第65話 【オーク】
颯真と蒼真と共に森の奥へと進んでいく。オークの気配はまだない。のんびりと木々の間を歩いていると、蒼真が足を止めた。
「周囲を解析してたら、ギガントオークとかいう強そうなのが引っかかったんだけど……」
「ギガントオーク?詳細は見れるか?」
「えーと、レベルは50前後で、通常のオークの筋力の2〜3倍はあるみたい。正直、勝てるか分からない」
「まだ気づかれてないか?なら逃げるぞ」
三人で小声で話しながら距離を取ろうとした、その瞬間——
ブッ。
静寂と自然の音を切り裂くような音が、森全体に響き渡った。颯真のやつがおならをした。
当然、気づかれた。
遠くの茂みが揺れ、ギガントオークが轟音と共にこちらへ突進してくる。
「ヤバイヤバイヤバイ!」
逃げようとした俺たちの前へ、ギガントオークが瞬時に先回りした。脚ほど太い拳が振り上げられる。
その瞬間、颯真が時空歩法でギガントオークの背後へ回り込んだ。そのまま地魔法【バレットツインク】を発動——手のひらから細長い岩の針が勢いよく射出され、ギガントオークの背中を貫通した。
「行けるぞ!」
ギガントオークが振り向き、颯真へ鉄拳を叩き込もうとする。颯真はそれを時空歩法で躱した。その一瞬の隙に俺は召喚直後よりも大幅に威力が上がったファイアビームを解放し、ギガントオークの胴体を真っ二つにした。
「ふぅ……危なかった。颯真、お前次からおならすんなよ!」
「すんませんねぇ」
その後は順調にオークを狩り続けた。解析担当として動いていた蒼真も、この一週間で磨いた剣術でオークを圧倒した。
「よし、帰るか」
俺たちは政宗先生のもとへ戻った。他のグループもほぼ同じタイミングで集まってきていた。
「みんな帰ってきてるじゃ〜ん」
実戦訓練はこれで終了——のはずだった。
帰還した全員が集まった森の中で、恒一がとんでもないことを言い出した。
「政宗先生……俺、先生より強いと思うんですよねw」
「……舐めてるのか?」
転移してからこの一週間、恒一は固有スキルの効果で試行錯誤をほぼせずに力をつけてきた。その順調すぎる成長が、自惚れを生んだのだろう。
「みんな、どいてどいて!今から先生とバトっちゃうから!」
クラスメイトたちが自然と円形に広がり、二人を囲んだ。どう考えても恒一が負けると思うが、政宗先生の実力を直接見られる機会だ。目に焼き付けておこう。
「本当にいいのか?ミスったらお前を殺してしまうかもしれないぞ」
「大聖女ちゃんがいるから大丈夫!」
「よし。誰か開始の合図を頼む」
恒一の固有スキル『剣神の後継者』には二つの能力がある——戦闘時の全能力値上昇と、剣技のコピーだ。この二つだけで人類最強にどこまで迫れるのか。
大河が「開始!」と叫んだ。
恒一は自前の俊敏性で政宗先生の背後へ一気に回り込んだ。
「速度が自慢か?実は俺もそうなんだ」
その瞬間、政宗先生の姿が消えた。僅かに見えた者もいたかもしれないが、俺には残像すら見えなかった。全員が見失っていた。
「蒼真!神眼で政宗先生のステータス見えないか?」
「それがさ……レベルは見えるんだけど、ステータスのところに『現在の熟練度では測定不可能です』って出るんだ」
「!?!?」
神眼でさえ測定不能。いったいどんな数値をしているんだ。
そうこうしている間、恒一は消えた政宗先生を探してあたりを見渡していた。次の瞬間、先生はすでに恒一の背後に立っており、首元に剣の刃を静かに当てていた。
「な!?」
「……やっぱり、まだまだだな」
「クソッ、認めるか!」
恒一が振り返り、誰がどの角度から見ても捉えられない速度で斬撃を浴びせ続けた。秒間100連撃とも言える怒涛の攻撃で、周囲に砂埃が舞い上がる。
「どうだ!自慢の秒間100連撃だぞ?流石に……」
煙が晴れていく。政宗先生の輪郭が現れた。
「!?!?!?」
無傷だった。
上半身の服は細かく切り裂かれており、攻撃は確かに当たっていた。それでも傷一つない。
「いいか恒一。お前の固有スキルの効果は本物だ。見ただけで相手の剣技をコピーしてしまう——対人経験や魔物との戦闘経験を積んでいけば、いずれ手に負えなくなるかもしれない。だが、今のお前にはパワーが足りない。どれだけ技術が優れていても、最低限の攻撃力がなければ相手に傷一つつけられない。今がまさにその状態だ。お前の攻撃力のステータス、今いくつだ?」
恒一が悔しそうに答えた。
「1090だ……」
「俺の防御力は92万だ。ステータス差が10倍でも絶望的なのに、100倍以上の差がある。傷がつかない理由ぐらい、分かるだろう」
「それともう一つ——俺にも固有スキルがある」
!?政宗先生にも固有スキルが?やはり転移者か転生者の部類なのか。人類最強の固有スキルとは一体——
「段階的な成長だ。その名の通り、段階的にちょっとずつ成長していく」
……なんか、弱そう。
「このスキルの真価はな、成長が決してストップしないことだ。人類の限界に達しても、生物の限界に達しても、ちょっとずつ成長し続ける。そしてお前が今俺に斬りかかって、仮にダメージを与えたとしても——そのダメージを糧に俺はさらに強化される。今は様々なスキルが複合的に噛み合っている状態だからな」
なんだそのチート能力は。
「ズルいとは思うなよ。君たちだって十分チートな能力を持っている。ただ最終的な結果だけを見れば、俺の方が強い可能性があるというだけの話だ」
「今の恒一に俺を倒す手段はない。この試合は俺の勝ちでいいな?」
「ふざけるなぁぁぁぁ!」
恒一が全力で斬りかかる。今の彼では皮膚を削ることすら不可能だというのに。
「はい、ズドーン」
政宗先生が人差し指を恒一の額に当てた。
次の瞬間、恒一の体が吹き飛んだ。木々を数本なぎ倒しながら、勢いが収まったのは後方10メートルほど先だった。デコピン一発で。
「よし、今日は帰るぞ」
政宗先生は吹き飛んだ恒一ごと全員を転移魔法で包んだ。
——そういえば、さっき転移できる範囲は半径5mが限界と言っていなかったか。いつの間にまた成長したんだ、この人は。




