第130話 【情報の大海】
「賢治…基底物質より上の構造を教えてくれないか?」
「早速来たか…」
賢治は学びの屋敷の医務室で寝ていた。
「なら話してやろう。ま、少し手短に話すがな。それすなわち…情報の大海だ」
「情報の大海?」
「循環定義や自己言及、再帰的な定義について思ったことはないかね?」
「いやぁ…特に、そんなものがあるんだなぁ程度にしか」
「実際ね、その概念を分割するとその概念の内部にはその概念が含まれるという無限集合の概念が形成される。情報の大海とはそれが拡張された海だ」
「情報の大海はそれ自身に全ての概念や全ての情報、全ての事象やらを含む…そう情報の集合体だ。それらにより、情報の大海には全ての文字が含まれる」
「無限の情報を含めば、必ず全ての文字も含みそれらにより組み合わされた新しい概念が生み出されるのか?」
「そう!僕が言いたいことを全て言ってくれた!全ての文字列による全ての概念、考えられない概念の全てを含む!しかも知性があるということは知ってる、知らないの2つの境界線が発生するが、情報の大海は文字列をすべて組み合わせる為それら全てが網羅される。まさしく情報の大海とは知性の外側に位置するのだ」
「それだけですか?」
「いやいや、そんなもんじゃない。情報の大海の上位の構造体がある…それが情報の深宇宙だ」
「深宇宙…?」
「情報の大海で全ての文字列を組み合わせると聞いて思い出さなかったか?」
「文字列…無限…アレフ数?」
「そう…全ての文字列を組み合わせることにより全ての情報が表現できる。それはその下位の言語層だか論理層が作成した文字列の範囲内だ。上位の論理はどうだ?その論理に到達するには全てを組み合わせばいい。数式で表せば2^情報の大海といった所か?すると下位の情報の大海からすると、上位のものは自身にとって存在し得ない情報が存在し得る…自身の言語や語りでは表現不可能なより上位の概念群、情報群、論理を構築できる。これはどの構造に似ていると思う?」
「原子の連結的構造と基底物質?」
「そう!正解だ!しかしその階層差よりも今回は激しい。情報の深宇宙はそれどころじゃない…より上位、より上位へと先程やったように情報の大海を登っていく。そしてだ!その情報の深宇宙は全てが独立し互いの{情報の大海,より上位の情報の大海,より上位のより上位の情報の大海,...}に対しても内部の集合濃度を上回ろうと全ての情報の深宇宙が呼応する。その姿はまるで概念、知性、情報の昇華の初めも終わりも存在せず、元々からそうだったように全ての昇華された論理が一つの巨大な知性体へ収束される。それがウロボロス的情報知性体だ…ここからはウロボロス的情報知性体がベースとなり我々の世界の根本を築く。実にエレガントな構造となっている」
「ここからやっと俺達の世界が構成されていくんですね」
「そう、ここからが出発地点だ。ま、次話すのは政宗がウロボロス的情報知性体に到達してからだな。冒険者頑張ってこいよ!」
「おっけぃ!」
俺は親指をグッと立てながら医務室から退出し、クエストを探しに冒険者ギルドへと向かっていった。
冒険者ギルド内はまだ人でざわざわしていた。恐らく真理の翼のチーム達が持ち帰ったダンジョンの最下層のボスの魔石がどれぐらいの金額になるのか気になっているのだろう。
俺は人混みに混ざりながらも二階の掲示板の方へ登っていった。二階からは一階にいる人々が全て見渡せ、壮観であった。
「さぁてと」
俺は掲示板のほうを振り向いた。掲示板は左から難易度が低いクエストと並んでいき、右端には最難関と呼ばれるクエストが2枚貼り付けられていた。
「どれどれ?」
俺が最難関の方のクエストを見ると『黒炎竜の討伐、報酬:1億グラハム』とかとんでもないクエストが貼られていた。
「あんちゃん、それ受けるのか?」
後ろの壁にもたれていた白いひげが特徴的な老人に話しかけられた
「いえいえ!そんな訳ないじゃないですか!」
「ま、そうだよな。ところであんちゃん、見たことない顔だが、新入りか?」
「あ、はい!そうですね。ランクはJですね」
「じゃあクエストの大まかな難易度も分からないか」
「そうですね。出来れば教えてくれませんか?」
「おし、教えてやるよ!その代わりに酒…奢ってくれよ?」
お金はあまり使いたくないが…ミスって高難易度のクエスト選ぶよりはマシか…
「分かりました!」
「まずクエストは具体的な難易度は測れないから、大まかに難易度は5つに分けられる」
「一つ目、下級クエストと呼ばれるクエストだ。大まかには家庭清掃やスライム駆除などのいわば下っ端がやる誰でも出来るクエストだ。
2つ目、並級クエストというクエストだ。基本的にゴブリンなどの一般的なモンスター討伐や地形などの影響で採取難易度が高くなった採取クエストなどが当てはまる。
3つ目だ。これは上級クエストといい、ダンジョンにおける最下層のボス討伐など本当に難易度が高いクエストだ。大抵の冒険者はこんなん受けねぇ…今帰ってきてる真理の翼もこの上級クエスト相当のクエストを受けた帰りだ。ここらへんのクエストの報酬も経験値も半端じゃねぇぞ?
4つ目、主にリミット・ブレイクを行った超越者…S級冒険者以上が受けるクエスト、その名も特級クエストだ。大抵が国を救うレベルのクエストで報酬も半端じゃねぇ…これ一回成功するとひ孫まで遊んで暮らせるって言われるレベルだ。
5つ目、今までの話を聞いたから分かるがこれをクリアできる人物はほとんどいねぇ…その名も弩級クエスト。複数の国々や世界を救うレベルだ…ま、気にするな」
「ちなみに弩級クエストの所に2つ貼ってあるクエストは100年前ぐらいからある世界共通の弩級クエストで、別に急ぐようなもんでもないから安心しろ。よし!これで話したぞ!あんちゃん!早く酒おごってくれ!」
下級、並級、上級、特級、弩級か…しばらくは並級を平均的に攻略できるように頑張るか
「わかったよ。じいさん、下の酒屋の酒か?」
「いやいや、今人多いからな…外にいい酒屋があるから一緒に行くぞ」
俺はその後、じいさんと一緒に冒険者ギルドに近い酒屋へ向かった。
「俺はこれを飲もうかねぇ」
じいさんは比較的安い5グラハムの酒を選んだ
「あんちゃん、あんたはもう帰ってもらっていいが…話したいことがあるから、一旦座りな」
「は、はい」
俺はじいさんが座った反対側の椅子に座った
「あんた…初心者だからパーティを組んでないやろ?」
「ま、まぁそうですね」
「パーティは一般的には組んだほうがいいが…俺はそう思わん。あんちゃんは若いからパーティの中で恋愛とか考えるかもしれんが……」
「パーティを組んで出てくる問題が、本当に人間の裏の顔を引き出すぞ?」
「ど、どういう風に…?」
「パーティ内でのクエスト報酬の分配についてだ。経験値はクエストをクリアすると皆に分配されるから心配は要らんが、報酬だけはパーティ内で分配しないといけん」
「別に均等にやれば…」
「考えが甘いな。パーティ内でも活躍した人やしていない人がいるだろ?それで活躍した人が報酬を8割持っていったりするんだよ。裏では活躍している人でも「ボスに最後の一撃を与えたのは俺だから俺が5割貰う」とかでパーティは崩れる。しかもパーティだと多少は難易度の高いクエストを受けやすいが、回数をこなさんと儲けが少ない。しかも達成するたびに俺がさっき言った状態になる。だからソロの方がやりやすいぞ?」
「な、なるほど。ありがとうございました!お元気で!」
「おう!あんちゃん頑張れよ!」
俺はじいさんに別れを告げた後、冒険者ギルドに戻りじいさんの情報から今自分に合う下級クエストが貼られた掲示板を凝視した。
「ダンジョンにも行ってみたいんだよなぁ」
俺は思考を巡らせた末に『ダンジョン1階層のコーンラビットの魔石を50個回収。報酬:110グラハム、経験値:30』というクエストを受けることにした。
そして、俺は冒険者ギルドから出た後に町の中央にあるマナティールの迷宮へ向かった




