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EP 3

発覚する借金地獄と、丸めたスポーツ新聞によるガチ説教

ファミレス『ルナキン』のボックス席。

先ほどまでの賑やかな宴会ムードは完全に消え去り、そこにはお通夜のような、いや、取り立て屋の事務所のような重苦しい空気が漂っていた。

ボックス席のシートの上に、ちょこんと正座させられている世界神ルチアナ。

その目の前には、腕を組み、夜叉のような形相で彼女を見下ろす佐藤太郎が立っていた。

テーブルの上には、リーザがぶちまけた『赤い督促状』の山が、これ見よがしに広げられている。

「……さて。言い訳があるなら聞こうか、駄女神」

太郎の声は、氷点下を下回るほど冷たかった。

「ち、違うのよ太郎! これは不可抗力というか、世界を救うための尊い犠牲というか……!」

ルチアナは、額についたゆで卵の破片をポロポロと落としながら、必死にエンジェルスマートフォンを隠そうとした。

「ほう? 世界を救うための犠牲ね。じゃあ、この明細書に書かれている『朝倉月人・水着ピックアップガチャ(天井までコンプ)』っていうのは、どういう世界を救うんだ?」

太郎が突きつけた一枚の紙。

そこには、ルチアナがドハマりしている地球の男性アイドル(の二次元ゲームアプリ)の課金履歴が、ズラリと印字されていた。

「っ……! だ、だって月人君の水着姿(SSR)の排出率、0.01パーセントしかなかったのよ!? しかも期間限定で、今引かないと来年まで復刻しないって言われたら、神として回すしかないじゃない!!」

「神の権能をソシャゲのガチャに使うな!!」

太郎の怒声が、ルナキンの店内に響き渡った。

「だいたい、なんで異世界の神様が地球のゲームに課金できるんだよ! どういう決済システムになってるんだ!」

「うぅ……大宇宙管理局が発行してる『神様用クレジットカード』を紐付けてるの……。限度額は百万円なんだけど、リボ払いに設定しておけば毎月少しずつの支払いで済むから平気だと思って……」

「出たよ! 経済的破滅の第一歩、魔法の言葉『リボ払い』!!」

経済学部で学ぶ太郎にとって、無計画なリボ払いなど、自ら進んで地獄の釜に飛び込むような愚行に他ならない。

「金利手数料だけで雪だるま式に借金が膨れ上がることくらい、少し計算すれば分かるだろ! お前、それでも本当に神様なのか!?」

「うわああぁぁん! だって算数苦手なんだもん! それに、ちょっと高級エステ(神界の)にも行っちゃって……気づいたら限度額MAXで、カード止められちゃったのよぉ!」

わぁわぁと子供のように泣き喚く世界神。

そのあまりにも情けない姿に、ヒロインたちは三者三様のリアクションを見せていた。

「女神様……。辛かったら、私のとっておきの『パンの耳』を半分分けて差し上げますわ……」

リーザが、自分のポケットからティッシュに包んだパンの耳を取り出し、ルチアナの肩をポンポンと叩いて同情している。貧困層の熱い絆がそこに生まれていた。

「ルチアナちゃん、こっち向いてーっ! はい、チーズ☆ 借金まみれの駄女神の泣き顔、バッチリ配信で全世界に流してるからね! スパチャがバンバン飛んでるよーっ!」

キュララはドローンカメラをルチアナの顔面に限界まで近づけ、インフルエンサーとしてのえげつなさを遺憾なく発揮している。

「あらあら。借金で首が回らないなら、いっそ首から下を切り落として、私の世界樹の肥料にして差し上げましょうか? そうすればガチャを回す指もなくなって、一石二鳥ですわ♡」

ルナがおっとりと、最も物理的でサイコパスな解決策を提案する。

「お前らも静かにしろ!」

太郎が一喝すると、美少女たちはピタッと口を閉ざした。

今の太郎は、怒れるオカン(母親)のような絶対的な覇気を纏っており、百馬力オーバーのヒロインたちですら逆らえない威厳があった。

太郎は深く息を吐くと、ホログラムパネルを展開した。

「スキル、『100円ショップ』!」

ポンッ、という音とともに太郎の手に現れたのは、現代日本でお馴染みの『スポーツ新聞』だった。

太郎はそれを手に取ると、無言のまま、キュッ、キュッ、と限界まで硬く、細く丸め始めた。

「た、太郎? 何をしてるの……? その紙の棒、すごく硬そうなんだけど……」

ルチアナが涙目で後ずさりする。

「いいか、ルチアナ」

太郎は、カチカチに丸めたスポーツ新聞を片手に持ち、もう片方の手のひらにポン、ポン、と打ち付けた。

「僕は、君に理不尽にこの世界に飛ばされて、一馬力の虚弱体質で死にかけた。それでも必死に知恵を絞って、100均のスキルでビジネスを立ち上げて、ようやく生きる道を切り開いたんだ」

ポン、ポン。

新聞紙が叩かれる音が、まるで死刑宣告のカウントダウンのように響く。

「それなのに……神様である君は、安全な神界でオタク趣味に現を抜かし、ガチャで借金を作り、あわよくば僕の稼いだ金にたかろうとして、レンタカーで乗り付けてきた。……これが、怒らずにいられるか」

「ひっ……! ご、ごめんなさ――」

スパーーーンッ!!

「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

太郎の丸めたスポーツ新聞が、ルチアナの脳天にクリーンヒットした。

たかが新聞紙と侮るなかれ。極限まで硬く丸められたそれは、日本刀の峰打ちにも匹敵する(※個人の感想です)素晴らしいスナップと破壊力を生み出すのだ。

「甘えるな!」

スパーーーンッ!

「あだっ!?」

「いい年して、後先考えずにリボ払いなんてするな!!」

スパーーーンッ!!

「ふぎゃっ! ごめんなさい! ごめんなさいぃ!」

「お金はな、木に生えてるんじゃないんだ! 働いて、汗水垂らして稼ぐもんなんだよ!!」

スパーーンッ! スパーーーーーンッ!!

ルナキンの店内に、小気味良いツッコミの音と、世界神の情けない悲鳴が響き渡る。

百馬力の身体能力を持つ者ならいざ知らず、太郎は純度100%の『一馬力』である。しかし、今この瞬間、彼の放つ新聞紙の連撃は、いかなる神のバリアをも貫通する『説教』という名の概念攻撃と化していた。

「あわわわ……太郎君、すごく怒ってる……」

キャルルが両手で頬を押さえ、ウサギの耳をバタバタと揺らしている。

「でも……ダメな大人を容赦なく叱ってくれる太郎君……すごく男らしくて、頼りがいがあって……私、もっと太郎君のこと好きになっちゃった……♡ 私も悪いことしたら、あやってお仕置きしてくれるのかな……♡」

ヤンデレ姫の愛情メーターは、謎の方向へ限界突破していた。

「うぅ……ぐすっ、ごめんなさい、私が悪かったですぅ……」

数分後。

頭に立派なタンコブを二つ作ったルチアナが、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、テーブルに突っ伏して完全に降伏していた。

太郎は少しだけ曲がったスポーツ新聞を下ろし、ふぅ、と息を吐いた。

「……分かったならいい。借金を作ったのはお前の自己責任だ。大宇宙管理局とかいう取り立て屋に怯えながら生きるのが嫌なら、自分の力でその百万円を返すんだな」

太郎が冷たく言い放つと、ルチアナは縋り付くように太郎のジャージの裾を掴んだ。

「む、無理よぉ! 私、神様だから労働なんてしたことないもん! 特技なんて、祈りを聞き流すことくらいしかないし……! 太郎、あんたビジネスで大儲けしてるんでしょ!? 百万円くらい、ポンと立て替えてよぉ!」

「断る。他人の借金を肩代わりするほど、僕は甘い人間じゃない」

太郎はきっぱりと首を横に振った。

「それに、今オロチ会長から振り込まれた資金は、次のビジネスの仕入れや投資に回すための大事な元手だ。お前のガチャ代に消していい金じゃない」

「そんなぁ……! じゃあ私、マグローザ漁船(遠洋漁業)に売られちゃうわ……! いやぁぁぁぁ!」

絶望の淵で泣き叫ぶルチアナ。

太郎は顎に手を当て、少しの間考え込んだ。

(この駄女神を突き放すのは簡単だ。でも、こいつを野放しにしておいたら、借金取りから逃げるためにまた変な奇跡(トラブル)を起こして、僕たちのビジネスに迷惑をかけかねない。……それに、こいつの『容姿』だけは一級品だ)

経済学部の脳細胞が、ピンチを『商機』へと変換する。

太郎は口角を少しだけ上げ、悪徳商人のような笑みを浮かべた。

「……仕方ない。立て替えはしないが、一つだけ、お前が自力で稼ぐための『仕事(バイト)』を用意してやる」

「ほ、本当!? さすが太郎! 優しいっ! で、何をするの!? 神の私にふさわしい、神殿の御神体役とか、玉座に座ってるだけでいい仕事!?」

ルチアナがパァッと表情を明るくするが、太郎の言葉は非情だった。

「僕が今度、帝都の広場で展開しようと思っている『100均ポップアップストア(青空市場)』の……売り子だ」

「…………は?」

「時給は800円(銅貨8枚)。交通費なし、まかないナシだ。百万円返すまで、馬車馬のように働いてもらうぞ」

「じ、時給800円!? 最低賃金割ってるじゃないのよ!!」

ルチアナが抗議の声を上げる。

「甘えるな。このルナミス帝国にお前の住民票も労働基準法もない。不法入国者のエイリアンなんだから、文句を言う権利はないぞ」

「そんなぁぁぁぁっ! 嫌よ! 私、立ち仕事なんてしたら足がむくんじゃう!」

ルチアナが駄々をこねようとした、その時。

スッ……。

ルチアナの後頭部に、冷たくて硬い金属の感触が押し当てられた。

キャルルの『ダブルトンファー』である。

「ルチアナさん? 太郎君がせっかくお仕事を恵んでくださるって言ってるのに、文句を言うなんて……まさか、太郎君の厚意を踏みにじるつもりじゃないよね?」

キャルルの声は、底冷えするほど甘く、そして暗かった。

ウサギの瞳からは完全に光が消え、今にもトンファーのトリガー(闘気解放)を引きそうな殺気が漂っている。

「断ったら……この顔面の骨、粉砕しちゃうよ?♡」

「ヒィッ!?」

「はい、決定」

太郎はパンッと手を叩いた。

「明日から、帝都の広場でガッツリ働いてもらうからな。覚悟しておけよ、駄女神」

こうして。

借金地獄に陥った世界神ルチアナは、一馬力の大学生による新聞紙の制裁を受け、時給800円の『100円ショップ・非正規アルバイト』として、異世界の労働市場へと強制的に叩き込まれることになったのである。

読んでいただきありがとうございます。

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