向けた。


指の先端に黒いエネルギーが纏い始める。それが小さな球となり、やがて周囲の光すら引き込む小さなブラックホールへと変化していった。


「これは魔術熟練度が上がったことで使えるようになった技だ——【第七階位:マナ】。勇者達、しっかりと目に焼き付けておけ」


「死ねぇぇぇい!」


黒竜が紫のエネルギー弾を吐き出した。俺はそれを受け流さず、真正面から貫くように黒い槍を放った。漆黒の槍がエネルギー弾を突き破り、そのまま一直線に黒竜の顔面へ直撃する。顔面が爆ぜ、巨大な体が空から地面へと落下していった。


轟音が大地を揺らした。


「よし。勇者たちはゴーレムなどの弱い魔物を狩ってレベルを上げろ。スキルも積極的に取得しておけ」


「「わかりました!」」


こうして——魔王を含む魔族全てへの反逆が、幕を開けた。

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