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EP 9

決戦! 激辛デスビームショットと容赦なきオーバーキル

「ギャオォォォォォォォォォォォォッ!!」

ポポロ村の上空に、空を切り裂くような甲高い咆哮が轟いた。

太陽の光を遮る巨大な影。ライオンの屈強な肉体に、鷲の頭と翼を持つ凶悪な魔獣『グリフィン』が、ポポロ村の広場へ向けて急降下してきたのだ。

「ひぃぃぃっ! ま、魔獣だぁっ!」

「逃げろ! 食い殺されるぞ!!」

突如として現れた規格外の災厄に、村人たちはパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

グリフィンは獲物を見定めたように鋭い嘴を開き、強烈な風圧を伴いながら広場の中央へと着地した。ズスゥン!という重い地響きとともに、土煙が舞い上がる。

「なんでこんな辺境の村に、あんなヤバい魔獣が……!」

村長宅から飛び出してきた佐藤太郎は、その巨体を前にして全身の震えが止まらなかった。

ゲームやファンタジー映画で見る分にはかっこいいモンスターだが、現実(リアル)で対峙するとなると話は別だ。鋭い鉤爪は簡単に人間の胴体を両断できそうだし、放たれるプレッシャーは二十馬力の一般アナスタシア人すら竦み上がらせるほど強烈だった。

「太郎君! 下がって!」

太郎を庇うように、キャルルが前に出た。手にはダブルトンファーが握られ、足元のタローマン製安全靴にはチリチリと闘気が漲っている。

「プロデューサーの命は、私のスポンサーの命! 傷つけるのは許しませんわ!」

リーザが『お賽銭箱型掃除機』を構え、芋ジャージをはためかせる。

「あらあら……ポポロ村の平和を乱す害鳥ですこと。私のゴーレムさんたちの肥料にして差し上げますわ」

ルナが優雅に世界樹の杖を構え、瞳の奥にどす黒い光を宿した。

ヒロイン三人が臨戦態勢に入る。彼女たちのオーバースペックな戦闘力なら、グリフィンを倒すことは可能だろう。

しかし、グリフィンは空を飛ぶ魔獣だ。もし彼女たちの攻撃を避けて飛び立ち、逃げ惑う村人たちを上空から襲い始めたら、被害は甚大なものになる。

(被害をゼロに抑えるには、あいつを空に飛ばしちゃダメだ。地上に縫い付けて、一撃で仕留めるしかない!)

太郎は震える膝を両手でバンッと叩き、気合を入れた。

逃げない。この村は、美味しい100円の飯を一緒に食べてくれる、大事な仲間たちの居場所なのだから。

「キャルル! 僕が先手を取ってあいつの動きを止める! その隙に一気に畳み掛けてくれ!」

「えっ!? で、でも太郎君に危険が……」

「大丈夫、僕の『悪知恵』を信じてくれ!」

太郎は背中に背負っていた小ぶりのクロスボウを構え、一本の矢を装填した。

それは先ほど、キャルルとの密着特訓の末に生み出した特製品。

矢尻に『おろし本わさび』、『超激辛からし』、『ハラペーニョ入りタバスコ』という、100円ショップが誇る刺激物の頂点をトリプルブレンドして塗りたくった、世にも恐ろしいデバフ兵器である。

「ギャルルルルッ!」

グリフィンが太郎を格下の獲物と認識し、巨大な翼を広げて飛びかかってきた。

圧倒的な速度。鋭い嘴が、太郎の頭を丸呑みにしようと迫る。

「太郎君ッ!!」

キャルルが悲鳴を上げた。

(今だ……!)

太郎は極限の恐怖の中で目を見開き、迫り来る巨大な顔面、その『目と鼻』が交差する眉間を狙って、クロスボウの引き金を引いた。

――バシュッ!

一馬力の筋力で放たれた矢は、物理的な破壊力こそ皆無。

しかし、見事にグリフィンの鼻先の粘膜部分にカスり、矢尻にべっとりと付着していた『激辛デバフ・トリプルブレンド』をその顔面に塗りつけることに成功した。

「グルァッ……!?」

グリフィンの動きが、空中でピタリと止まった。

直後。

人間の何十倍もの鋭敏な嗅覚と痛覚を持つ魔獣の脳天を、現代日本の化学が作り出した『鼻に抜ける強烈なわさびとからしのツーンとした痛み』、そして『タバスコの焼けるような激痛』が容赦なく貫いた。

「ギャッ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

グリフィンは目をひん剥き、白目を剥いて地面を転げ回り始めた。

強靭な鉤爪で自身の顔面をガリガリと掻きむしり、涙と鼻水を撒き散らしながら、もはや戦闘どころではない狂乱状態に陥る。

「す、すごい……! あの凶暴な魔獣が、太郎君の放った謎の匂いの矢一本で無力化されちゃった!」

キャルルが驚愕に目を丸くする。

「今だ! みんな、やってくれ!!」

太郎の叫びを合図に、ヤバすぎるヒロインたちの『容赦なきオーバーキル』が開始された。

「太郎君に怪我をさせようとした罪は重いよ……! 生きて帰れると思わないでね!」

キャルルがクラウチングスタートの姿勢から、マッハ1の速度で踏み切った。

空中の建物の壁や木の幹をピンボールのように三角飛びで蹴り渡り、不規則な軌道でグリフィンの頭上へ躍り出る。

「月影流――乱れ流星脚(メテオ・ストライク)ぇぇぇっ!!」

タローマンの特注安全靴に闘気を極限まで圧縮させた、超重量の跳び蹴り。

それが、涙目で苦しむグリフィンの脳天に、隕石のごとき威力で直撃した。

ドゴォォォォォォォォンッ!! という凄まじい衝撃音が響き、グリフィンの巨体が地面にめり込む。

「私のスポンサーを脅かすなんて、営業妨害も甚だしいですわ!」

すかさずリーザが飛び出し、倒れ伏したグリフィンに『お賽銭箱型掃除機』を突きつけた。

「吸い尽くしますわ! 愛のLove & Money・バキューム!!」

キュイィィィィィィン!!

掃除機が狂ったような吸引音を立て、グリフィンの体内から残存する魔力、体力、さらには運気までもを根こそぎ吸い上げていく。グリフィンの肉体が、みるみるうちに干からびたように縮んでいく。

「ふふふ……では、最後の仕上げですわね」

ルナが優雅に世界樹の杖を振るう。

「出でよ、大地の守護者。そしてあの害鳥に、物理的な『お仕置き』を」

ゴゴゴゴゴ……!

グリフィンの真下の地面が割れ、高さ五メートルを超える純然たる岩の塊――オリハルコン級の強度を持つ超重装ゴーレムが姿を現した。

ゴーレムはルナの指示に従い、無慈悲に巨大な岩の拳を振り上げる。

「ドゥンッ!!」

地鳴りのような音とともに、ゴーレムの渾身の腹パン(アッパーカット)がグリフィンの鳩尾に炸裂した。

「ギョべェッ……」

激辛デバフで粘膜を焼かれ、マッハの飛び蹴りで脳震盪を起こし、魔力を吸い尽くされ、最後に超質量の腹パンを食らった魔獣グリフィン。

かつて古代大戦でも猛威を振るった恐るべきモンスターは、文字通り『手も足も出ない』まま白目を剥き、完全にピクピクと痙攣して沈黙した。

完全なる、オーバーキルであった。

***

「やった……倒したぞ!」

太郎がクロスボウを下ろし、安堵の息を吐く。

「太郎君! 太郎くぅぅぅんっ!」

真っ先に飛びついてきたのはキャルルだった。

彼女は太郎の胸に顔を埋め、ウサギの耳をバタバタと揺らしながら力いっぱい抱きしめてきた。

「かっこよかった! 太郎君の放った一撃がなかったら、あんなに綺麗に倒せなかったよ! やっぱり私の見込んだ人だわ……♡ これからもずっと、私を導いてね……♡」

「プ、プロデューサー! 私の吸引力も素晴らしかったでしょう!? さぁ、この見事な働きに、特大のポテトチップスを報酬として要求しますわ!」

リーザが太郎の背中に回ってジャージを引っ張る。

「太郎様。素晴らしい采配でしたわ。太郎様がいれば、この世界はより美しく、清浄なものになりますわね」

ルナも上品に微笑みながら、太郎の横に並び立つ。

(君たちが強すぎるだけなんだけどな……)

太郎は内心で苦笑しつつも、三人の美少女たちに囲まれて悪い気はしなかった。

たった100円の調味料と、ほんの少しの悪知恵。

それだけで、最強の戦力たちを自在に動かし、村を救うことができた。

【100円ショップ】のスキルは、決してハズレなんかじゃない。使い方次第で、この理不尽な異世界を生き抜く最強の武器になるのだ。

村人たちの歓声と拍手が広場を包み込む。

こうして、ポポロ村最大の危機は、佐藤太郎の機転によって見事に打ち払われたのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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