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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第6章 王弟との戦い

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北東の戦闘


──カンカンカンッ



魔法障壁が発動する合図の鐘が澄み切った夜空に響き渡る。それと同時に、城の最頂部から紫色の薄いベールが静かにゆっくりと下りてきた。


城へ向かって突進を繰り返してくる異形の魔物を、猛烈な勢いで弾き飛ばし続けるガレスは、なかなか森の外へ出てこないゼノとヴィンセントに痺れを切らしていた。



(──陛下たちは、何をやっているんだ!?)



剣を振るう手を緩めず、チラリと視線を向けた先にいるゼノとヴィンセントは、自分たちの足元に向けて必死に剣を振るっていた。


ガレスが目を凝らすと下草が意思を持ったかのように蠢き、二人が乗る馬の脚や身体に巻き付いていた。



「──ゼノ様!!このままでは、埒が明きません!馬を捨てて森を出ましょう!」



ヴィンセントは、自分が乗る馬を傷つけないように、しかし力をこめて剣を振るう。すぐ近くにいるゼノもまた同じく剣を振るい、馬が下草に飲み込まれないように守っていた。



「ダメだ!馬から降りたとて、森から出る前に草に巻き付かれてしまうぞ!」



猛烈な勢いで絡み付く下草に圧倒され、動けずただ剣を振るうしかできない二人の足元を、小さな斬撃が幾つも通り抜けていった。その斬撃は、馬の脚の間にも通り抜けていくが決して馬の脚には触れず、下草だけを切り離していく。



「──大丈夫ですか!?そのまま動かないでください!もう一度、斬撃を飛ばします!」



城の外周を見回っていたポルト村の戦士ラシードが、自分の小隊を引き連れてやってきたところだった。彼はガレスが剣圧で森の中へと異様な雰囲気の人間たちを吹き飛ばす光景を横目に、もう一度、森の中へ斬撃を飛ばす。



(今日は満月だったはずだが、雲が出てきたのか?)



視界がやけに暗いことに気が付いたラシードは、空を見上げた。その視線の先に、視界に入り切らないほど巨大な魔物が存在していることを知り、驚愕する。



「──なんだ、コイツは!!」



タイタン・ベヒモスは、自分の周りにある木々を薙ぎ払うように黒い岩石の腕を振り回している。その腕が木に激しく衝突する度に、漆黒の皮膚が剥がれ落ち、破片が隕石のように落下してきていた。


しかし、ラシードが動きを止めたのはほんの一瞬だけで、次の瞬間にはまた素早く森の中へと斬撃を飛ばしていた。



「兵士たちは、城へ戻れ!!魔法障壁が下り切る前に、万が一にもあの異様な人間が城へ入り込まないよう防衛に努めろ!」



──ザシュッ ザシュッ ザシュッ



ラシードが何度目かに飛ばした斬撃でついに、ゼノとヴィンセントは下草の呪縛から解き放たれ、森の外へと駆け出してきた。



「陛下!!早く魔法障壁の中へ──!」



ガレスが叫び声をあげた瞬間、タイタン・ベヒモスの腕から剥がれ落ちた漆黒の塊が、ゼノの背後から猛烈な勢いで飛んできていた。



「ゼノ様!!後ろです──!!」



ヴィンセントが慌てて叫び魔法を詠唱するが、間に合いそうにない。馬上で振り返ったゼノもまた、魔法を詠唱しようと腕を伸ばすが、間に合わないと思ったのか馬を反転させると、その場に立ち止まる。


ゼノを含めその場にいた誰もが、直撃すると思い覚悟を決めた──刹那、ゼノの騎馬の足元の影からレナとネロが飛び出してきた。



「ネロ!」

「まかせろ!」


──ブワァッッッ!!



ネロの身体から深淵の闇が一気に広がったかと思うと、目の前にあったはずの漆黒の巨石が吸い込まれていく。そして、牛一頭ほどはあった巨石は、塵すら残さず跡形もなく消え去った。



「──レナ、ネロ……助かった。感謝するぞ。」


「とんでもありません!とにかく、陛下は中へ!」



レナは陛下を見送ると、森へと向き直る。その横には鋭い牙を剥き出しにして唸るネロがピタリと寄り添っている。



「嫌な気配で溢れ返ってるぜ!」


「そのようですね」



森の中のいたる場所から、ガサガサと不穏な音が絶え間なく聞こえてくる。レナの横へやってきたラシードも、サーベルを構えて警戒をしている。



「この森の中にいる魔物やら、不気味な人間やら……あと、あのバカでかい奴も倒すんだろ?」


「そうですね……我々だけで、どこまでやれるのか分かりませんが」



レナとラシードは、途方もない戦いになることを想定して苦笑いをする。ゼノを魔法障壁の範囲内へ送り届けたヴィンセントも、二人の側へ駆け寄る。すると、魔法障壁の範囲のギリギリ外側に立っているガレスが叫んだ。



「──お前ら!!森の中での戦闘は視界も足場も悪い!森から距離を取って、敵を待ち構えるんだ!」



──ガザッ!!

「おきゃきゃきゃ……くぐぐぐ……さまがぁぁぁぁ!!」



木の上から驚異的な跳躍をして、ガレスの方へと飛びかかってくる異形の影が近づく。しかし、瞬時にその影を捉えたガレスは、大剣を振りかぶると思い切り振り下ろした。



──ズゴォォォォォン!!



大剣に絡め取られたまま地面へと叩き付けられたのは、ガルヴァスの使用人の服を着た女の異形だった。地面へとぶち当たってもその剣圧の勢いは止まらず、ボコォン!と豪快な音を立てて地面が抉れる。と同時に、異形の体内で何かが砕ける音が響いたが、動きを止める気配もなく叫び声を上げていた。



「ももももうう……しししわけけけけ……ござざざざさいままま……せぇぇぇん!!!」


「──安らかに眠るんだ!」



ガレスは、軽々と剣を地面から引き抜くと、無駄のない動きで女の異形の心臓へと振り下ろした。



──グチャァァァァァンッッッ!!



ガレスの大剣によって押し潰されるようにして、心臓を破壊された女の異形は目を見開いたままピクリとも動かなくなった。

まだあどけなさの残る少女のような顔立ちに、その場にいた全員が悲痛な面持ちで見つめる。


その時、空から炎が降り注ぎ抉れた地面の中心で横たわっている女の異形を包み込んだ。その炎はあっという間に異形の身体を燃え尽くす。そして、ピンクの炎を纏ったまま舞い上がる灰は、まるで桜吹雪のように見えた。



「レナ!ガレス様!!」



空から月の光を背負ったまま白馬に乗ったフェリシアが舞い降りてくる。その後ろからはガイア・ブレイカーが自ら大地の足場を迫り上げながら猛烈な勢いで駆け降りてきた。



「みんな聞いて!グレゴールの狙いは、メティスリアを乗っ取ることよ!森の中の魔物たちも、彼が呼び寄せたの!一匹残らず、討伐しなくてはこの国に平穏は訪れないわ!」



フェリシアの発言を聞いたレナたちは、覚悟を決めたように頷くと森から距離を取ってそれぞれが武器を構える。



「フェリシア様!この戦いが終わったら、うちのバカ息子との婚約をやり直してくださいね!」



ガレスがフェリシアに向けて片目を瞑って見せると、彼女はそれを見て美しく微笑んだ。



「──そうね!ガレス様、心配をかけてごめんなさい!私も、全力で戦うからガレス様も力を貸してください!」



フェリシアはそう言うと、また空へと駆け上がり西の方へと飛び去っていった。それを追いかけるように木から大ジャンプをした異形の男に、ラシードが斬撃を繰り出す。空中で撃ち落とされた異形は、標的をラシードに変更したようで、地面に着地すると四つん這いになり猛烈な勢いで突進してきた。


ラシードの前に立ちはだかったヴィンセントが、真っ直ぐに突き出した剣を右に避けた異形だったが、ヴィンセントは異形の動きを即座に追いかける。素早く剣を持ち替えると、右に剣を振り斬撃を飛ばした。



──バシュッ!

「いいいいい攻撃ぃぃぃぃだなななな!!」



ヴィンセントの斬撃を食らった異形は、森の中へと身を隠そうとして跳躍する。



「──跳躍なら、俺も得意だ!!」



異形のさらに上へと跳躍したネロは、異形の背中へと前脚を着くと一気に力をこめて地面へと押し出した。



──ズドォォォォーーン!!



猛烈な勢いで墜落した異形の男は、そのままネロの巨体で地面へと押さえつけられる──そして、ネロはそのまま鋭い爪を剥き出したかと思うと、異形の胸の部分を抉り抜いた。



──グシャァァァァ!!



血が飛び散り異形の身体から心臓が飛び出て、地面へと転がる。しかし、その鼓動は止まらず不気味に動き続けていた。



「──本当に破壊しないとダメなようだな!!」



レナが静かに近寄るとレイピアを心臓へと深く突き立てた。それに連動するように、ネロに押さえつけられたまま異形の身体がビクリと跳ねた。



「魔晶石は──!?」



ラシードが魔晶石を探そうとした瞬間、頭上が一段と暗くなる。タイタン・ベヒモスの開いた掌がまさに振り下ろされようとしていることに気が付いた、ルカとロイズが同時に魔法を発動した。



「「ヴェント・ソウラム!!」」



レナ、ネロ、ヴィンセント、ラシードは、黒髪の兄弟が作り出したぶ厚い空気の層に押し出されるようにして、タイタン・ベヒモスの掌の影の下から転がり出た。



──ドゴォォォォォン!!



先ほどまで四人がいた場所が、超巨獣の掌によって押し潰されていた。異形がいた地面は激しく抉れ、その中心には血溜まりだけが残されていたのだった。



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