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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
【完結後の特別エピソード】

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【その後の話】エドガーの願い①

こちらは本編完結後のエピソードです。

本編を読みたい方はこちらからどうぞ!


↓↓↓

(作品トップ(目次)はこちら)

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心地良い雨の音が響く昼下がり、フェリシアは自室の窓際のテーブルセットに腰掛けていた。


彼女の手元には上質で純白の大きなマントと、銀色の糸のついた刺繍針があり、息を詰めるほど真剣な面持ちで一針一針、想いを籠めながらマントに針を刺していく。


普段は、フェリシアの肩から背中へと、煌めく銀河のように流れている美しい銀髪は、丁寧に頭の上へと纏め上げられ、髪飾りで留められていた。それは、手元を見やすくするために、彼女自身がメイドにお願いして結ってもらった髪型だった。


どれくらいの時間、刺繍に没頭していたのか、フェリシアは聞こえてきた控えめに扉を叩く音で、僅かに視線を上げた。



「フェリシア様、お茶をお持ちいたしました」



その声だけで、扉の向こう側にいる人物が誰なのかを把握したフェリシアは、視線を自らの手元へ戻すと、また針を刺し始める。そして、簡潔に入室の許可を出す。


ワゴンのタイヤが転がる低い音と共に、軽快な靴音、そして食器がぶつかる高く短い音が近づいてくる。



「失礼します。お茶の準備をいたします」



刺繍道具が広がるテーブルの端に、まだ乱雑さの残る手付きでティーセットや焼き菓子の乗った食器を並べる赤髪の少女は、かつて敵同士だったガルヴァス国出身のメルドラだった。


彼女は、かつて捕虜として捕らえられていたが、その戦闘スタイルからは想像もできないほど素直で純粋な性格だったため、クレア前王妃と意気投合したのだった。その結果、今は『戦えるメイド』としてメティスリア城内で働いている。


そんな彼女は、お茶の準備をしながら戦士時代の名残りか、さっとテーブルの上に視線を走らせると刺繍の進み具合を瞬時に把握した。

そして、微笑みながらフェリシアに声をかけた。



「フェリシア様、かなり進みましたね!これなら、遠征前に完成できそうですね!」


「なんとか間に合いそうだけれど、まだまだ気は抜けないわ!──それにしても……まさか、遠征の祈願に刺繍を頼まれるとは思わなかったわ。しかも、無事を願うハンカチではなく、大きなマントの裏地──それも、心臓の位置に「私」の名前を刺繍してほしいだなんて……!!」



フェリシアは、エドガーから刺繍をしてくれと懇願された日のことを思い出して、不服そうな顔をしながらも頬をピンクに染めていた。



──ひと月程前、ガルヴァスの王となったルカから信書が届いた。



『ガルヴァスとメティスリアの国境を跨(また)ぐように建設された城塞都市の運営も安定してきました。


この城塞都市ですが、商人や冒険者が活動する際の拠点としても機能しています。そこで、本格的にこの都市に名前を決めた方が良いのではないかと考えております。


そこで、一月後に城塞都市にて命名式を開催します。つきましては、ジョナサン国王陛下、並びにレナ王妃殿下に出席していただきたいと思っております。


また、命名方法は問いませんので、メティスリア側で名前をご用意していただければ幸いです。


お忙しい中で大変恐縮でございますが、よろしくお願いいたします』



そんな書信を受け取ったジョナサンは、自分たち国王夫妻の護衛であるエドガーを連れ、その足ですぐさまフェリシアの元へ訪れたのであった。



「両国に関わりの深いフェリシアに城塞都市の名前を考えてほしい。それと、ルカからの指名で式典には僕とレナが出席するんだけど、あの辺りにいくまでには魔物も出るからね。エドガーを護衛として連れて行くけど、良いかな?」


「お兄様!私にはエドガーの所有権はありません。したがって、許可を取る必要はないのです!それに、身重のレナに何かあってはいけないので、むしろエドガーにはしっかりと 護衛をしてもらわなくてはなりませんね!」



自室のバルコニーで優雅にティータイムを楽しんでいたフェリシアは、一切の迷いを見せることなく、即座にそういい切る。


男らしい即決をしてみせた自分の妻を、ジョナサンの後ろに控えていたエドガーが、じとりとした目で見つめる。


しかし、その執着の籠もった瞳に気が付いたのは、フェリシアの側で給仕をしていたメルドラだけだった。



(うわ……エドガー様、またあんな嫉妬深い目線を向けてるよ。これは、後で絶対に面倒なことになるなぁ。)



「では、フェリシア。僕はレナの元へ戻るけど……エドガーが君に、何か言いたいことがありそうだから置いていくよ。──あ、メルドラ。僕とレナにもお茶の用意をお願いできるかな?」


「──はい!かしこまりました!」



ジョナサンとメルドラが廊下へ続く扉に向かって歩くのとは反対に、エドガーは大股でバルコニーへと歩き出す。


あっという間にフェリシアの元までやってきたエドガーは、椅子に座る彼女に非難するような瞳を向ける。



「エドガー。何故、そんなに不機嫌そうな顔をしているの?近衛騎士団長として、国王夫妻の護衛を任されるなんて、信頼されている証拠なのよ?」



すぐ横に立っているエドガーを見上げるフェリシアの瞳に、さっと陽射しが入り込み紫水晶が神秘的な輝きを放った。


エドガーは、その瞳に誘われるようにフェリシアの頬に片手を伸ばすと、親指でその頬を優しく撫でる。そして、先ほどまでとは打って変わって、切ない表情で彼女を見下ろす。



「……君は、俺と離れても寂しくないのか?」


「寂しい?どうして?」


「……俺とこうして触れ合えない時間があっても、寂しくはならないのか?」



フェリシアは、さも不思議そうな表情をするとエドガーの方へと向き直り、彼の深い青の瞳をしっかりと見上げ小首を傾げた。


美しい銀髪が肩からサラリと流れ、彼女の胸元へとハラリと落ちる。



「──私は、貴方と身体の距離が離れるより、心の距離が離れる方が寂しいのだけれど……エドガーは、違うの?」



フェリシアの言葉に、まるで胸を直接、鈍器で殴られたような衝撃に見舞われたエドガーは、その反動でガバリと抱き着くと彼女の耳元に薄い唇を寄せた。



「──君の心が、ちゃんと俺だけに向いているかをこうして触れ合うことでも確かめたい。そして、俺がどれだけフェリシアを愛しているかも、その肌で感じてほしいと思っているのは……俺だけだったみたいだな」



低く甘い声で囁くエドガーに、フェリシアのその白磁器のような肌は、瞬時にピンクに染まっていく。



「──ちょ……ちょっと、エドガー!そんな、生々しいこと言わないで!そもそも、そんな言葉でうやむやにして、ただくっつきたいだけだってことは、分かってるわよ!!」



フェリシアは口では抗議しているものの、エドガーの身体を引き剥がそうとしないばかりか、頭をコテンと彼の胸に預ける。



(──なんて……可愛らしいんだ!!こんなに愛らしい妻を置いていけるはずがない!!)



フェリシアの一挙手一投足に、エドガーは心をくすぐられ魅了されていく。



「──君が掌サイズになれば、俺の服に入れてどこへでも連れて行けるのにな」



エドガーがボソリと呟いた一言に、フェリシアは驚愕の表情で上を向く。思ったよりもすぐ目の前にあったエドガーの顔は、男らしいのだがとても美しい。その 美しい顔に浮かんだ甘美な表情のまま深い青の瞳を細める。さらに、それだけで恋に落ちそうな蕩ける微笑みを浮かべながらフェリシアの額に口付けを落とした。



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