第29話 【一歩】
休日が明け、ルミナスの牙の寮で目を覚ます。朝の号令を終え、いつも通りフルマラソン、過酷な筋トレ、座学とこなし——そして今日、待ちに待った対人戦闘の番が来た。
マフィスから得たヒントをもとに動きを磨き続け、気づけば大蛇マダラモンティスを単独討伐したと言われる中堅最上位の騎士、ドルフィンとの勝負まで上り詰めていた。対人戦闘はポイント制のアリーナに近い仕組みで、ここまで来るだけでも相当骨が折れた。
「ほうほう……わずか1、2週間でそこまで強くなったのですか」
決闘が始まり、俺は間合い管理でドルフィンと距離を測る。
「前に見たグロック戦とは、別人のように成長していますね」
ドルフィンは冷や汗をにじませながら、少しずつ距離を詰めてくる。重心をわずかに傾けながら、俺の攻撃の機を狙っているのが見えた。
——次は俺が仕掛ける番だ。
剣を上へ突き上げ、防御姿勢が取れない無防備な格好のままドルフィンへ突っ込んだ。狙い通り、ドルフィンはそのまま剣を振り下ろしてくる。単純な太刀筋に誘い込んだのだ。来ると分かっている軌道を避けるのは難しくない。左へ躱して懐へ潜り込み、剣を手放して顎めがけてアッパーを放った。
その瞬間、ドルフィンが左手をこちらへ向け「ファイアボール」と唱えた。
火の玉が迫る。俺はそれを無視して左手ごとアッパーに巻き込み、ドルフィンを上へ吹き飛ばした。
右手に火がまとわりついている。息を吹きかけて消すと、そこそこ深い火傷が残っていた。
ドルフィンは地面に落ちたが、まだ動く気配がある。俺は蹴り飛ばした剣を拾わず、倒れたドルフィンにまたがって顔面へ連打を叩き込んだ。6発ほど打ち込んだところで動きが止まり、俺はそのまま立ち上がって勝利を宣言した。
火傷した右手を治癒魔法で治してもらい、練習へ戻る。するとすぐに、上位層に相当する騎士から決闘の申し込みが来た。
——これを機に上位層へ食い込めるかもしれない。
そう思って引き受けたのが、甘かった。
バレットという名のその騎士は、異様なまでに筋肉が発達していた。本人曰く、純粋な力・耐久性・筋力だけなら自分より下の騎士がほとんどだという。
ドルフィン戦と同じ流れで懐へ潜り込み、右アッパーまで持ち込んだ——そこまでは良かった。だがその拳が、左手に掴まれた。びくともしない。
戸惑って硬直した瞬間、バレットの右手が俺の顔面を掴んだ。恐怖で身体が固まる中、状況を把握しようとした次の瞬間——地面に叩きつけられ、意識が途切れた。
治療室で目が覚め、ある程度回復してから決闘の場所へ戻ると、俺が叩きつけられた地点に巨大なクレーターができていた。
上位層との壁を改めて思い知らされた一日だったが、中堅最上位を下したのは確かな一歩だ。今日はそれで十分だと思うことにした。




