第23話 【王都】
翌日、王都に到着した。
到着するなり、マフィスへの罵詈雑言は凄まじかった。民衆から向けられる怒号と非難を、マフィスは黙って受け止めていた。自分がやってしまったことの重さを、誰より深く分かっているのだろう。
ひとしきり人波をくぐり抜けた後、マフィスが静かに口を開いた。
「マサムネ、お前はこれから旅を続けるか?それとも……騎士として働かないか」
少し間を置いて、続ける。
「お前の実力は将来的には私を——いや、ルミナスの牙の騎士団長ワンドをも超えるかもしれない。騎士として市民を守ってくれないか」
寂しそうな背中だった。
俺は少し考えた。
旅を続ければ強くなれるかもしれない。だが技量や経験には限界が来る。赤鬼のような強者と出会い、あっさり殺される未来もある。それ以上に——旅の中でできた親友や大切な人が目の前で死んでいくのを、俺はもう見たくなかった。テオが死んだ瞬間を、俺はまだ忘れられない。
それに、突如として植え付けられた地球の知識を俺は何も持っていない。王に近い場所にいれば、その欠片でも手に入るかもしれない。騎士として生きれば安定した収入と成長を両立できる。全ては憶測の域を出ないが——直感が、ここに残れと言っていた。
「騎士になります」
マフィスはしばらく無言だった後、ゆっくりと頷いた。
「……嬉しいよ。今から王城へ向かって王に現状を報告し、騎士を辞める旨を伝える。その時に推薦しておく」
そう言ってから、マフィスは少し表情を緩めた。
「彼は王国を救える器です、とな。いや——ひょっとすると将来、魔王を討伐して世界を救うかもしれない。俺はどこかで隠居しながら、君の英雄譚でも聞いておくよ」
「褒めすぎですよ」
俺は苦笑した。ふと気になっていたことを聞く。
「クロエは貴族に預けると言っていましたが、どの貴族に?」
「クリスクと仲が良かった侯爵がいる。信頼できる人物だから、粗末に扱うことはないだろう」
「……そうですか」
「よし、そろそろ王城に向かうぞ——その前に身なりを整えないとな。俺とお前とクロエ、三人分の服を買いに行くか」
俺は貴族の服も礼儀作法も何も知らないが、まぁ何とかなるだろうと思いながらマフィスの後をついていった。
連れて行かれたのは「貧乏人お断り」という空気が全身から漂ってくる、絵に描いたような高級服屋だった。
「うーん……マサムネにはこの12万ゼニーのこれがいいかな。最後の散財だと思って奮発するか」
待て待て待て。12万ゼニーって、だいたい130万円じゃないか……?
「とりあえずこれを試着してみろ」
渡されたのはシルクで仕立てられた服だった。値段のタグを見ると20万ゼニー。
もしこれを破いたらどうなるんだ、という恐怖を感じながら恐る恐る袖を通すと、意外なほどぴったりだった。
試着した姿をマフィスに見せると、右腕をすっと伸ばして親指を立てた。
俺はそそくさと着替えを済ませ服をマフィスに返した。クロエの服もマフィスが選び始めたが、この空間にいると「何かを壊したらどうしよう」という不安しか湧いてこない。俺はそっと馬車に戻ることにした。
10分ほどで二人が戻ってきた。クロエは少しだけ——ほんの少しだけ、表情が柔らかくなっていた気がした。
「よし、王城に向かうぞ」
馬車が走り出した。




