EP 9
100均DIY! 極悪無慈悲なセメントの錬金術
「お待たせっ! 皆の愛と希望の光、聖騎士キュララちゃん、只今降臨っ☆」
実に五分間にも及ぶ無駄に長い変身バンク(その間、バイオスライムはタバコを二本も吸い終えていた)を経て、キュララはようやく純白の聖騎士鎧を身に纏い、カメラに向かってバッチリと決めポーズを取った。
「さぁ、悪いスライムさん! 視聴者のみんなにその散り様を晒して、私の同接(同時接続者数)の養分になりなさーい!」
キュララが天に掲げた両手から、圧倒的な光の神気が集束していく。
「いくよっ! キュララちゃん特製・極太レーザー……『ホーリー・スプラッシュ』!!」
ズバァァァァァァァァァァァンッ!!
神々しい光の奔流が、更地となった男爵邸の跡地を一直線に削り取りながら、バイオスライムへと直撃した。
本来なら、雑魚魔物の群れを一瞬で蒸発させるほどの威力を持つ光属性の超魔法である。
キュララは完璧なカメラ目線をキープしたまま、勝利を確信してダブルピースを作った。
「ふふん、チョロいチョロいっ☆ これで今日のスパチャランキングも私がトップね!」
「アホめ!!」
だが、砂埃の中から響いたのは、パンツ一丁で高笑いするバルバトス男爵の声だった。
「バイオスライムは、ありとあらゆる魔法と物理攻撃を『吸収』する最強のモンスターだぞ! そんな見掛け倒しのレーザーなど、ヤツのエサに過ぎんわ!」
「……えっ?」
キュララが顔を引きつらせて振り返る。
光の奔流が晴れた後。そこには、ダメージを受けるどころか、キュララの神気をたっぷりと吸収し、一回り以上も巨大に膨れ上がったバイオスライムがブルンブルンと体を揺らしていた。
「な、なんだとぉ!? 私の渾身の映えレーザーが吸収されたぁっ!?」
「ギャハハハハ! さぁ、バイオスライムよ! その天使を捕まえて、ドロドロに溶かしてしまえ!」
ズゴゴゴゴ……!
巨大化したスライムが、不気味な粘液の音を立ててキュララに迫る。
「ヒッ……!? ちょ、ちょっと待って! 鎧が溶けたら配信バン(BAN)されちゃう! キャルル先輩、太郎! 助けてぇぇぇっ!」
さっきまでの余裕はどこへやら、キュララは情けない悲鳴を上げて太郎たちの背後へと逃げ込んだ。
「チッ、世話の焼ける泥棒猫ですわね。私がお賽銭箱型掃除機で吸い込んで――」
「待ってリーザ、ダメだ! あの強酸のスライムを吸い込んだら、機械の内部が溶かされて掃除機が壊れるかもしれない!」
太郎が慌てて制止する。
「あらあら。それなら、私が世界樹の杖で巨大な隕石を召喚して、この一帯の地形ごと消し飛ばして差し上げましょうか?」
「ルナさん! それやったら僕たちも死ぬから! 却下!!」
おっとりと特大の自爆魔法を提案してくるエルフも全力で止める。
「太郎君、私がやるよ!」
キャルルがトンファーを構え、タローマン製の安全靴を鳴らした。
「私のマッハの飛び蹴りなら、吸収される前にあのスライムのコアごと粉砕できるはず!」
「いや、キャルル。物理攻撃も吸収するって言ってる相手に、直接触れるのは危険だ。安全靴は無事でも、飛び散った強酸の粘液で君が火傷でもしたらどうするんだ!」
太郎はキャルルの肩をガシッと掴んで引き止めた。
「た、太郎君……私の体を、そんなに心配してくれてるの……? 嬉しい、すごく嬉しいっ♡ 太郎君のためなら、私、両足が溶けても構わないよ……!」
「構えよ! 頼むから自分の体を大事にしてくれ!」
ヤンデレ姫の重すぎる愛情にツッコミを入れつつ、太郎は迫り来る巨大なスライムを見据え、急速に頭を回転させた。
(物理も魔法も吸収するモンスター。……なら、その『吸収する性質』そのものを逆手にとってやる!)
「スキル、『100円ショップ』!」
太郎はホログラムパネルを展開し、『DIY(日曜大工)』のカテゴリーを猛スピードでスクロールさせた。
あるアイテムを見つけ、ポイント(銅貨数十枚分)を一気に消費する。
「ルナさん! スライムの足元に、魔法で『大量の水』を出してくれ!」
「お水ですね? かしこまりましたわ」
ルナが杖を振ると、空中に魔法陣が展開し、バシャァァァァッ! と大量の清らかな水がスライムの頭上から降り注いだ。
「ハッ! 無駄なことを! 水ごときでバイオスライムが倒せるものか! 全部吸収して、さらに巨大化するだけだ!」
男爵が勝ち誇ったように叫ぶ。
事実、スライムは本能的にその水分を取り込み、体をプルプルと震わせてさらに膨張しようとしていた。
だが、太郎の狙いは水攻めではない。
「そこだ! 吸い込めぇっ!!」
太郎は、100円ショップで大量に召喚した『クラフト用インスタントセメント(砂・砂利配合タイプ)』の袋を次々と破り、スライムの周囲に粉末を豪快にばら撒いた。
100均のDIYコーナーによく置いてある、水を混ぜるだけで簡単にコンクリートが作れる魔法の粉である。
「な、なんだその灰色の粉は!?」
男爵が目を丸くする。
ばら撒かれた大量のセメント粉末は、スライムが取り込んでいた水分、そしてスライム自身の体液と混ざり合い、ズブズブとスライムの体内へと吸収されていった。
「ふははは! どんな粉を撒こうが無駄だ! バイオスライムはあらゆる有機物も無機物も溶かして――」
「溶かせないよ」
太郎は、腕を組みながらニヤリと笑った。
「それはただの物質じゃない。現代科学が生み出した『水和反応』の結晶だ」
「すい……わ……?」
太郎の言葉が終わるか終わらないかのうちに。
「……ピシッ」
バイオスライムの体内から、硬質な音が鳴った。
「ブルル……? ギギギギギギギギッ!?」
巨大なスライムが、突如として動きを止め、激しく苦しみ始めたのだ。
「現代のインスタントセメントはね、水と混ざることで化学反応(水和反応)を起こし、急速に硬化する性質を持っているんだ。スライムが自分の体内に水分ごとセメントを吸収してくれたおかげで……今、あいつの体の中では、セメントと砂利が完璧な比率でガチガチの『コンクリート』になりつつあるのさ!」
「な、なんだとぉぉぉっ!?」
男爵の悲鳴の通りだった。
柔軟だったスライムの体が、下半身から急速に灰色に変色し、石のように硬直していく。
プルプルと揺れていたゼリー状の体は、ものの数十秒で完全にカッチカチのコンクリート塊へと変化し、その場から一ミリも動けなくなってしまった。
かろうじて固まらなかった目玉の部分だけが、「どうしてこうなったの?」と言わんばかりにキョロキョロと動いている。
「魔法の吸収も、物理攻撃の無効化も、体が流体だからこそできる芸当だ。個体の『ただの石ころ(コンクリート)』になっちまえば、ただの的だろ?」
太郎が指をパチンと鳴らす。
「そういうことね! 流石は太郎君、愛してるっ♡」
キャルルが満面の笑みを浮かべ、コンクリート化したスライムの正面へと歩み出た。
「ヒッ……!? ま、待て! やめろぉぉぉっ!」
男爵が青ざめて叫ぶが、もう遅い。
「月影流――」
キャルルはダブルトンファーを構え、タローマン製の安全靴で大地を強く踏み締めた。
ウサギの耳が後ろになびき、銀色の鋭い『闘気』がトンファーの先端に極限まで圧縮される。
「破衝撃ぇぇぇっ!!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
キャルルの放った闘気の一撃が、コンクリート塊と化したスライムの中央に直撃。
硬化したスライムは衝撃を吸収することも逃がすこともできず、内部から爆発するように粉々に砕け散った。
飛び散った無数のコンクリートの破片が、更地にガラガラと音を立てて降り注ぐ。
完全なる粉砕。
もはや再生すら不可能な、木っ端微塵のオーバーキルであった。
「……あ、あ、ああ……私の、私の最強のモンスターがぁ……」
バルバトス男爵は、その場に膝から崩れ落ち、絶望のあまり白目を剥いた。
「はーい、みんな見たー? これが悪い貴族の末路だよーっ!」
キュララが、崩れ落ちたパンツ一丁の男爵の顔にドローンカメラを限界まで寄せ、無慈悲に実況を続ける。
「このパンツおじさんの名前は、バルバトス男爵! さぁ、特定班のみんな! こいつの悪事の証拠をルナミス警察に一斉送信しちゃってねっ☆ 明日の朝には、社会的に完全に終わってるはずだから!」
かくして、太郎たちの『魔法コスメの利権』を奪おうと企んだ悪党貴族は、リーザに屋敷と全財産を吸い尽くされ、切り札のモンスターを100均のDIYグッズでコンクリート化されて粉砕され、最後はゴッドチューバーの生配信でデジタルタトゥーを刻まれるという、同情を禁じ得ないほどの完全敗北を喫したのであった。




