第66話 【急な話】
オーク討伐訓練が終わった後、勇者全員が広間へ招集された。大事な話があるとのことだ。
「君たちに残された時間は、我々が想定していたより遥かに短い」
司会の人物が静寂の中で口を開いた。
「ここ数日の間に魔王軍は急速に勢力を拡大した。魔族たちの領土も広がり続け、国境付近では人間への快楽殺人が繰り返されている。本来ならあと1ヶ月は訓練に充てる予定だったが——明後日から、魔王討伐へ出向いてもらう。以上だ、解散」
重い沈黙が広間を包んだ。
明後日……?今の、まだ何もできていないような状態で?しかも急に決まったのに、およそ1年分はいると言われる遠征の食料や装備がすぐに用意できるのか。疑問は次々と浮かぶが、返す言葉が出てこなかった。
クラスメイトたちは不安を顔に貼り付けたまま、黙って寮へ戻っていった。
「なぁ智也……大丈夫かな。明後日だろ?ヤバいって、まだ何もできないのに……」
部屋に戻ると、蒼真が話しかけてきた。
蒼真の固有スキルは『神眼』だ。鑑定・解析という性質上、他の勇者のような直接的な攻撃手段を持っていない。それが心配なのだろう。
だが、それを差し引いても俺自身も不安だ。まだ未熟な魔術、この世界の魔物についての乏しい知識、そして精神的な脆さ——つい数週間前まで普通の学生だった俺たちが、殺し合いしかない魔族領へ踏み込んでいけるのか。
「……正直、心配だ。でも明後日まで時間はない。その短い時間でできることを全部やり切って、二人で生き残ろう」
「う、うん」
蒼真は小さく頷いた。その表情が、いつもより幾分か頼りなく見えた。
その日は早く眠りにつき、翌朝から最後の訓練が始まった。
大半のクラスメイトは明らかに緊張していた。動きが硬く、判断が遅い。昨日までとは別人のように精彩を欠いている。
一人を除いて。
「クソクソクソクソッッッ!!!」
恒一だ。政宗先生にデコピン一発で吹き飛ばされた昨日の悔しさを引きずったまま、怒りに任せて剣を振り続けている。しかしそれが単調な剣筋に繋がっているかといえば、まったく逆だ。感情が乗るたびに剣の鋭さが増していく。これも固有スキルの効果なのか、それとも本物の才能なのか。
いかんいかん、人のことを考えている場合じゃない。俺に残された時間は、魔術の威力をどれだけ上げられるかに全て使うべきだ。量ならいくらでも出せる。あとは一発の重さをどう高めるかだ。
そう集中しようとしたその時——
キュイイイイイイイインッッッ
黒板を爪で引っ掻いたような甲高い音が訓練所に響き渡った。
べゴンッ
続いて、地面が揺れるような鈍い爆音。
「す、すみません!色々試してたらとんでもない武器ができてしまって……!」
声がした方を見ると、美月・琴音・楓の三人がいた。様子を見るに、固有スキルを組み合わせたのだろう。近くで話を聞いていた女子生徒たちの会話から察するに、美月の『武器錬成』で本体を生成し、琴音の『星霊召喚』で雷の星霊、楓の『精霊王契約』で火の精霊王のエネルギーを取り込んで起爆させたらしい。その融合兵器の名は『ボルティクス・ファイアガン』——二人の出力次第では山をも吹き飛ばせるという。
見た目は太いレールガンの本体に、右側に雷の星霊エネルギーを取り込むモーター、左側に火の精霊王エネルギーを取り込むモーターが左右対称に接続された、とにかく物騒な兵器だ。
……そうか、固有スキルを複数組み合わせれば単独では出せない威力が生まれるのか。いつかうまく活用できそうだ。頭の片隅に置いておこう。
そうして最後の訓練も終わり——ついに、魔王討伐へ向かう日が来た。




