呼応する超巨獣
突然、城の西側へと移動を始めたタイタン・ベヒモスを追う形でルカたちも一斉に駆け出す。彼らの左手には、紫色に光る壁が続き城内と城外をきっちりと分け隔てていた。
ルカは、ロイズと共にガイア・ブレイカーで移動しながら、ネロに乗って移動するとレナへと声をかけた。
「魔法障壁が完成したので、ここからは攻撃だけに集中しても良さそうですね!」
「──そうですね。……ロイズ様、先ほどは助けていただきありがとうございます」
レナから感謝の言葉を向けられて、一瞬だけ驚いたように目を見開いたロイズは、すぐにいつもの王族たる堂々とした表情に戻るとレナへと言葉を返した。
「これは、叔父上が……いや、僕たちが引き起こした大災害だ。助けるのは勿論のこと、しっかりと後始末をする。しかし、僕の力だけではあまりにも敵が強大すぎる──どうか、君たちに協力してもらいたい!」
「──ロイズ!お前、随分とまともな考え方になったようだな!素直な子どもは嫌いじゃないぜ!」
ネロがわざと嫌味を言うが、ルカの位置から見えるその顔は嬉しそうに笑っているように見えた。
そのまま西へ移動していると、前方からこちらへ近付いてくる人影を見つけた。
煌めく黄金の髪を揺らして駆けるエドガーと、赤い髪を靡かせながら跳ぶように駆けるメルドラだった。
「みんな!!どうしてこっちへ来ているの?」
白馬に乗って夜空を駆けながら銀髪を輝かせるフェリシアが叫ぶ。その後ろには、白銀の髪をサラサラと風に揺られているジョナサンがいた。
「タイタン・ベヒモスが急に移動を始めたので、追いかけていたところです」
──グゲェェェェェェェ!!
レナが状況を伝えている横の森から、スライム・イーターが飛び出してきた──が、後から走ってきたヴィンセントが一太刀で斬り捨てた。彼は、剣についた魔物の血を軽く剣を振って払うと、白馬へと目を向ける。
「フェリシア様──と、ジョナサン殿下!?」
度肝を抜かれたヴィンセントは声を裏返して叫ぶ。その声に、後からドスドスッと鈍い足音を立ててやってきたガレスも、ジョナサンの姿を見つけて男泣きを始めた。
「うおーーーん!!殿下ーーーご無事だったんですね!!陛下と王妃殿下はご存知なのですか!?」
「ガレス!騙してしまい悪かったね。父様たちには、まだ伝えていないんだ──早くこの戦いを終わらせて、二人の喜ぶ顔が見たいよ」
ジョナサンが朗らかな笑顔を向けただけだったが、周囲が明るくなった気がする。
「感動の再会はそこまでにして、早く作戦を立てた方が良いんじゃないか?」
いつの間にか追いついていたラシードが、森の方向を見据えたまま冷静に続ける。
「──俺は、手数と攻撃範囲が広いが、攻撃力で言うとそこまで高くないからな。森の中の魔物狩りの方が役に立てると思う。ガレスのおっちゃんは、攻撃力と防御力は申し分ないが、機動力に劣るから森の防衛向きだよな。ヴィンセント副団長は、接近戦が得意だから大物より小物向きだ」
その場の全員が、短期間でここまで仲間の戦闘能力を把握しているラシードの分析力に一目置き、彼の提案に賛成する。
「では、我々はこの北側の城壁沿いを三分割して、それぞれの持ち場を守るようにしよう」
「よし!早速、持ち場へ行くぞ!」
森の防衛担当が決まったその時、東の空が急に明るくなる。全員が振り返ると、城の見張り台から巨大な炎の塊が、タイタン・ベヒモスへと真っ直ぐに飛んでいくところだった。
その炎はとんでもない質量を孕んでおり、直撃した超巨獣はバランスを崩し横倒しになるほどだった。
「──東の見張り台からは、陛下が援護してくれるようだな!」
ガレスは更にやる気に満ちた表情をして、エドガーへと近づく。そして、逞しい腕でギュウッと抱き締めると「必ず生きて、また会おう!」と声をかける。そして、ガレス、ラシード、ヴィンセントの三人は、それぞれの持ち場へと駆け出していった。
それを見送ったジョナサンが声を上げた。
「──僕は西の見張り台へ行くよ。僕は遠距離攻撃の方が得意なんだ。それに、剣が折れてしまったから接近戦では役に立てない」
「私は白馬さんと一緒に空から援護するわ。お兄様、西の見張り台まで連れて行くわ!」
フェリシアとジョナサンは白馬の背に乗り、西の見張り台を目指して夜空へ駆け上がっていった。
ルカは、ガイア・ブレイカーから地面へ降り立つとエドガーへと歩み寄る。
「エドガー様!私を一緒に連れて行ってください!ガイア・ブレイカーは、賢い魔物なので自分で考えて行動させます!」
「よし。ルカ、一緒に行こう!」
「ありがとうございます!黒馬さん、みんなの援護をお願いします!」
──ヒヒーーーーン!!
黒馬は鼻息荒く嘶くと、一気に森の中へと駆け込んでいく。森の中からは、次々と鈍い音や魔物の絶叫が響き黒馬が暴れているのが伝わってくる。その様子を見ていた、メルドラが少し緊張した様子で静かにロイズへと近づく。
「──ロ、ロイズ様!あたしは、接近戦が得意だから前線で戦うわ!」
メルドラは、緊張のあまり拳を握り締めすぎて指先が白くなっていた。それに気がついたロイズは、彼女の肩にポンと手を乗せる。
「好きに暴れて来い……でも、無茶はするなよ?」
ロイズの言葉に、メルドラの瞳は瞬時に潤んでいく。少女はポロポロと涙を流しながら、しかし満面の笑みを浮かべた。
「──うん!行ってくる!」
メルドラが森の中へ駆け出して行った直後、エドガーとルカがロイズへと声をかけた。
「──お前はどうするんだ?」
「兄上、一緒に行きましょう!」
ロイズは二人にまっすぐ視線を向けると、険しい表情で絞り出すように言った。
「──叔父上は、死んでいないだろ?」
その発言に反応するように、激しい地響きが起こり、その場にいる全員が視線を上げる。彼らの視線の先、鬱蒼とした森の中を、背の高い木々をメキメキと音を立てて薙ぎ倒しながら進むタイタン・ベヒモスの姿が見えた。エドガーは、それを見ながら状況を簡潔に説明する。
「──あぁ、グレゴールの体内はメルドラの炎で焼き尽くされたはずだ。そこで、タイタン・ベヒモスがこちらへ移動してくるのが見えて、皆で慌てて避難したんだ。あそこに留まっていては、我々が踏み潰されて──」
そこまで言ったところでエドガーは、何かに気がついたように焦った表情を浮かべる。それを見た、ロイズは静かに頷いた。
「──叔父上の身体には、膨大な魔力の籠もった魔晶石が入ったまま。タイタン・ベヒモスは──それを取り込むつもりかもしれない」
「だとしたら、まずいです!あの超巨獣がグレゴールの魔力まで取り込んでしまったら──!」
ルカが慌てる横で、レナとネロが素早く動いた。
「──グレゴール様の元へ先に行きます!」
レナはネロに飛び乗ると、ロイズの影の中へと滑り込んで消えた。それを見届けた三人も即座にグレゴールの元へと全速力で駆け出した。
西の見張り台へ到着したジョナサンは、エドガーたちが森の中ではなく魔法障壁に沿って西へ駆けるのを不思議そうに見下ろしていた。
森の中を闊歩するタイタン・ベヒモスの足元では、轟炎が炸裂する度にパッと閃光が走っている──メルドラがすでに単身で戦闘を開始しているようだった。
(あの少女だけでは、超巨獣を倒すことは不可能──エドガーたちは何をしているんだ!?)
焦燥感に駆られたジョナサンが、彼らの向かう先を辿る。グレゴールが未だに白い煙を上げて倒れているが、彼の胸に埋まっている魔晶石が何かを呼ぶように激しく明滅しているのに気づいた。
(あの魔晶石が、タイタン・ベヒモスを呼んでいるのか!?)
その時、上空で激しい閃光が起こると同時に轟音が響き渡った。
メルドラの元へと駆けつけたフェリシアが、特大の雷魔法をタイタン・ベヒモスに直撃させたようだった。それに続くように、ガイア・ブレイカーが作り出した大きな岩の塊が、タイタン・ベヒモスに向かって無数に飛んでいくのが見える。
──ゴォォォォォォォ!!
次の瞬間、巨石の後ろから飛んできた轟炎が巨石にぶち当たる。その衝突の推進力を得た巨石は、さらに轟炎に包まれ隕石のようになりタイタン・ベヒモスへと突っ込んでいった。
──ズゴォォォォォォォン!!
バランスを崩しかけた超巨獣を畳み掛けるように、ジョナサンが魔法を発動する。
「ラジアル・メテオ!!」
タイタン・ベヒモスの真上から流星群が降り注ぎ、ついに超巨獣を地面へと押し付けることに成功した。
(──これで、少しは時間が稼げる!)
ジョナサンがもう一度、グレゴールへと視線を向けるとすでにレナとネロが到着しており、彼の身体の魔晶石へと攻撃を開始していた。




