↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第一章 白銀の哀悼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/92

魔力暴走の記憶④



――フレア・エッジ!!



ゼノは炎を纏った剣でスライム・イーターを薙ぎ払った。身体を包む毒の粘液もろとも焼き切るほどの圧倒的な火力で両断しながら周囲へ指示を飛ばす。



「タイタン・ベヒモスは、スライムイーターを捕食する!!城に興味が向く前に少しでも、ここから引き離すぞ!!」



ゼノは赤々と燃え上がる炎を纏った長剣を馬上から振り下ろし、スライム・イーターを引きつけながら少しずつ森の奥へと移動する。たがいくら百戦錬磨の王といえど、さすがに少しずつ息が上がってきているようだった。



「……陛下!!スライムたちの一部が、森の入り口の方へ移動してしまったため、スライムイーターたちも動き出しています!!」



ガレスも肩で息をしながら、複数のスライム・イーターを相手に激しく大剣を振るっていた。



「城の魔法障壁は展開されている!まずは、森の中にいるスライム・イーターたちがこれ以上、外へ出ていかないよう、奥へ引きつけるのが先決だ!!」



ゼノの判断にガレスは『承知いたしましたぁぁぁ!!』と吠えた。そして、大剣を自らの頭上へ大きく振り上げた。



――グランド・バスターッッ!!



ガレスが振り下ろした大剣から放たれた強烈な剣圧の下敷きになったスライム・イーター達は、反撃の隙すらなく、次々と押し潰され、弾け飛んでいく。



「動ける者は私に続けっ!!今から、魔物誘引魔法を発動する―――っ!!」



――……なんだ?この黒い穴は!?



ゼノが誘引魔法を発動しようと手を空へ掲げた先に、不気味な黒い空間がポッカリと口を開けていた。



「陛下ーーーーっっっ!!!!!!」



ガレスが絶叫しながらゼノの元へ駆け出す。周囲で戦う者達も、その驚愕の声に振り返り、絶句した。


黒い空間の中心に、禍々しい赤い光が集結し、徐々に球形に膨らんでいく。その球が発する激しい明滅により、その黒い空間の正体が月の光を遮る程の巨獣の口内だったと判明する。



――タイタン・ベヒモスがブレスを使うだと!?こいつは、こんな間近で喰らったら、生きてはいられない⋯⋯!!



「プロミネンス・シールド!!!!」



ゼノが魔法障壁を幾重にも重ねて炎の盾を展開すると同時に、タイタン・ベヒモスの巨大な顎から凄まじい威力のブレスが放たれる。


ブレスが放たれた瞬間、あまりの膨大なエネルギーの強さ周囲の視界が真っ白な閃光に塗り潰された。



――キーーーーン⋯⋯ドガァァァァァン!!!!



森全体を揺らすような激しい轟音と地響きに加え、凄まじい突風が吹き荒れた。そこにいる人間だけではなく、スライムやスライム・イーターすらも一瞬で紙切れのように吹き飛ばされていく。



「うっ……!!お父様!?ガレス様!?エドガー様!?」



事の成り行きを固唾を呑んで見守っていたフェリシアは、魔法障壁に何かがバチンッ、バチンッとぶつかる音を聞きながらも、あまりの閃光の強さに目が眩み、まともに周囲をみることができなかった。


やっとフェリシアの視力が戻ってきた時、目の前に広がっていたのは、この世の終わりかと思うほどの絶望だった。



「⋯⋯え⋯⋯」



強固な魔法障壁のすぐ目の前には、折り重なった魔物の死骸と兵士や騎士たちの無残な姿があった。その目は暗く淀み、命の光がまるで灯っていない。


そして、障壁の向こう側ではジワジワと、薄紫色の強固な壁に沿って赤と青の染みが無慈悲に広がっていく。



――嘘でしょ⋯⋯こんなの⋯⋯嘘よっ⋯⋯!!



半狂乱になりながら森の中へ目を向けると、すり鉢状に激しく抉れた大地の中心にゼノの姿があった。ピクリとも動かない王の上に、だらりと腕を下げたまま、まるで盾となるように覆いかぶさっているガレスの姿があった。2人の周囲にも広大な赤い血溜まりが出来上がっていく。



──パチパチッ



フェリシアの絶望に呼応するように、その身体の周りで紫色の小さなスパークが起こり始めた。



――ズドォォォォン!!



フェリシアが激しい地響きの方へと目を向けると、抉れた大地の窪みから、こちらへ向かって前進を始めたタイタン・ベヒモスの姿が見えた。


そして、巨大な魔物と城門の間で僅かに動く物を見付ける。



「……ゴフッ!!」



血を吐き、片膝を突いて地面に座り込み、先ほどスライム・イーターを仕留めた際に、地面へと突き立てた剣に縋ることで、自らの身体を必死に支えているエドガーだった。


エドガーが命がけで地面に縫い留めたはずの魔物は、先ほどの猛烈な突風によって、その口を引き裂かれながら無残に吹き飛ばされたようだった。


辛うじてタイタン・ベヒモスのブレスによる突風の衝撃に耐えたものの、もはやその身体のどこにも指一本動かす力すら残っていないようだった。

少年は力なく頭をガックリと項垂れている。



――ヤダ⋯⋯お願い……やめて……!!



タイタン・ベヒモスが一歩、一歩と城へ近付いてくる。足元にいる魔物や人間など全く見えていない様子で、すべてを踏み潰し進んでくる。


その巨大な足が地を踏み鳴らすたびに、辺りにはメキメキと鎧や兜の潰れる鈍い音や、バキバキと骨の砕け散る悍ましい音が響き渡り、その足元からは鮮血が噴き荒れ、辺りを赤く染めていった。



――バチッ バチバチッ!!



フェリシアの周りを、紫の電光が激しく明滅しながら走り始める。城塞外郭の広場にフェリシアがいることにようやく気が付いた城の使用人たちが、『フェリシア様!』と叫びながら、こちらへ走ってくる音が聞こえた。



「――ダメよっ……こんなの、嫌よっ!!」



フェリシアは魔法障壁を、その小さな拳で内側から激しく叩く!!



「エドガー様!!お願いだから!!そこから逃げて!!」



フェリシアの叫びが届いたのか、エドガーは剣を支えにゆっくりと立ち上がる。しかし、立ち上がることがやっとで剣を地面から引き抜くこともできず、その場で立ちすくむしかできなかった。


エドガーの周りに大きな影が現れる。それは徐々に色を濃くしながら、彼を――そしてフェリシアを容赦のない絶望の闇で包み込んでいく。



――やめてーーーーーっっっ!!!!!!



フェリシアは固く瞳を閉じ、心を埋め尽くした絶望を振り払うかのように叫び声をあげた。


フェリシアの喉が裂けんばかりの絶叫──その瞬間



──バリバリバリィィィィィィィィン!!

── ズガガガガガガガァァァァン!!



王城の誰もが目撃したことのない、神の怒りのような『紫の雷電』が幾筋も、小さなフェリシアの身体から怒濤の濁流となって放たれていく。


展開されていたはずの強固な魔法障壁が、内側からの圧倒的な魔力に耐えきれず、硝子が砕け散るように一瞬で粉砕された。


閃光は夜の闇を白銀の世界へと塗り替え、エドガーの頭上に迫っていたタイタン・ベヒモスの巨体を、凄まじい衝撃波とともに、いとも簡単に貫いた。

それは、山のような巨獣の肉体を塵一つ残さず、完全に消滅させるほどの圧倒的な破壊力だった。



──すべてを消し去る、神聖な紫の雷電。



城内の子ども部屋の窓から、その一部始終を見ていたアンナのその幼い瞳は、興奮で潤み、頬を紅く火照らせていた。アンナは、城塞外郭の広場に力なく倒れ込んでいくフェリシアの姿から、どうしても目を離すことができず、羨望の眼差しを送り続けていた。



「……なんて美しいの、お姉様。──まるで破壊と新生の女神シヴァルティ様みたぁい⋯⋯」



誰もが息を呑んで一言も発することができない中、わずか6歳の純粋無垢なアンナだけは、両手を胸の前でギュウッと重ね合わせていた。



――これが、私の中にあるお姉様の初めての魔力暴走の記憶であり、お姉様の圧倒的ですべての人を陶酔させうる強さと魅力を証明した出来事だった。



「⋯⋯大丈夫ですわよ、お姉様。アンナが必ずお守りしますから。だから、今は安心してゆっくりと身体を休めてくださいね。お姉様が早く元気になりますように」



ベッドサイドの蝋燭の火が燃え尽きるまで、アンナはフェリシアの手を固く握り、姉のその美しい顔を眺め祈り続けるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。