EP 5
100円の錬金術! 魅惑のジャンクフードでヤバい美少女たちを完全餌付け
ポポロ村の村長宅、その広々としたリビングにて。
ルナが引き起こしかけた『純金による経済崩壊未遂事件』から一夜が明け、佐藤太郎は大きな木彫りのテーブルの上に、自身のスキル『100円ショップ』で召喚した数々のアイテムを並べていた。
「よし、とりあえずスキルの仕様はだいたい分かってきたぞ」
太郎の目の前には、半透明のホログラムウィンドウが浮かんでいる。
現在の残高は『700P』。初期特典の1000Pから、昨日の焼き鳥缶、お茶、ライターを消費した残りだ。
この世界のアナスタシア通貨に換算すると、銅貨7枚(700円相当)。決して大金ではないが、地球の100円ショップの品物がそのままの価格で引き出せるのであれば、その価値は計り知れない。
「食品、日用品、文房具、工具……。本当に何でもあるな。ただ、火薬とかガソリンみたいな『危険物』は流石にリストにないか。まあ、100均だから当然だけど」
太郎が独り言を呟きながらパネルを操作していると、テーブルの周囲に三つの影がススッと歩み寄ってきた。
「太郎君、太郎君! それ、何のお薬ですか? また新しい魔法のアイテム?」
ウサギの耳をピクピクと動かしながら、村長のキャルルが興味津々に覗き込んでくる。
「プロデューサー! 私のゴーストが囁いていますわ! それは絶対に美味しいものですわよね!?」
芋ジャージ姿の地下アイドル人魚・リーザは、すでに口の端からダラダラと涎を垂らし、目を血走らせている。
「あらあら、見たことのない装飾の箱ですこと。太郎様の故郷の特産品でしょうか?」
最高級のドレスを身に纏った天然エルフお嬢様・ルナも、不思議そうに首を傾げていた。
三人の視線の先にあるのは、太郎がたった今『400P』を消費してテーブルに出現させた現代日本の叡智たち。
『コンソメ味のポテトチップス』、『ミルクチョコレート』、『シーフード味のカップ麺』、そして『500mlのコーラ』である。
「薬じゃないよ。僕の故郷の……まあ、お菓子と手軽なご飯だね。今後の生活のために、君たちの口に合うかテストしておきたくてさ」
太郎がそう言うと、三人の美少女たちはゴクリと喉を鳴らした。
「まずは、リーザ。これ食べてみて」
太郎はポテトチップスの袋を開け、中から薄くスライスされた黄金色のチップスを一枚取り出し、リーザに差し出した。
「ふぇ? この薄っぺらい枯れ葉のようなものが、食べ物なんですの?」
「いいから、一口でいってみて」
リーザは恐る恐るポテトチップスを口に含み、前歯で小さく噛み砕いた。
――パリッ。
軽快な音がリビングに響いた瞬間、リーザの時が止まった。
「…………っ!!?」
リーザの瞳孔が限界まで開き、全身の震えが止まらなくなる。
芋を揚げた香ばしさ。そして何より、異世界には存在しない『化学調味料(アミノ酸等)』による、脳を直接殴りつけるような強烈な旨味と塩気が、人魚姫の味覚細胞を容赦なく蹂躙したのだ。
「な、ななな、なんですかこれぇぇぇぇっ!?」
リーザは両手で頭を抱え、みかん箱の上で歌う時よりも激しいステップを踏み始めた。
「美味しい! 美味しすぎますわ! 普段私が公園でムシャムシャ食べている『食べられる雑草』とは次元が違いますの! 舌が……舌がビリビリして、旨味の奔流に溺れそうですわぁぁ!」
「あ、こら! 全部一気に食うな!」
太郎が止める間もなく、リーザは袋ごとポテトチップスを奪い取り、顔を突っ込んで野生の獣のように貪り食い始めた。芋ジャージがポテチの粉まみれになっているが、もはや気にする余裕はないらしい。
「す、すごい反応だね……。じゃあ、次はルナさん。これ、甘いお菓子なんだけど」
太郎は銀紙に包まれた板状のミルクチョコレートをパキッと割り、ひとかけらをルナに手渡した。
「まぁ、黒くて可愛らしい石板ですこと。では、遠慮なく……」
ルナは上品に口元を隠しながら、チョコレートをひとかじりした。
その瞬間、エルフのお嬢様の長い耳が、ピンッ!と垂直に跳ね上がった。
「…………あら?」
ルナは瞬きを繰り返し、信じられないものを見るような目で手元のチョコレートを見つめた。
「…………あらあらあらあらあらあらあらっ!?」
上品な笑みは完全に崩れ去り、ルナの顔に驚愕と恍惚が入り混じった表情が浮かぶ。
「た、太郎様……! これは一体、何の魔法ですの!? 私、世界樹様から採れる最高級の蜂蜜を毎日舐めておりますけれど……こんなに濃厚で、舌の上でとろけるような、暴力的なまでの『甘さ』は初めてですわ!!」
カカオの芳醇な香りと、精製された砂糖の暴力的な甘味。
自然の甘さしか知らないエルフにとって、現代のチョコレートはもはや『合法的な麻薬』に等しい破壊力を持っていた。
「世界樹の蜂蜜なんて、もうただの泥水ですわ! これに比べたら! ああ、もっと……もっと口に入れたいですわぁ……!」
ルナは太郎の手にあった残りのチョコレートをひったくると、普段のおっとりした態度からは想像もつかない速度で口に放り込み、幸せそうに頬を抑えて身悶えし始めた。
(……世界樹の蜂蜜を泥水呼ばわりって、世界樹が聞いたらガチ泣きして世界滅ぼすんじゃないか?)
太郎は冷や汗を流しながら、最後にして最強の刺客――『シーフード味のカップ麺』を手に取った。
「キャルル、お湯ある? これ、お湯を入れて三分待つと食べられるやつなんだ」
「お湯ですね! 任せてください!」
ルナが「私が火炎魔法で一瞬で沸かして差し上げますわ!」と杖を構えかけたが、家が全焼する未来を察知したキャルルが回し蹴りでルナを沈め、キッチンから安全に沸かしたお湯を持ってきてくれた。
カップ麺にお湯を注ぎ、三分が経過する。
蓋を開けた瞬間、部屋中に魚介の濃厚な旨味と、ジャンクな油の香りが爆発的に広がった。
「す、すごい匂い……! お腹がキュルキュル鳴っちゃいます!」
キャルルのウサギ耳が、期待と興奮でブンブンとプロペラのように回っている。
「ほら、食べてみて。熱いから気をつけてね」
太郎がフォークを渡すと、キャルルはフーフーと息を吹きかけ、ズズッと麺をすすった。
「…………ッ!!」
キャルルの目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
「た、太郎君……なにこれ、なにこれぇっ! 麺が……スープが……それにこの、謎のお肉みたいなフワフワしたやつ! 全部が口の中で合体して、信じられないくらい美味しいよぉぉぉっ!!」
キャルルは泣きながら麺をすすり、スープを最後の一滴まで飲み干した。
そして、空になったカップをテーブルに置くと、ガシッと太郎の両手を強く、ひたすらに強く握りしめた。
「私……私、決めたよ太郎君」
キャルルの瞳の奥に、ただの感謝ではない、重く暗い『ヤンデレ』の炎がボワッと灯るのが見えた。
「こんなに美味しいものを食べさせてくれる太郎君を、私は一生逃がさない。太郎君から出ている心音……トクン、トクンって音、すごく優しくて、絶対に嘘をついてないのが分かるもん。誰かが太郎君を私から奪おうとしたら、私、その人の顎を粉々に砕いて、特注の安全靴で地獄の底まで蹴り落としてあげるからね……♡」
「ひっ!?」
太郎は、マッハで飛び蹴りをする少女の重すぎる愛の告白(物理的な殺害予告付き)に、背筋を凍らせた。
「プロデューサー! 私、もうパンの耳には戻れませんわ! お給料は全部この『ポテトチップス』で構いません! ずっと私を養ってくださいませ!」
顔中粉まみれのリーザが、太郎の右足にすがりつく。
「太郎様ぁ……私、この『チョコレート』の製法を教えていただけるなら、村人全員の腎臓を売って資金を調達して工場を建てますわ! もちろん私の権力で合法にいたします!」
完全に倫理観が崩壊したルナが、太郎の左足にすがりつく。
「太郎君は私のご飯を一生作ってくれるよね? ね? 逃げないよね……?」
満面の笑みで、絶対に逃がさないというオーラを放つキャルルが太郎の正面を塞ぐ。
「…………」
太郎は天井を仰ぎ見た。
『100円ショップ』のスキルは、予想を遥かに超える絶大な威力を発揮した。
現代のジャンクフードは、異世界の住人にとってはオーバースペックすぎる美食であり、彼女たちの胃袋を完全に、そして後戻りできないレベルで掌握してしまったのだ。
(これ……僕、食料の供給を止めたら殺されるんじゃないか……?)
恐怖に震えながらも、太郎は経済学部の学生らしい『悪知恵』をほんの少しだけ働かせた。
これだけ強力なカード(100均グルメ)を手に入れたのだ。彼女たちのこの強大な力をうまくコントロールできれば、この理不尽な異世界でも、絶対安全なニート生活……いや、平穏なスローライフが送れるかもしれない。
「わ、わかった。わかったから! 君たちが僕の言うことをちゃんと聞いて、村の平和を守ってくれるなら、毎日100円のお菓子やご飯をご馳走してあげるから!」
「「「本当ですの!?(本当!?)」」」
三人のヤバすぎる美少女たちが、歓喜の声を上げて太郎を胴上げし始めた。
「わーっ! 落とすなよ! キャルル、力強いって! リーザ、僕のポッケから小銭をスろうとするな! ルナさん、純金を僕の口にねじ込もうとしないでぇぇぇっ!!」
ポポロ村の平和な昼下がり。
佐藤太郎は、たった400円の投資によって、この村に潜む最強の防衛戦力(兼・時限爆弾)たちを完全に手懐けることに成功したのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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