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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第6章 王弟との戦い

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奮い立つ心


「──クレア様!こちらにいらっしゃいましたか!」



黄昏の塔の最上階へと駆けてきたレナは、探していた人物の姿を見付けて安堵の表情を浮かべる。次に部屋の中へと視線を走らせ、捕虜の少女がいないことに気が付き、一瞬で険しい表情へと変えた。



「……レナ、メルドラを逃がしたのは私よ。でも、大丈夫。あの子は自分の使命を果たしたら必ず戻ってくるわ」



クレアはメルドラが飛び出していった窓から離れると、扉へ向かい歩き始めた。そして、ふと思い出したように窓を振り返ると、彼女は静かに詠唱を開始した。



「アポカタス・タシス」



発動の言葉と共に、元々、窓だった場所が光に包まれる。次の瞬間には、砕け散った窓硝子も、溶け落ちた鉄格子も時間が巻き戻ったかのように全てが元通りになっていた。驚きのあまり声も上げられないレナを見たクレアは、短く息を吐くと、わざとおどけた表情を浮かべる。



「──レナに見せるのは初めてだったかしら?私が唯一、使えるのは「修復魔法」よ。ゼノがすぐに何でも壊してしまうから……この魔法のお陰で、この国の支出はかなり抑えられているのよ?感謝してもらわなくてはね」


「その魔法は、習得するのは簡単でも『使用するたびに全身に激痛が走り、どんなに屈強な戦士でも耐えられないほどだ』と聞いたことがあります」



クレアは、自分を心配するレナの表情に、ほんの少しだけ考えてから口を開く。



「そうね。私は、ゼノやレナ、兵士たちのように、前線へ出て戦い傷を負うことも、フェリシアやアンナのように婚姻で国を護ることもできない──痛みに耐えるだけで、元通りに修復ができるのよ?体を張って本当に傷を負う貴女たちとは比べものにならないくらい、簡単で安全なことだわ」



レナがクレアの覚悟に何も言えずにいると、窓際に置かれた椅子の影の中からネロが飛び出してきた。



「──おっと!クレアもいたのか。ガルヴァスでも、こっちと同じようなことがあったらしいぜ。隣国の王弟は、とんでもない奴だな」


「王弟というと、グレゴール様がこの惨劇を引き起こしたということなのですか?まさか──8年前の大災害も彼の仕業──!?」



北の森に突如として現れた大量の魔物、メティスリアには生息していないタイタン・ベヒモスの出現、そして、第一王子ジョナサンの毒殺からフェリシアの誘拐──全ての点と点が線になって一つの事実へと繋がる。そのことに気が付いたクレアは、焦った様子でレナとネロへと懇願した。



「グレゴールは、この国を乗っ取ろうとしているんだわ!ゼノが危ない!レナ、この城のことは私に任せて、早くゼノを──私には彼を救い出せないから……お願い!!私は、魔法障壁を起動させに行きます!」


「かしこまりました!必ず、ゼノ様をお守りします!」



レナが完璧な礼をする横では、ネロがガルヴァスでの出来事をクレアへと手短に報告する。



「ガルヴァスから、フェリシアとルカもこっちへ向かってる!あと第一皇子も王弟を討ちに来るぜ!アンナは、ガルヴァスの護りが手薄になるからと、自分から残る選択をしていたぞ」


「……アンナはガルヴァスへと嫁ぐ身。自分で決めたのなら最後までしっかりとやり遂げてくれるはずよ!二人とも、くれぐれも気を付けるのよ!」



クレアは、二人の無事を祈願するとパタパタと足音を立て階段を駆け下りていった。その音が遠ざかる前に、レナはネロの背へと飛び乗る。



「──ネロ!行きましょう!」


「ちょっと飛ばすぞ!振り落とされるなよ!」



ネロは、その巨体からは想像もできないような俊敏な動きと身軽さでふわりと跳躍すると、レナを背中に乗せたまま椅子の影に飛び込んでいった。



──ズドォォォォーーン

──ドガァァァァーーン



タイタン・ベヒモスが、攻撃をしているのか、ただ歩いているだけなのか分からないが、一定の間隔で凄まじい地響きと轟音が鳴っている。エドガーは、木の陰に座り込んだまま完全に恐怖に飲まれ冷や汗も、身体の震えも止まらなくなっていた。



「はぁ、はぁ、はぁ……くそ!こんなところで、立ち止まっている暇はないんだ!!」



エドガーは、剣を抜くと震えでうまく動かない自分の太ももへと剣先を近付ける。エドガーが剣に力を入れようとした刹那──彼の目の前は突然、一瞬で赤に染まった。



「──執着男!!こんな所で何やってんのよ!?」


「……メルドラ?何故、ここに?」



メルドラは、驚いた顔をしているエドガーが手にした剣先が、彼の太ももに向けて垂直に添えられているのを見ると、瞬時に剣を蹴り飛ばした。



──ガランガランッ!



剣は鈍い音を立てて、エドガーの横に転がる。メルドラは眉間にしわを寄せると、吐き捨てるようにエドガーに尋ねる。



「まさかとは思うけど、この状況にビビって動けなくなってるとかじゃないわよね?」


「──まさにその通りだ」



──グゲェェェェェェェ!



剣が転がる音で二人の存在に気が付いたスライム・イーターが、茂みの奥から凄まじい勢いで突っ込んでくる。メルドラは、それに素早く反応すると軽く腰を落とし轟炎を纏った拳を構える。そして、飛び込んできた魔物の横っ面を思い切り殴りつけた。



──バゴォォォォン!!



メルドラに殴り飛ばされ、近くの木の幹へとぶち当たった魔物は、ズルリと地面へ落ちていく。スライム・イーターを追いかけるように飛び込んだ少女は、魔物が完全に地面へと落ちる前にその腹部へと連撃を叩き込む。



「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!」



メルドラは、最後の一撃を叩き込むと同時に、轟炎を最大出力にする。スライム・イーターの腹部を中心に、燃え尽きサラサラとした灰へと変化していく。最後に残った核をメルドラは握り締めると、思い切り地面へと叩き付け粉々に砕く。


飛び散った核の欠片が、少女の轟炎を反射して火花のようにチカチカと輝く中でメルドラは、エドガーを力強い眼差しで射抜く。



「立ちなさい!あんたは、メティスリアの黄金の騎士──エドガー・クレイなんでしょ!!そんなんで、愛するものを護りきれるわけ!?」


「──っ!!」



勇ましく仁王立ちをしてこちらを強い視線で射抜くメルドラの姿が、エドガーにはこの世で一番愛おしい女性の面影と重なって見えた。



「──そうだな。私は、8年前の何もできなかった子どもだったあの日より、確実に強くなった。自分の力を信じ抜く勇気が足りなかった──メルドラ、ありがとう!」


「ふん!そんな強気なことを言って、途中で死んだら許さないからね!!」


「──死なないさ。フェリシアをこの腕に抱き締めるまでは──絶対に!」



エドガーは、先ほどまで震えていたのが嘘のように軽くなった自分の身体に驚きながらも立ち上がると、傍らに転がる剣を拾い上げる。そして、視界に広がる魔物の群れに向けて剣技を放った。



「天烈一閃!!」


「イケメンは、いつだって自信満々で輝いていなくちゃ!──クレプス・クラスト!!」



メルドラが地面を殴りつけるのと同時に、地面を這うような轟炎の濁流が生み出される。その炎の濁流は、エドガーが放った猛烈な勢いで大気を切り裂く一直線の斬撃を追うように突き進む。


二人の攻撃が駆け抜けた場所にいた魔物は、切り裂かれ跡形もなく燃え尽きていた。



その頃、メティスリア城の目と鼻の先までやって来たグレゴールは、ニヤリと笑うと茶色の魔力が籠められた魔晶石を握りしめていた。



「──よし、メティスリア城が見えて来たぞ。この場所で、タイタン・ベヒモスと私の魔力を混ぜ合わせた魔物を生み出すことにしよう」



グレゴールは大事に握りしめている茶色の魔晶石へと、慎重に自分の魔力を籠めていく。



──シュウウウウウ



茶色と朱色の魔力が混ざり合い、レンガ色になった魔晶石は明滅を始める。グレゴールは、手近にいる生き物を探して辺りを見回していると、瀕死の状態で地面を這いながら逃げようとしているガルヴァスの兵士を見つけた。



(──あそこにガルヴァスの兵士がいるじゃないか!)



グレゴールは、大股で自国の兵士へと近づくと不気味な笑顔を浮かべて彼を見下ろしながら、冷徹な命令を下した。



「おい、君(きみ)。私の野望のために命を差し出せ」



その直後、メティスリア城の篝火(かがりび)がギリギリ届かない深淵の森の中、兵士の恐怖の絶叫が木霊した。


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