第39話 【会議】
王城に入ると、大きな円形テーブルを囲むように各国の重鎮たちが並んで座っていた。
「遅れてすまない」
ワンドは短く詫びて、椅子に腰を下ろした。
司会者らしき人物が手を叩き、場を締めた。
「では、勇者召喚についての会議を始めます」
静かな緊張が室内に満ちた。
「まず勇者召喚の概要を共有します。勇者召喚とは300年前と5万年前に行われた痕跡が確認されている古代魔法の一種です。莫大な資源と大規模な魔法陣によって生成されたエネルギーで次元に穴を開け、別世界の座標を指定——そこに存在する生命体の魂を抜き取り、この世界で肉体を再構築して送り込むという術式です。現時点では未解明の部分も残っており実用段階には至っていませんが、これが実現すれば魔王討伐の見込みが生まれます」
「待て」
軍事国家テレスの帝王グリオスが口を開いた。戦神とも呼ばれる男だ。
「世界中に賢者だの剣聖だのがいるというのに、そんな訳の分からない存在に頼らないといけないほど魔王軍は強いのか?」
「はい。ワンドからの報告によれば——魔王軍の四天王と呼ばれる存在の力は、レベル80台の戦力を一方的に蹂躙できるレベルです。さらに、四天王より格下の悪魔から力を授かっただけのデーモンケンタウロスが、ルミナスの牙の上位層を全滅寸前まで追い詰めました。四天王の推定レベルは180を超えると見られています」
「レベル180……人類の限界と言われている100を遥かに超えているのか」
グリオスが低く唸った。
「ところで、その勇者とやらは本当に強いのか?所詮、別世界の一般人だろう。それとも向こうの世界の強者を引っ張ってくるのか?」
「勇者は別世界の一般人です。ただし——私たちの世界よりも座標の高い位置にある世界から召喚する前提となります。座標が高い世界ほどワールドエネルギーが高く、その世界の住人をこちらに無理やり落とし込む際に溢れ出したエネルギーが、勇者の固有スキルと成長倍率として発現します。固有スキルは最強格、成長倍率は400倍を確実に超えます。魔王への対抗戦力として十分機能するでしょう」
「ワールドエネルギーの話は難しくてよく分からんが、要するに強いということだな」
「はい。そして本日の会議の本題はここからです——勇者召喚に必要な素材をいかに調達するか、という問題です。術式自体は魔導帝国ノヴァがほぼ完成させています。しかし開発の過程で判明したのですが、必要素材の量が想定を大きく超えています」
「削減はできないのか」
ワンドが問いかけた。
「削減は可能です。ただし、素材量が多いほど座標の高い世界の住人を召喚できます。つまり投じるコストが高いほど、呼び出す勇者が強くなる——言い換えれば、勇者召喚のコストは魔王討伐の成功率に直結します。削減は得策ではありません」
「では必要量はどれほどだ」
「バモス共和国の勇者王アーサーから得た情報によれば——魔導石が1万トン必要です」
「1ッ万ッッ!?」
室内がざわめいた。魔導石は1kgでも希少な鉱石で、金との交換比率はおよそ1対5——つまり魔導石1kgが金5kg相当だ。1万トンともなれば、金に換算すると5万トン。世界規模の採掘事業に匹敵する量だ。
ざわめきが収まらない中、司会者が続けた。
「そこで——魔導石採掘委員会の設立を提案します」
静寂が戻った。
「この委員会に加盟する国は、採掘した魔導石を提供する義務を負います。ただし——魔王軍の侵攻を受けた際には、勇者および他の列強からの支援・増援を受けられます。加盟しない国には、いかなる支援も行いません」
言葉は丁寧だったが、意味は明確だった。自国を守りたければ加盟せよ。莫大なコストを払わない限り、誰も助けに来ない。
沈黙の後、各国の重鎮たちが次々と加盟の意を示した。拒否できる国など、実質的に存在しなかった。
「では会議を終了します。魔導石採掘委員会の加盟国は速やかに魔導石の提供を開始してください。素材が揃い次第、勇者召喚の儀に招待します。共に魔王を討伐しましょう」
こうして会議は幕を閉じた。




