EP 10
帝都へ旅立ち! ……って、ヤバい美少女たちどころか村ごとついて来るの!?
「かんぱーい!! 太郎君の素晴らしい頭脳と悪知恵に!」
「かんぱぁーい! 偉大なるスポンサー様の、無限のポテトチップスに!」
「乾杯ですわ。太郎様がもたらしてくださる、至高の甘味に」
グリフィン討伐から数時間後。
ポポロ村の広場では、村人全員を巻き込んだ盛大な祝勝の宴会が開かれていた。
木箱を並べたテーブルの上には、村の猟師が仕留めたイノシシの丸焼きや新鮮な野菜に加え、太郎が『100円ショップ』スキルで奮発して召喚した紙皿、紙コップ、そして大量のスナック菓子とジュースが並べられている。
「ははは……みんな、あんまり飲みすぎないようにね」
紙コップに注がれた100円のコーラをちびちびと飲みながら、佐藤太郎は苦笑いを浮かべていた。
村人たちは「太郎様、万歳!」「ポポロ村の天才参謀様!」と口々に彼を讃え、美少女ヒロイン三人は、それぞれ太郎の隣や膝の上のポジションを巡って静かな牽制合戦を繰り広げている。
居心地は決して悪くない。いや、むしろオタク気質の男子大学生からすれば、夢のようなハーレム状況(ただし全員の戦闘力と倫理観がヤバい)と言えるだろう。
しかし、太郎の内心には一抹の不安があった。
(グリフィンは倒せたし、悪徳役人も追い返した。でも、このままじゃダメだ)
太郎は手元のホログラムパネルをこっそり確認した。
初期特典の1000Pから色々と消費し、現在の残高は残りわずか。一応、異世界の銅貨(1枚=100円相当)をポイントとしてチャージできる仕様だと判明したが、太郎自身には決まった収入源がないのだ。
(僕は今、キャルルたちに養ってもらっている『ニート』みたいな状態だ。経済学を学んでいる身として、このまま村の好意に甘え続けるわけにはいかない。……それに、100均の品物をうまく使って商売をするなら、辺境の村より、もっと大きな市場に行く必要がある)
太郎は決意を固めた。
「よし……」
太郎はパンパンと手を叩き、周囲の注目を集めた。
騒いでいた村人たちとヒロイン三人が、一斉に太郎の方を振り向く。
「みんな、今日は本当にありがとう。でも……僕、明日にはこの村を出ようと思うんだ」
ピタリと、広場の喧騒が止まった。
「僕はこの世界に来たばかりで、まだ自分の力で一銭も稼いでいない。このままポポロ村に甘えるわけにはいかないからね。だから……ルナミス帝国の『帝都』に行って、一旗上げてこようと思うんだ」
沈黙。
そして、数秒後。
「に、逃がしませんわよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
凄まじい悲鳴とともに、リーザが太郎の右足にダイブしてきた。
「私のスポンサー! 私の命綱! 太郎様がいなくなったら、私はまた公園で鳩とパンくずを奪い合う地下アイドルに逆戻りですわ! 連れて行ってください! 帝都でも何でもついていきますから、どうかポテチと魚肉ソーセージだけは恵んでくださいませぇぇぇっ!」
芋ジャージを涙と鼻水で濡らしながら、リーザがすがりついて離れない。
「あらあら。太郎様ったら、水臭いですわね」
ルナがおっとりと立ち上がり、太郎の左腕に自身の豊かな胸をギュッと押し付けてきた。
「実は今朝、世界樹様からお告げがあったのですわ。『太郎様と祝言を挙げ、共に帝都へ赴き、新婚旅行を楽しみなさい』と。ですから、妻として私も同行いたしますわね♡」
「絶対嘘だろ!? 世界樹を私利私欲のダシに使うなよ!」
太郎がツッコミを入れていると、今度は正面から、キャルルがスッと近づいてきた。
彼女の目は、完全に光を失っている。
「太郎君……帝都に行くの? 私を置いて?」
「い、いや、置いていくっていうか……僕は男として自立しなきゃいけないし、危険な目に遭わせたくないから……」
「危険な目に遭うのは太郎君だよ。帝都なんて、悪い虫(女)がいっぱいいるんだから。太郎君の優しい心音を独り占めしようとする泥棒猫がいたら、私、そいつの顎を粉砕しちゃうかも……。だから、私もついていくよ。太郎君の専属の『近衛騎士』として、一生離れないからね……♡」
「ひぃっ!?」
キャルルから放たれる重すぎるヤンデレオーラに、太郎は後ずさった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! リーザとルナさんはともかく、キャルルはダメだろ!」
「え? なんで?」
「なんでって……キャルルはこのポポロ村の『村長』じゃないか! トップの君がいなくなったら、この村の行政はどうなるんだよ!? 緩衝地帯の中立村落として、また他国から狙われるかもしれないだろ!」
太郎がもっともな正論をぶつける。
ヒロインたちに同行されるのは正直心強い(し、食費はかさむがなんだかんだ嬉しい)が、村を捨てていくような真似はさせたくなかった。
しかし、キャルルはウサギの耳をピクッと動かし、満面の笑みを浮かべた。
「なんだ、そんなこと心配してたの? えへへ、優しいなぁ太郎君は。でも、大丈夫だよ♡」
キャルルはそう言うと、村長宅の裏手にある、謎の石碑のようなオブジェの前に歩いていった。
そこには、赤く塗られた古びた『巨大なレバー』が設置されている。
「ポポロ村の安全なら、私がちゃんと守ってあげるからねっ!」
ガコンッ!!
キャルルは、その巨大なレバーを勢いよく下に引いた。
直後。
『ウィィィィィィン!! ガシャン! ガシャン! ガシャン!』
ポポロ村の地面の底から、けたたましい機械音が鳴り響き始めた。
「な、なんだ!?」
太郎が驚いて周囲を見回すと、信じられない光景が広がっていた。
木造の家々が、まるで精巧なからくり箱のように『パタパタ』と折りたたまれていく。
畑がスライドして地面の下に収納され、道がブロック状に分割されて見事に重なり合っていく。
「あーれー」
「おや、また引越しだべか」
「村長様、気をつけていってらっしゃいませー」
宴会を楽しんでいた農民や村人たちは、特にパニックになることもなく、慣れた様子で折りたたまれる空間の隙間へと、まるでカプセルトイの中身のようにスポンと収納されてしまった。
「……は?」
太郎の口が、あんぐりと開いたまま塞がらない。
ガシャガシャガシャッ! キューーーン……ポンッ。
ものの数十秒で。
家々も、畑も、村人たちも、すべてが一つの立方体に圧縮され……キャルルの手のひらに乗るほどの、小さな『キューブ状の物体』に変化してしまったのだ。
「はいっ♡ これで問題解決だね!」
キャルルは手のひらサイズのポポロ村(全村民収納済み)を、自分の上着のポケットにポイッと無造作に放り込んだ。
「これなら村が襲われる心配もないし、帝都の空き地に広げれば、いつでも太郎君に温かいお布団とご飯を用意してあげられるよ! 私の村は、代々『折りたたみ式』のアーティファクトで出来てるんだから!」
ウサギの耳を揺らしながら、キャルルはドヤ顔でピースサインを決めた。
静寂が降りた更地に、一筋の風が吹き抜ける。
太郎は、虚無となった広場(だった場所)と、ポケットが少し膨らんでいるキャルルを交互に見つめ……そして、異世界の空に向かって絶叫した。
「ポポロ村って、折りたたみ式だったのおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
かくして。
経済知識と【100円ショップ】の悪知恵を武器にする気の小さな青年・佐藤太郎は、ヤンデレウサギ村長、強欲人魚アイドル、破滅的善意エルフのお嬢様というヤバすぎる三人のヒロインに加え……まさかの『村ごと(村人含む)』引き連れて、ルナミス帝都へのカオスな旅をスタートさせることになったのである。
(第一章・完)
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