第44話 【要塞都市奪還⑤】
赤鬼は、俺達三人が背中合わせになり、できる限り死角をなくそうとしている陣形を見て嘲笑した。
「お前らは弱い。そんなことしても意味ねぇぞ? 真正面から殴ったってすぐ死ぬんだからな」
俺達はその挑発に動じることなく、じりじりと距離を取る。
「逃げるな……逃げるなよ。さっさと殺してやるからよ」
次の瞬間、赤鬼の右腕が巨大な斧へと変形した。
そのまま凄まじい速度でバレットへ肉薄し、斧を振り下ろす。
バレットは咄嗟に剣を掲げて防ごうとした。
だが――。
剣ごと真っ二つに切り裂かれる。
斧がそのまま顔面へ届こうとした瞬間、俺は割って入り、その一撃を受け止めた。
「グエゴ、バレット……悪い」
俺は二人を見ずに言った。
「正直、お前らより俺の方が強い。だからこいつは俺が相手をする。お前らは中心部へ向かえ」
これが最善だ。
今の戦いに二人が介入すれば巻き込まれる。
それで戦力を失う方が遥かに痛い。
「……分かった。悔しいが任せるぞ!」
グエゴは短く答えると、バレットを連れて駆け出した。
赤鬼はそれを見ながら鼻で笑う。
「ほう。逃がすのか。だが褒めてやるよ」
獰猛な笑みを浮かべながら続けた。
「昔のお前は俺に勝てないと分かっていた。だが今は違う。勝てると思ったから仲間を逃がしたんだろ?」
「どうだろうな」
俺は剣を構える。
「お前の強さは今でも計り知れない。だが――俺も強くなった」
魔力が渦を巻く。
魔剣を生成し、その刀身へ膨大な炎属性魔力を流し込む。
「お前を殺せるくらいにはな」
刀身が赤黒い業火に包まれた。
獄炎天墜。
天すら灼き尽くすことを目的として編み出した俺の最大火力魔法。
これほどの魔力を纏わせる以上、使用できる剣技は限られる。
ならば――。
連撃斬。
それで十分だ。
思考は一秒もかからなかった。
地面を蹴る。
視界が流れる。
赤鬼の懐へ潜り込むと同時に、獄炎天墜を纏った連撃斬を叩き込んだ。
轟音。
爆炎。
本来なら村一つを消し飛ばすほどの威力。
流石に効いただろ――。
「いてぇじゃねぇか」
炎の中から赤鬼が現れる。
その胸には大きな風穴が空いていた。
効いている。
確かに効いている。
だが次の瞬間――。
視界が揺れた。
顔面へ衝撃が直撃する。
気付けば俺は後方の家々をなぎ倒しながら吹き飛ばされていた。
「舐めてもらっちゃ困るな」
赤鬼はゆっくりと近づいてくる。
「身体能力は俺の方が上だ。しかも再生能力まである」
胸の穴がみるみる塞がっていく。
「お前が勝つなんて夢物語なんだよ」
そう言うなり馬乗りになり、拳を振り下ろした。
一発。
二発。
三発。
顔面に激痛が走る。
このまま死ぬのか――?
いや。
違う。
むしろ都合がいい。
俺は拳を握り締めた。
そして。
赤鬼の顔面へ全力で殴り返す。
轟ッ!!
衝撃波が発生し、赤鬼の巨体が音速を超える勢いで吹き飛んだ。
「――ッ!?」
地面を転がりながら立ち上がった赤鬼が目を見開く。
「な、何が起こった!?」
俺はゆっくり立ち上がった。
頬の傷はまだ痛む。
だが、それ以上に身体の奥から力が湧き上がってくる。
極限的肉体。
戦闘中に獲得した常時発動型の上級スキルだ。
レベルごとに全ステータスへ千ポイントを加算する狂気の性能。
現在レベル十五。
つまり――。
一万五千もの能力上昇。
赤鬼が俺を殴り続けている間に条件を満たし、獲得していた。
「立場が逆転したな、赤鬼」
「何をした……!?」
「別に大したことじゃない」
俺は剣を肩へ担ぐ。
「お前が俺を攻撃している間に、俺が強くなっただけだ」
「なんだよそれ! チートじゃねぇか!」
「知るか」
一歩踏み出す。
その瞬間には赤鬼の眼前にいた。
「とりあえず――死ね」
そこからは一方的だった。
拳を振るえば肉が砕ける。
剣を振れば骨が砕ける。
再生する端から破壊する。
再生する端から破壊する。
再生する端から破壊する。
やがて再生能力そのものが追いつかなくなった。
赤鬼の身体は木っ端微塵に砕け散り、そのまま消滅した。
《レベルが1上がりました》
頭の中に機械的な声が響く。
俺は剣を振って血を払った。
「さて……」
中心部の方角を見る。
「みんなに追いつくか」




