EP 10
タワマン最上階ですき焼きパーティー! 悪党の末路と、次なる経済支配への乾杯
「あ、もしもしお母ちゃん? うん、俺だけど……違う、違うんだ! これは誤解で……うわああぁぁん!」
バルバトス男爵の別邸だった『更地』に、情けない男の号泣が響き渡っていた。
キュララの配信を見た『特定班』の動きは、恐ろしいほど迅速だった。男爵の過去の余罪や隠し口座のパスワードまでがものの数分で特定され、SNS上に拡散。さらには実家の母親にまで電凸(電話突撃)がいき、魔法通信石越しに「アンタ、パンツ一丁で何やってんの! 早く自首しなさい!」とこってり絞られたのだ。
そこへタイミング良くルナミス警察のパトカー(魔導車)が到着し、男爵は完全に心を折られた状態で、パトカーの後部座席へと連行されていった。
「はーい! これにて一件落着っ☆ みんな、今日もスパチャと特定協力ありがとねー! キュララちゃんの正義の配信、次回もお楽しみにっ!」
キュララが完璧な笑顔でカメラに手を振り、配信を終了する。
「……ふぅ。これで邪魔者もいなくなったし、僕たちのビジネスも安泰だな」
佐藤太郎は、パトカーが去っていく土煙を見送りながら、深く息を吐き出した。
直後、太郎のポケットに入っていた魔導通信石が震えた。相手は、ゴルド商会のオロチ会長からだ。
『カッカッカ! 太郎君、ドえりゃあ面白い配信を見せてもらったがや。あのタチの悪いバルバトス男爵が、まさか更地でパンツ一丁になって泣き喚くとはな!』
「お見苦しいところをお見せしました。……そちらの状況はどうですか?」
『完璧だでよ!』
通信石越しでも伝わってくるほど、オロチの声は弾んでいた。
『超VIP枠のコスメ、高位貴族どもが血眼になって買っていったわ! ワシへの感謝と『借り』の言葉を並べ立ててな。……約束通り、利益の半分はあんたの口座に振り込んどいたがや。確認してみやぁ』
太郎が手元のエンジェルスマートフォン(キュララのお下がり)で口座を確認すると、そこには『金貨500枚』というとんでもない数字が刻まれていた。日本円にしておよそ500万円。たった数日の、しかも100円の元手から生み出した利益としては破格すぎる。
「確認しました。ありがとうございます、オロチ会長」
『ワッハッハ! これからも頼むでよ、ワシの最高のビジネスパートナー!』
通信が切れ、太郎は青空を見上げた。
(やった……。本当に、僕の知識と100均スキルで、この世界の経済に風穴を開けたんだ)
「たーろーうーくーん!」
キャルルが背後から勢いよく飛びついてきて、太郎の背中に回った。
「悪党もやっつけたし、大金も手に入ったし……お腹空いちゃった! 早くタワマンに帰って、お祝いしようよ!」
「お祝い! もちろん特上のお肉ですわよね、プロデューサー!?」
リーザが目を血走らせて迫ってくる。
「ああ、もちろんさ。今日は奮発して、最高の宴会にしよう!」
***
数時間後。タワマン最上階、1301号室。
リビングの巨大なテーブルの中央には、太郎が100円ショップのスキルで召喚した『カセットコンロ』と『すき焼き鍋(500円商品)』が鎮座していた。
「さぁ、今日は特別だよ。オロチ会長から振り込まれた金貨で、帝都で一番高い『特上飛竜牛』の霜降り肉を買ってきたからね!」
太郎がパックを開けると、美しいサシの入った赤身肉が姿を現した。
「おおおおおっ!!」
ヒロイン四人から、割れんばかりの歓声が上がる。
「でも、お肉だけじゃダメだ。異世界の最高級食材に、現代日本の『叡智』を掛け合わせる」
太郎は100円ショップで召喚した『すき焼きのタレ』を熱した鍋に注ぎ込んだ。
ジュワァァァァッ! という音とともに、醤油と砂糖、みりんが焦げる、暴力的なまでに甘辛い香りが部屋中に充満する。
「ひゃんっ! な、なんですかこの香り! 匂いだけでご飯が三杯食べられそうですわ!」
ルナがおっとりとした口調を崩し、鼻をヒクヒクとさせている。
太郎はそこに特上肉を投入し、焼き色がついたところでネギ、焼き豆腐、しらたき(すべて100均で調達)を敷き詰めた。
「仕上げはこれだ。生で食べても絶対にお腹を壊さない、殺菌済みの『生卵』!」
太郎がそれぞれの取り鉢に生卵を割り入れ、よく溶くように指示する。
「異世界じゃ生卵を食べる習慣はないかもしれないけど、騙されたと思って、この甘辛いお肉を卵に絡めて食べてみて」
「い、いただきますわぁっ!」
我慢の限界に達したリーザが、一番乗りで肉をかっさらい、卵に潜らせて口に放り込んだ。
「…………ッッッ!!!!」
リーザは目を見開き、無言のまま後ろに倒れ込んで痙攣し始めた。
「り、リーザちゃん!? 毒でも入ってたの!?」
キュララが慌てるが、リーザはガバッと起き上がると、滝のような涙を流しながら叫んだ。
「死ぬほど美味しいですわぁぁぁぁっ! 脳みそがとろけそうですの! お肉の暴力的な旨味とタレの甘さを、このドロドロの卵が優しく包み込んで……完璧な調和を生み出していますわ! 雑草サラダなんて、もう一生食べませんわぁっ!」
「私にも! 私にもお肉ちょうだい!」
キュララも肉を頬張り、「んんんん〜っ! ヤバいヤバいヤバい! ほっぺた落ちる!」と足をバタバタさせている。
「太郎様……私、この『すき焼き』というお料理のためなら、世界樹の森を更地にして巨大な養鶏場と牛舎を建設してもよろしいですわ」
ルナが、笑顔で森の生態系を破壊する決意を固めていた。
「はい、太郎君! あーんして♡」
キャルルが自分の箸で肉を掴み、太郎の口元へと運んでくる。
「私の一番の特等席は、太郎君の隣だからね。……ふふっ、美味しい?」
「う、うん。美味しいよ、キャルル」
太郎はヤンデレ姫の圧にタジタジになりながらも、その肉のあまりの美味さに頬を緩ませた。
異世界の極上素材と、現代日本の100円の調味料。
これらが組み合わさることで、とんでもない化学反応(美味しさ)が生まれている。これもまた、一つの『ビジネスの種』になるかもしれない。
***
宴会が落ち着き、四人の美少女たちが「もうお肉入らない〜」とソファで幸せそうに眠りについた頃。
太郎は一人、ベランダに出て夜風に当たっていた。
眼下には、魔導の光で煌びやかに輝くルナミス帝都の夜景が広がっている。
「……ふぅ」
太郎は、手に持っていた100円の『缶ビール』のプルタブに指をかけた。
――プシュッ!
炭酸の弾ける小気味良い音が、夜の空気に溶けていく。
あのアパートで、夜勤のバックレに悪態をつきながら開けようとしたあの日から、随分と遠いところまで来てしまった。
「ポポロ村に転がり込んだ時は、一生この子たちに養ってもらうニートになるかと思ったけど……」
太郎は、自分のポケットに収まっている『折りたたみ式のポポロ村』を軽く撫でた。
「案外、やれるもんだな」
ゴルド商会という強大なコネクション。
SNS女王という最強の宣伝媒体。
そして、自分自身の頭脳と【100円ショップ】のスキル。
「化粧品だけじゃない。食事、日用品、エンタメ……100円ショップには、この世界を変える力が無限に眠ってる」
太郎は缶ビールを天に向かって掲げた。
「見てろよ、駄女神ルチアナ。あんたが作ったこのメチャクチャな世界……僕の悪知恵と100均グッズで、経済の底から完全に支配してやるからな!」
喉を鳴らしてビールを飲み干す太郎の瞳には、次なる市場を見据える若き商人の、鋭く力強い野心の炎が燃え盛っていた。
(第二章・完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「すき焼きめっちゃ美味そう!」「太郎、ビジネスマンとして覚醒しててカッコいい!」「リーザの更地焼き芋で笑ったw」など、少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と、ページ下部にある【★★★★★(評価ポイント)】を押して応援していただけると、太郎の次なる悪知恵(と作者の執筆モチベーション)が爆上がりします!
第三章では、ついに帝都の巨大な市場で「100均ビジネス」が本格始動! さらなるヤバいライバルや、ヒロインたちのカオスな日常が太郎を襲います。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




