第63話 【訓練】
翌日、俺たちは訓練所に集まった。
「君たち勇者には、成長できる時間が限られています。そのため、それぞれの固有スキルを最大限に活かせるよう、各自の長所のみを伸ばす方針で進めます。魔法・剣術のどちらにも属さない固有スキルを持つ者は、そのスキルの探求に専念するのも良し、魔法か剣術のどちらかを並行して学ぶのも良しとします」
なるほど。俺は魔法一択だが、雪乃たちのような特殊系のスキルはどうなるのだろう。颯真と蒼真はどちらを選ぶのだろう。
とりあえず、自分のことに集中しよう。俺の魔法に一番必要なのは基礎火力——大技の一撃よりも、こちらの方が俺のスタイルには重要だ。
「まず、魔法とは何かを理解するところから始めます。魔法というのは、その事象に対する理解度がそのまま威力に直結するからです」
「事象?」
クラスメイトの誰かが聞いた。
「そうです。魔法とは魔力という力を、術式という出力機構を通じて具現化した事象のことです。その事象への理解度を上げれば術式の効率が上がり、結果として魔法の威力も上昇します」
「それって、魔力そのものを感覚的に捉えられれば、威力も上がるってことですか?」
「その通りです。魔力の流れを液体のようなものとしてイメージし、術式を構築してそこへ流し込む——おおよそそんな感覚です」
これはもしかして、魔力を「分子」のような粒の集まりとしてイメージし、流れではなく一粒一粒の移動として捉えれば解像度が上がるのではないか。さらに、火という現象そのものが引き起こす影響まで具体的に思い描けば——とんでもなく強くなれる気がする。
「ではやってみましょう。術式の最適解は術者ごとに変わるので、ベースとなるこの術式を思い浮かべながら、各自で改良していってください」
俺も早速試すことにした。すると、魔法を選んだ颯真が近づいてきた。
「一緒にやろうぜ!」
「オッケー。ていうか颯真、魔法撃てんのかよ」
「いや、いけるわ!ベースの術式に魔力を流し込めばいいんだろ?簡単簡単!」
そう言って颯真は試し始めたが、6回ほど失敗した。それでも7回目には、ベースのファイアボールがそれなりの形になっていた。
「いや、今更だけど成長倍率1200倍って強いな。この成長速度だもんな」
俺自身も魔法の才能があるのかもしれないが、ベースの魔法はすでに完成形に近い。あとは魔力の最大値の問題だけだ。最大値はスキルとレベルアップでしか伸ばせないらしいので、この異世界の魔物を狩り始めるまでは、どれだけコンパクトに撃てるかを磨いておくことにした。
他にも特殊属性の使い手たちは、ベース術式以外の手がかりがない中、地道な試行錯誤を繰り返していた。
一方、剣術組では魔法組以上に才能の塊が揃っていた。というか偏見かもしれないが、剣術系の固有スキルを持つ人間は陽キャが多い気がする。まぁどうでもいいか。
特に目立っていたのが、クラス一の陽キャ・恒一だ。固有スキルの説明には「見た技をコピーする」とあったが、まさかと思いつつ確認すると、すでに剣聖バルク先生の技をほぼ全てコピーしていた。
それでも、戦闘IQや実戦経験の差は埋まらない。剣聖との間にはまだ明確な熟練度の差が残っている。それでも、このクラスの中で一番伸びるのは恒一だろうという予感があった。
次に、魔法も剣術も選ばなかった組の様子だ。彼らは支援系や戦闘以外のスキル、あるいは複雑すぎて効果の説明が掴みきれない固有スキルを持つ者が多く、それぞれが手探りで理解を深めようとしていた。
例えば『精霊王契約』『星霊召喚』『契約神』といった召喚・契約系のスキル持ちは、契約の手順や召喚の発動条件を一つ一つ試していた。
一方、『運命改変』『幸運神』のような運要素の強いスキルは、何をどう試せばいいのかすら掴めず、戸惑っている様子だった。
こうした訓練が一週間続いた。クラス全員が異世界での生活を完全に受け入れ始めた頃——ゴブリン討伐やオーク討伐といった実戦学習が、いよいよ始まることになった。




