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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第5章 ガルヴァス

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中庭

ゲイルとの戦闘を終えた中庭へ、滑り込むようにして水龍が現れる。そして、その後からは生き残った兵士や使用人たちが疲れ切った様子で出てきた。


水龍の中にいるアリシアは、ルカを見付けるとその近くまで水龍を移動させる。そして、水龍の中にいる怪我人を、中庭の柔らかい草の上に横たわるアンナの側へと寝かせた。


怪我人たちは、噛み跡や切り裂かれた傷が深く一刻を争う状況なのは一目で理解できた。ルカは立ち上がると怪我人へと近寄る。そのすぐ横へアリシアがやってきて、申し訳なさそうな表情でルカに懇願してきた。



「──あなたの力は、隠し通さなければならない力だということは、分かっているわ……今まで、あなたの存在もひた隠しにしてきた。でも、今回だけは力を貸してほしいの」


「はい。勿論です。アリシア様」



迷うこともなく至極当然のように承諾をするルカを見てアリシアは、居た堪れない気持ちになり声を詰まらせた。



「──本当にごめんなさい。都合よく、あなたの力を利用することになってしまって……」



アリシアは、ピンクの美しい瞳に涙をいっぱい溜めてルカへ謝罪する。ルカは、柔らかく微笑むと首を振った。


「この城で母上と私が生きてこられたのは、アリシア様が必死に守ってくれたからです。そのご恩を返せるなら、僕を都合よく利用してください──むしろ、私は不貞の子ですから……そんな私を一人の皇族として扱う必要はなかったはずです」


「──そんなことないわ!……そんな悲しいことを言わないで、お願いよ……」



ルカの言葉に顔を覆って肩を震わせるアリシアから目を逸らすと、ルカは大きく息を吐いた。そして、両手を怪我人たちの方へとかざし、静かに魔法を詠唱する。



「ブリーズ・ヒール!」



ルカを中心にして巻き起こった緑の柔らかい風は、怪我人だけでなく中庭全体を優しく包み込んでいく。緑の風が吹き抜けた後には、傷跡一つなく癒された人々の驚きと感謝の声が響いた。それを見届けたロイズはルカへと近寄り、きつく抱擁を交わす。



「ルカ、ありがとう。僕が守りたいものを、助けてくれて……お前は誰が何と言おうと僕のたった一人の弟だ」


「──ありがとうございます。私にとっても兄上はただ一人……貴方だけです!」



それから、ロイズはフェリシアの側から離れないエドガーへと近付く。エドガーと正面から向き合ったロイズは、深々と頭を下げた。



「──申し訳なかった。君が言ったように僕は、自分のことしか考えていなかった。その為にフェリシア様に魅了魔法をかけたんだ……だが、それは間違っていた──本当に申し訳ない」


「魅了魔法か。行動せずにはいられないフェリシアが大人しいなんて、おかしいと思ったんだ」



エドガーが、人形のようにただ佇むだけのフェリシアを見て愛おしそうにふっと微笑む。その愛に溢れたエドガーの眼差しを見たロイズは、何も言わずフェリシアの目の前へと立つと、美しい紫水晶の瞳を凝視する。



(魅了魔法を使っても、心まで手に入るわけではないのにな……この美しい瞳の中に、僕を映す場所なんて初めからなかったのに──どこで間違ってしまったんだろうか)


「──フェリシア様、僕の言うことは聞かなくて良いですよ。貴女はあなたの思うままに」



ロイズの言葉の後、フェリシアはゆっくりと瞬き一つした──かと思うと、ガシッとロイズの肩を掴み激しく揺さぶり始めた。



「ロイズ様!!私の魔力が必要ならいつでも言ってください!!アンナが嫁ぐ国の方たちは、もう私の家族なのですから!!」


「──うわっ!!」



ロイズは、瞳を丸くして驚いていたが優しく微笑むとその場で片膝をついた。そして、優雅な所作でフェリシアの右手を取ると指先へと口付けた。



「──フェリシア様のお心遣い大変感謝いたします。そのお言葉だけでも、僕は幸せです」


「ロイズ様!これから、アンナと一緒にもっともっと幸せにならなくてはダメですからね!」



ロイズに向けていたずらに笑ったフェリシアは、横に立つエドガーへと視線を向ける。照れながら、それでも真正面から瞳を覗き込めることを喜びながらそっと手を伸ばす。エドガーも熱の籠もった瞳でフェリシアへと静かに手を伸ばした。



──バチバチッ



二人の手が触れ合うまで、ほんの数ミリのところで、フェリシアの指先から紫の静電気が走った。エドガーは、弾かれた自らの手を見て驚愕の表情を浮かべる。フェリシアは戸惑い、悲しい表情でロイズを振り返った。



「……これは一体、どういうことでしょうか?私がこの城に来てすぐ、アンナとは抱き合えたはずです!」


「僕もフェリシア様がアンナと抱き合えていたから、誓約魔法が切れたのだと思っていたが……内容が違うのか?──叔父上から聞き出さないと本当の誓約が分からない」



ロイズが本気で困惑していると、エドガーが自らの拳を握りしめ額に青筋を立てながら城の入口へ向けて歩き始める。その向かう先を見たガルヴァスの兵士が、慌ててエドガーに声を掛ける。



「中にはまだ、魔物の生き残りがいるかもしれません!単独で飛び込むのは危険です!」


「あぁ……中には、君たちの同僚もいるんだったな。──だが、私は王弟に用がある。何者であろうと私の進む道を阻む者は、切り捨てることになるだろう」



エドガーは、鬼気迫るオーラを醸し出したまま歩き続ける。そこへ、慌てたルカの声が響いた。



「エドガー様!闇雲に、この広い城内を探すよりピンポイントで向かう方が良いと思います!」



ルカは黒い精霊石を握り締め、エドガーへと駆け寄る。エドガーは、ルカを振り返ることなく前だけを見据えたまま言葉を紡ぐ。



「──そんな方法がどこにあると言うのだ?」


「ネロさんに来てもらいましょう!きっと、あっという間に探し出してくれると思います!」



ルカは言うが早いか、握り締めている精霊石を胸に祈りの姿勢を取る。そして、自分の魔力を流しながらネロへと語りかけた。



(──ネロさん!助けてほしいです!すぐ、こちらへ来てください!)



──ピカーーー!



ルカの手の隙間から眩い光が漏れ出す。ルカは精霊石を確認するために握り締めている掌を開く──その瞬間、精霊石の中から黒豹の巨体が踊るように飛び出した。そして、ネロは周りをグルリと見渡してからルカを振り返り、唸るように声を上げた。



「──俺を呼び出すほどの切羽詰まった状況なんだろうな!?メティスリアの北の森に、大量の瀕死の人間が突如として出現したんだぞ!しかも、ギラギラ光る大量の魔晶石と共にな!ここの状況は、それとは比べものにもならない程落ち着いていると思うが、違うか!?」



ネロが憤りを隠さず怒鳴り散らす言葉を聞いたフェリシアが、青い顔で眉根を寄せる。



「──メティスリアの北の森に瀕死の人と魔晶石が!?それは、さっきのゲイルさんのような生物兵器が生み出されてしまうってことなのではないの!?」


「叔父上の仕業だ──ということは、今は転移魔法陣の間にいるはずだ!!エドガー・クレイ!私が案内する、ついて来い!!」



ロイズが駆け出すのを見たエドガーも瞬時に反応し駆け出した。そして、エドガーは走りながらネロへと叫ぶ。



「ネロ!さっき戦った人間は、魔晶石と心臓を破壊すれば完全に機能を停止した!メティスリアにも伝えてくれ!──それと、この騒動の主犯はガルヴァスの王弟グレゴールだ!」


「ったく!俺は伝令係じゃないっての!!早急に伝えたら、また戻ってきてやるよ!」



エドガーが城内へと消えていくのと同時に、ネロもまたルカの足元にある影の中へと飛び込み消えて行った。中庭にいるガルヴァス陣営の全員が、グレゴールが主犯という言葉に固まり、信じられないといった表情で近くにいる者同士、顔を見合わせていた。



「……うぅ……」


「アンナ様!気が付かれましたか!?」



アンナが目を覚ましたことに気が付いたシリルが、彼女の背中に手を添え身体を起こすのを手伝う。


上半身を起こしたアンナは、疲れ果て困惑の表情で座り込む人々、抉れた石畳やガラスの破片の落ちる荒れた中庭の周辺を見た後、その景色の中にこちらを見て泣きそうな顔をしていても恐ろしく美しい姉を見つけた。



「──アンナ!!!!」



フェリシアは、ドレスの裾が捲れ上がるのも気にせずアンナに駆け寄るとギュウッと抱き締める。アンナは苦しそうにしながらも、嬉しそうに笑いながら抱擁を返す。



「お姉様……魅了魔法が解けたのですね──あ!グレゴール様を止めないと!!」



アンナは慌てたように声を上げると、ふらつく身体をフェリシアに支えられながら立ち上がる。



「グレゴール様は研究室で魔晶石を使用して魔物を生み出していました!そして、お姉様に掛けられた誓約魔法は『ロイズ様を信頼していない人』はお姉様に触れられないって言っていました!!──そうだ、あの人が打ち上げた魔力は!?」



アンナが空を見上げると、そこにはもう彼の魔力の塊はなくなっていた。代わりに地上の惨劇など知らないかのように澄んだ夜空には、自らを誇るかのように輝く満月がいるだけだった。



「──アンナ、グレゴール様がその生物兵器をメティスリアへ転送したみたいなの。今は、エドガーとロイズ様が彼を探しに城内へ入って行ったところよ──私たちも戦いましょう!」



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