第19話 【脱出】
俺はクリスクとの約束を守るために領主の城へ向かった。
しかし城の前は既に混乱していた。安全なはずだったメイドや使用人たちが、城から雪崩のように飛び出してくる。
これじゃクロエを探しきれない……
俺は任意型上級スキル【気配探知】を発動し、超集中でクロエらしき気配を探し始めた。
——いた。
執事に囲まれたクロエらしき気配が、人の流れに押されながら俺の目の前を通り過ぎようとしていた。俺はその集団に割り込み、クロエの手を掴んで人波の外へと引き出した。
「大丈夫だったか?」
「あれ……マサムネ?それより!お父さんは!?お父さんはどこ!?」
俺は唾を飲み込んだ。
「し……死んだよ。おそらく」
クロエはその場に膝をつき、涙をポロポロとこぼし始めた。俺は胸が痛むのを感じながら、それでもクロエの手を引いた。
「悲しむなら逃げ切ってからにしよう。ここじゃ危ない」
都市の中は既に魔物で溢れ始めていた。シルバがタイマンを制したことで、魔王軍の侵攻が解放されたのだろう。
俺はクロエを守りながら走り続け、背後から迫るスケルトンやオークを倒していった。そこら中に逃げ遅れた人々の姿が転がっており、目を背けたくなる光景が続いた。それでも俺は前だけを見て走った。
そうして俺たちは、魔物から逃げる蟻のように要塞都市を脱出した。魔物たちの目的はグラニスの征服であり、城壁の外まで追ってくることはなかった。
要塞都市の外には様々な人間がいた。今夜の身の振り方を考えあぐねている一般市民、「騎士なのに逃げるなんて……」と地面を見つめて嘆く騎士、圧倒的な戦力差を前に人類の敗北を確信し絶望している冒険者——誰もが打ちひしがれていた。
「クロエ……次はどこへ向かうべきだと思う?」
問いかけても、クロエは答えなかった。ずっと下を向いたまま、沈黙している。親を失ったばかりだ、無理もない。
そう思っていると、背後から声がかかった。
「君はクリスクの娘かい?」
振り返ると、騎士団長が立っていた。
「彼には過去に何度も助けてもらった。路頭に迷っているなら力になりたい。俺には貴族との繋がりもある。ついでに今から王都へ向かうのだが、一緒に来るかい?敗走を選んだ俺にできる、唯一の罪滅ぼしだ」
そう言って今度は俺の方を見た。俺は二つ返事で頷いた。
騎士団長は馬車を取り出した。……どこから?
「騎士団長クラスや上位の貴族は亜空間ポケットから馬車を出せるんだよ。とりあえず早く乗れ、路頭に迷っている連中に奪われる前に。……残念だが、彼らに手を貸すことは俺にはできない」
俺とクロエは馬車に乗り込み、すぐに走り出した。
窓の外を見ると、ゾンビのように馬車を追いかけてくる人々で溢れかえっていた。
……まぁ、無理もない。ここから一番近い村まで馬車で3日はかかる。夜のモンスターに食い殺されるか、餓死か——どちらにせよ待っているのは死だ。
俺はラッキーだった。
そう思いながら、窓の外の人々が遠ざかっていくのをただ眺めていた。




