第119話 【原子】
この子供のお父さんの名前はバイ・ロクセルと言い、この子供…いや師匠はバイ・バクセルと言うらしい。
俺は師匠に敬礼をし早速剣先を向けた。
師匠は余裕そうな顔で剣先を無理やり自身ののどへ向けた。
「ほらほら、突き刺してみな」
俺は傷つけないか少し心配しながらも、思いっきり突き刺した。
すると、俺の剣は綺麗に砕け散っていた。
「ねぇ剣なんて古いよ?」
師匠は俺の方へ手を伸ばし現実空間を引き伸ばし始めた。
俺の肉体はスパゲッティのように引き伸ばされると同時に次元を一段階落とされた。
これが圧倒的格上による想像の具現化…俺は平坦という世界にて三次元世界のあの師匠には抗えない。
{x,y}のみで構成される世界を改めて見てみるとその世界には独自の文化、存在により構築されていた。そして俺の周囲には5本の円…恐らく指という三次元構造の断面なのだろうが…それが俺をぐるっと囲い次の瞬間には俺が複数人いた。それらは同時に別の行動をし始め、それらは数秒後に全員頭が破裂して死んでいった。何人かは生き残っていたが、それらがもれなく死んでいった。
俺は眠りから覚めたかのように起き上がると師匠の目の前に立っていた。
「全然弱いじゃ〜ん」
「い、い、今何をした?」
俺は恐る恐る聞いた
「ただ単に一旦次元を一つ下げて、それぞれ結果が異なる平行世界上の君を殺しただけ」
駄目だ…レベルが違いすぎる。何なんだよ、これ…
「もう!これは慣れだから!慣れ慣れ!次いくよ!」
「つ、次は何を!?」
俺がそう言った瞬間に次は原子サイズにまで縮小されていた。目の前に存在していたのはありとあらゆる状態を取る原子であった。
俺が好奇心から中を覗くとなかには惑星が浮かんでいた。俺は目をこすりながらももう一度覗くと今度は猫がいた。
それはありとあらゆる状態を持つ無限の広さの原子が存在しており、それら全ての状態が現実として同時に存在し活動している。
勿論全てという可能性により再帰的にこの世界が埋め込まれている。
俺はそれをみた後に現実改変を使って抗いなんとか人間サイズに戻った。
「お!こんぐらいは大丈夫なのね」
師匠は無邪気な笑顔をこちらに向けながら、俺自身へ改変を施す。
無意識と意識の混在、半無意識的半意識…その時、俺は一つの原子内の空間を見つけた。それは人々の無意識と無意識を紡ぐ巨大な精神空間であった。この俺がいる領域内の世界の外側に存在する生命、物体、概念それら全ての無意識。ただそれらは何ら普通の多空間としか機能していなかった。
それらの中心に存在する赤い本以外は…
赤い本に近づくたびに他の無意識がただの状態として繰り下げられていく。近づくたびに実態、非実態、想像上、文字列、そして何らかの創作物のキャラクターのような絶対的階層が生まれ始めた。
これらの領域に近づけるのはこの領域内のこの世界の存在だからだろう。そして、ここに到達できるのもその世界の標準装備。とてつもないな
俺が赤い本を手に取るとありとあらゆる情報が流れ着いた。
人類の歴史…宇宙の真理…数学の極致、あらゆるものが流れ込んだが、それら全てはこの世界にとって下位の概念でしかない
だが、師匠はこんな所に連れてきて俺に何をして欲しいのだろうか?攻撃的な存在などは一切いないこんな空間に。
俺は引き続き赤い本を眺める。そんな時に俺の目の前に師匠が現れた。
「弟子よ!それを理解し改変の真理を手に入れろ。それが出来るまではそこからは出させない」
師匠は赤い本を指しながらそう言い、また姿を消した。赤い本を理解しろってどういう…
俺はそれを手に取りながらこの世界外の全てについて知ろうとした。
「世界の構成要素は主に3つある。対立と実体と空想の3つ。対立は全ての概念は対となる物が存在するというもので、実体と空想は全ての物質は実体があるか空想にしか登場しないかの2つで構成されているのね。だけどこれがどう改変に関連するんだ?」
その先を読み進めていっても数学の極致に存在する超概念やら神に対する否定文などが湧き上がるように大量に出現した。
「どう関係があるんだか…」
そう思いながら赤い本を読み進めると最後に一つの文章が添えられていた
「全ての終わりというのは無限の世界においての矛盾に該当する。その矛盾が無矛盾化しないのは世界としての欠陥だ。ならば…矛盾を許容とする我々が知り得ない概念とは何なのだ?それこそ我々が説いた殻仮説により、我々のありとあらゆる状態がそれぞれ上位存在の基本単位として作動しているのでは?ただ、これらの検証も証明も反証も我々の論理では不可能だ。その外側に存在する者こそが我々の無意識の裏側にいるのだろうな」
それを見た瞬間に俺は理解した。無意識の外側、無意識の外側の外側、それらの外側の存在は内側の存在にとって計り知れないような存在なのだ。そしてその外側に位置するものは内側を意識と認識し自由に改変し俯瞰できる。それこそが改変の真理…!?
それらをありとあらゆるものと解釈すると物質の最小単位の中に無意識による階層が出来ているからこそ、改変の優先度なるものが発生するんだ…
そう認識すると師匠はどこからか現れて「やるやん」と言った後に俺を通常の世界へと戻した
「よし、一回改変やってみて」
「わかりました…」
より無意識の外側へ…内なる世界を否定し尽くす。俺は軽く空間改変を行い時空間を捻じ曲げた…内部からは過去の現象と未来の現象が漏れとして噴出される
「よし、辞めていいぞ!」
俺は時空間の捻じれを修正した。
「どうでしたか?」
「ちょっと悔しいんだけど、あと2〜3日鍛えたら全然スライム倒せるよ!」
「師匠のお墨付き認定きたぁぁぁ!」
俺は一人で嬉々としていた。すると近くにいたお父さんが近寄ってきた
「俺の自慢の息子はどうだったか?指導者としての素質あるだろ?」
「めっっっっっちゃくちゃあります!やばいです!もう!」
俺はそう褒めるとお父さんはニコニコとしながら「もう時間遅くなってきてるから帰るからな。頑張って強くなれよ!」と言って別れた。
その時になって気づいたのだが、既に17:00程の時間帯になっており俺は最後に"お誕生日"のクエストを受けようと冒険者ギルドへ向かった




