EP 3
100均コスメ革命! 異世界のSNS女王と仕掛ける神バズりコラボ配信
「ビジネス……コラボ?」
食後のリビング。豚汁ですっかり満腹になり、ソファでくつろいでいたキュララが、不思議そうに小首を傾げた。
佐藤太郎はコクリと頷き、テーブルの上に『100円ショップ』のスキルで召喚したアイテムを次々と並べていく。
カチャ、カチャ。
並べられたのは、手のひらサイズの可愛らしいプラスチック容器に入った品々。
色鮮やかな多色アイシャドウパレット、発色の良いリップティント、極細のアイライナー、そして『ヒアルロン酸配合』と書かれた化粧水や乳液のボトルだ。
「なんだい、これ? 可愛い小瓶だけど、オモチャみたい……」
「僕の故郷の『化粧品』だよ。これを使って、キュララのゴッドチューブでメイク配信をやってほしいんだ」
キュララは目を丸くしたあと、呆れたように鼻で笑った。
「あー君、異世界の美容事情を舐めないでよね? この世界の高級化粧品は、錬金術師が真珠を砕いたり、希少なスライムの粘液を抽出して作る超高価な魔法具なの。こんなプラスチックの安っぽいオモチャで、私の美貌が引き立つとでも――」
言いかけながら、キュララはアイシャドウパレットの赤いパウダーを指先で軽く撫で、自分の手の甲にスッと引いた。
「…………えっ?」
キュララの言葉が止まった。
手の甲には、ひと塗りで信じられないほど鮮やかで、肌にピタッと密着する美しい『赤』が発色していた。粉飛びもせず、魔法具の化粧品によくある鉱物のザラつきもない。
異世界のアナスタシアにおいて、これほどの微粒子と発色を実現する化粧品など、国宝級のアーティファクトでもあり得ない。現代日本の恐るべき化学力と、100均コスメの企業努力の結晶である。
「な、ななな、何これ!? 発色がヤバい! しかもすっごく肌馴染みがいいし、ラメがキラキラしてて超可愛いっ!」
キュララのインフルエンサーとしての『嗅覚』が、この商品の絶大なポテンシャルを瞬時に嗅ぎ取った。背中の白い羽が、興奮でブルブルと震えている。
「あー君っ! これ、いくらなの!? 金貨何十枚!?」
「銅貨1枚(100円)だよ」
「はぁぁぁぁっ!?」
キュララはひっくり返りそうになった。
「銅貨1枚!? パン一個と同じ値段でこのクオリティ!? あー君、あんたバカなの!? これ帝都の貴族令嬢に売ったら、金貨の雨が降るわよ!」
「だから、その宣伝のために君の配信を使いたいんだ。今日のモデルは……ここに最高の三人がいるからね」
太郎が視線を向けると、キャルル、リーザ、ルナの三人が、「「「え?」」」と顔を見合わせた。
***
数十分後。キュララの配信部屋に、本格的な照明と魔導カメラがセットされた。
『はーいみんな、きゅるるんっ☆ 天使系ゴッドチューバーのキュララだよっ!』
キュララがカメラに向かって完璧なウインクを飛ばすと、空中に浮かぶ半透明のコメント欄が猛烈な勢いで滝のように流れ始めた。
[キュララちゃん待ってた!]
[今日も可愛い! スパチャどーん!]
[ん? 今日は後ろに誰かいる?]
「今日はね、特別企画! キュララちゃんのお部屋に住んでる、超絶美少女のルームメイトたちを紹介しちゃいまーす! そして、私のスポンサー様が遠い異国から仕入れてきた『奇跡の魔法コスメ』で、彼女たちをさらに可愛くプロデュースしちゃうよっ☆」
カメラが切り替わり、すっぴん状態のキャルル、リーザ、ルナの三人が映し出される。
元から規格外の美少女である三人だが、現代のメイク技術が加わればどうなるか。太郎はカメラの死角で腕を組み、ニヤリと笑った。
「まずは、ルナさんから! スキンケアからいくよー!」
キュララが100均の『ヒアルロン酸配合化粧水』をコットンにたっぷり染み込ませ、ルナの白い肌に優しくパッティングしていく。
「まぁ……! ひんやりして、とっても気持ちいいですわ。お肌が、お水をゴクゴク飲んでいるみたい……」
ルナの肌が、瞬く間に内側から発光するような潤いとツヤを帯び始めた。
エルフ特有の神秘的な美しさが、現代の保湿成分によって限界突破し、文字通りの『女神のような透明感』を放つ。
[うおおおおっ!?]
[エルフのお嬢様、お肌ピッカピカじゃん!]
[発光してる!? どんな魔法薬使ったんだよ!]
「次はキャルル先輩! キリッとした目元を、このアイシャドウでさらに魅力的にしちゃうよ!」
キュララの手が魔法のように動き、ブラウンとゴールドのアイシャドウでキャルルの目元に美しいグラデーションを作る。仕上げにマスカラを塗ると、キャルルのウサギ耳に似合う、小悪魔的で魅惑的な瞳が完成した。
「た、太郎君……どうかな? 私、可愛くなった……?」
キャルルがカメラを通り越し、画面外にいる太郎に向かって上目遣いで尋ねる。その頬はほんのりと赤く染まり、ヤンデレ特有の重い愛情が、画面越しにもダダ漏れになっていた。
[ウサギっ娘の破壊力ヤバい!!!]
[俺の心臓が撃ち抜かれた]
[太郎って誰だよ! 俺も太郎になりたい!!]
[キャルルちゃんに蹴られたい!!]
「最後はリーザちゃん! この『イチゴの香りのリップティント』で、アイドルの唇を完成させるよっ☆」
「わぁっ! イチゴの匂いですわ! プロデューサー、これ食べていいんですの!?」
「ダメに決まってるだろ! 舐めるな!」
太郎のツッコミが入りつつ、キュララがリーザの唇に鮮やかな赤のティントを乗せる。
普段は公園で雑草を食べている極貧の地下アイドル人魚が、ぷるんとした艶やかな唇を手に入れた瞬間、誰もが振り返る『トップアイドル』の風格を完全に取り戻したのだ。
「皆様ぁ! 愛のスパチャ、お待ちしておりますわよ♡」
リーザがカメラに向かって投げキッスをすると、コメント欄が完全に崩壊した。
[リーザちゃあああああん!]
[投げ銭止まらん! 口座の全額突っ込むわ!]
[【金貨10枚のスーパーチャット!】]
[【金貨50枚のスーパーチャット!】]
「ほらほらみんな! スパチャも嬉しいけど、今日の本題はこっち!」
キュララが、テーブルに並んだ100均コスメの数々をカメラに見せつけた。
「この『奇跡の魔法コスメ』、なんと今日からキュララちゃんのチャンネル限定で、先行予約販売を受け付けちゃいまーす! 数量限定だから、帝都の女の子たちは今すぐ注文ボタンを押してねっ☆」
その言葉が放たれた瞬間。
キュララの配信管理用モニターから、ピローン! ピローン! という注文確定の通知音が、マシンガンのように鳴り響き始めた。
[買う! 彼女にプレゼントする!]
[いくらだ!? 金貨10枚か!? 買うぞ!]
[私のご主人様(貴族)が全部買い占めろって言ってる!]
凄まじい勢いで跳ね上がっていく注文数と、飛び交う高額の投げ銭。
配信の同接(同時接続者)数は数十万人に達し、ルナミス帝都のネットワーク回線がパンクしかけるほどの『神バズり』現象が巻き起こった。
「…………す、すごい」
カメラの枠外で、太郎は震える手で自身のホログラムパネルを確認した。
今回は『初回のお試し価格』として、一つのコスメを銀貨1枚(1000円相当)で販売設定にした。原価は100P(銅貨1枚)。つまり利益率は驚異の1000%(10倍)である。
それが今、数百、数千という単位で飛ぶように売れていく。
太郎のスキルのポイント残高が、猛烈な勢いで増殖していく。
「大成功ね、太郎」
配信を終え、カメラのスイッチを切ったキュララが、興奮冷めやらぬ顔で太郎に飛びついてきた。
「あんた、ただの料理上手なオカンじゃなかったのね! 最高! これで私も、紹介料でウハウハよ!」
「太郎君……私のお化粧、本当に似合ってる?」
キャルルが太郎の袖をきゅっと掴み、潤んだ瞳で見つめてくる。
「プロデューサー! 今日のスパチャの売り上げで、特上焼肉を食べに行きましょう! ねっ!?」
リーザがヨダレを垂らしながら太郎の腰にすがりつく。
「太郎様。この魔法のお水(化粧水)、世界樹の森の皆にも分けてあげたいですわ」
ルナがツヤツヤの頬を押さえながら微笑む。
「みんな、ありがとう。これで僕たちの帝都での活動資金はバッチリだ」
太郎はほっと息を吐きながら、確かな手応えを感じていた。
剣や魔法を使えなくても、現代の『経済』と『100円ショップの品質』があれば、この異世界で天下を取ることができる。
しかし、急激なバズりは、同時に強大な『目』を引きつけることにもなる。
太郎が仕掛けたこの化粧品革命は、ルナミス帝国はおろか、大陸全土の経済を牛耳る『巨大な影』を動かすことになろうとは、この時の太郎はまだ知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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