EP 7
リベンジ襲来! ヤバすぎるヒロインたちの防衛戦(と略奪)
「ふぅ……朝のコーヒーはやっぱり最高だな。100円のドリップコーヒーだけど、この世界じゃ超高級品レベルの香りがする」
ポポロ村の朝。
佐藤太郎は村長宅の縁側に腰掛け、マグカップから立ち上る湯気を楽しんでいた。
昨日の悪徳役人撃退事件から一夜明け、村には再び平和な空気が戻っていた。100円ショップのスキルと法律知識で村を守り抜いた太郎は、村人たちからも「すご腕の参謀様」として一目置かれるようになり、ちょっとした優越感に浸っていた。
「この調子なら、僕の頭脳と100均グッズだけで、この異世界を安全かつ快適に生き抜けるかもしれないな……」
太郎がそんなフラグめいた独り言を呟いた、まさにその直後だった。
「――ヒャッハー!! 昨日の借りを返しに来たぜぇぇぇっ!!」
村の入り口から、下品な雄叫びと地響きが轟いた。
太郎がコーヒーを噴き出しながら立ち上がると、そこには昨日の小太りな役人が、目を血走らせて立っていた。
しかし、今日引き連れているのは正規の帝国兵ではない。トゲトゲの肩当てや、野盗のようなボロボロの革鎧を着込んだ、ガラの悪い『ならず者(傭兵)』たち二十人ほどだ。
「な、なんだお前ら!」
「ふはははっ! 昨日は法律だのガオガオンだのと口八丁で騙してくれたな、小僧! だが今日は違う! こいつらは金で雇った無法者のゴロツキだ。法律もクソも関係ない! 貴様らを皆殺しにして、この村の財産を根こそぎ奪い取ってやる!!」
役人が狂ったように高笑いする。
(ヤバい! 法律が通じない物理特化のバカを連れてきたのか!)
太郎は冷や汗を流し、慌てて『100円ショップ』のパネルを開こうとした。
(ええと、ローションを出して足元を滑らせて、唐辛子パウダーを目潰しにして……!)
太郎が必死に悪知恵をフル回転させていた、その時である。
「あらあら。朝からずいぶんと血の気の多い方々ですこと」
村長宅の奥から、フリフリの最高級ドレスを揺らして、ルナ・シンフォニアがおっとりと歩み出てきた。
彼女は役人とゴロツキたちを前にしても一切動じることなく、むしろ慈母のような優しい微笑みを浮かべている。
「ひどくお疲れのようですわね。目にはどす黒い欲望が渦巻き、心には余裕がない……。可哀想に。私が皆様に、至福の『癒やし』を提供して差し上げますわ」
ルナが「世界樹の杖」を軽く地面に突いた。
ボコボコボコッ!
役人たちの足元の地面が突然隆起し、そこから巨大な植物が姿を現した。
それは、毒々しい紫色をした花弁と、粘液をダラダラと垂らす無数の『触手』を持った、どう見ても魔界の食虫植物だった。
「ヒッ!? な、なんだこの化け物植物は!」
「お戯れを。これは幻覚催眠植物『ハッピー・ドリーム』ちゃんですわ。皆様、どうぞ素敵な夢を♡」
ルナがウインクをした瞬間。
シュルルルルッ! とハッピー・ドリームの触手が伸び、役人とゴロツキたちの首筋や後頭部に、容赦なくブスリと突き刺さった。
「ぎゃああああっ!? ……あ、あれ? ほわぁ……」
突き刺さった触手から、謎の催眠成分が直接脳内へ注入される。
先ほどまで殺意剥き出しだった男たちの表情が、一瞬にしてだらしなく緩み、口からヨダレを垂らし始めた。
「へへへ……女だ、いい女がいっぱいいるぜぇ……♡」
「酒だ! 極上のワインの池だぁ……うひひひ……」
「金貨の山だ! これで俺も大金持ちだぁ……!」
男たちは完全に幻覚の世界へと旅立ち、虚空を抱きしめたり、地面にキスをしたりと、地獄のような狂態を晒し始めた。
ルナはニコニコしながら、幻覚の中で酒池肉林を味わっている役人の前にスッと書類を差し出した。
「はい、お客様。こちらが『ポポロ村の税金は向こう百年間、非課税とする』という免税証明書になりますわ。ここにサインをお願いしますね」
「うへへぇ……おねーちゃん、いい匂いがするねぇ……はい、サイン……」
役人はヨダレを垂らしたまま、ルナから渡された羽ペンで、ホイホイと免税証明書に署名と帝国役人の正式な実印を押してしまった。
「ありがとうございますわ。これで行政手続きは完璧ですの」
ルナが満足げに書類を回収する。
(えげつねえ……! 天然の笑顔でやってる分、タチが悪すぎる……!)
太郎がその光景に戦慄していると、今度は村長宅の屋根の上から、芋ジャージ姿の少女が飛び降りてきた。
「さあ! アイドルのステージの後は、ファンからの熱い『お布施』の時間ですわ!」
目を『¥』のマークに輝かせたリーザである。
彼女は手にした『お賽銭箱型掃除機』のスイッチをオンにした。
キュイィィィィン!!
凄まじい吸引音が鳴り響く。
「はぁっ! 剥ぎ取りの舞ぃ!」
リーザは、幻覚を見てヘラヘラと笑っているゴロツキたちの間を、目にも留まらぬ速さで駆け抜けた。
ルナミスデパートの試供品漁りで鍛え上げられたその手つきは、もはや神業の域に達していた。
「この革鎧、売れば銀貨3枚! この剣、銀貨5枚! おっ、この役人のお財布、金貨がたっぷり入ってますわね! 愛のスパチャ、確かに受け取りましたわぁぁっ!」
リーザが通り過ぎた後には、武器も、防具も、財布も、さらには着ていた服すらも綺麗に剥ぎ取られた男たちの姿があった。
ものの数十秒で、二十人近い屈強な男たちが、白目でお花畑の幻覚を見たまま『パンツ一丁』の姿に成り果ててしまったのである。
「よしっ! 太郎君、仕上げは私に任せて!」
そこへ、朝のランニングから帰ってきたキャルルが満面の笑みで飛び出してきた。
「待て! キャルル! もう十分だ! これ以上やったら死人が出る!」
太郎が慌てて叫ぶ。
「えー? 殺さないよ。ちょっと村の外まで『お見送り』するだけ!」
キャルルはパンツ一丁で突っ立っている男たちに向かって、特注安全靴の踵を向けた。
「月影流・乱れ鐘打ち(手加減バージョン)!」
ボパパパパパパパンッ!!
空気を破る破裂音とともに、キャルルの超高速の回し蹴りが男たちの腹部を的確に打ち抜いていく。
「アベシッ!」「ヒデブッ!」「タワバッ!」
男たちは次々とボールのようにポポロ村の入り口から外へと蹴り飛ばされ、はるか彼方の森の奥へと綺麗な放物線を描いて消えていった。
「ふぅ、スッキリした♡ 朝のいい運動になったね、太郎君!」
キャルルが額の汗を拭いながら、爽やかに笑いかけてくる。
「……うん。お疲れ様」
太郎は引きつった笑顔で頷くことしかできなかった。
広場に残されたのは、リーザが略奪……もとい、集金した武具や金貨の山と、ルナが手に入れた百年間有効な免税証明書だけ。
(……僕、いる?)
太郎は手の中で握りしめていた『100円のローション』を、そっとポケットにしまった。
強大な魔物や無法者が襲ってきても、この村のヒロインたちは一人残らず規格外の化け物(強さ的にも、倫理観的にも)である。太郎が前に出て戦うまでもなく、敵は自滅するか、骨までしゃぶり尽くされて終わるのだ。
(いや、でも……あいつら、加減ってものを知らないからな。僕がいなかったら、ルナさんはあの男たちを本当に肥料にしてたかもしれないし、キャルルは首の骨を折ってたかもしれない)
ある意味で、自分はこの『ヤバすぎる兵器たち』の手綱を握る、安全装置としての役割を担っているのだ。そう自分に言い聞かせることで、太郎はなんとか自尊心を保った。
「でも、さすがに僕も自分の身を守る手段くらいは身につけないとな……。毎回ローションとトランシーバーでハッタリをかますわけにもいかないし」
太郎がぽつりとこぼしたその呟きを、ウサギの耳を持つ少女は聞き逃さなかった。
「太郎君! だったら私が武術を教えてあげる!」
キャルルが尻尾をブンブンと振りながら、嬉しそうに太郎の手を握りしめてきた。
「え? 君のその、顎を粉砕する格闘術を?」
「ううん、太郎君の優しい手には、直接殴る格闘技は似合わないよ。そうだね……『弓術』なんてどうかな? 私、元近衛騎士隊長候補だったから、弓も得意なんだよ♡」
キャルルの距離が近い。吐息がかかるほどの至近距離で見つめられ、太郎の心臓がドキンと跳ねた。
「ゆ、弓術か。それなら、僕にもできるかもしれない……。キャルル、お願いできるかな?」
「うんっ! 任せて! 手取り足取り、一生かけてみっちり教えてあげるからね……♡」
こうして、ヤンデレ姫による過激な個人レッスンが幕を開けることになったのだが、太郎はこの弓術と100円ショップのスキルを組み合わせることで、後に更なる『悪知恵』を生み出すことになるとは、まだ知る由もなかった。
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