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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第5章 ガルヴァス

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共闘


「──何かしら。外が騒がしい気がするわね」



アリシアは湯浴みを済ませ、侍女に髪の手入れをしてもらいながら、外の騒がしさに気が付き声を上げた。侍女も手を止めて、外の音に聞き耳を立てる。



──ガシャーーーン

──ウワーーーー

──ドォォォォーーーン

──キャーーーー



不穏な音しか聞こえてこないことに恐怖を感じ、震え出す侍女の手を取り、アリシアは部屋の奥へと移動させる。次に急いで寝室の扉に鍵を掛けると、バスルームへ駆け出す。


先程まで自分が使用していたバスタブの水の中へと手を入れると、静かに魔法を詠唱した。



「リヴァイアサン・レイジ」



アリシアの言葉に呼応するように波立ち始めた水面は、やがて大きく盛り上がると大きな龍の形になった。



「リヴァイアサン、私達を守ってほしいの」



アリシアの言葉を理解したのか、龍はバスタブから滑るように出ると、アリシアを透き通る体内へと包み込む。そのまま寝室へと向かうと、今度は水龍の出現に腰を抜かしている侍女のことも体内へと包み込んだ。



「落ち着いて。これは、私の魔法で生み出した水龍よ。息もできるし、様々な危険から身を守ってくれるわ」



水龍の体内で未だに状況を飲み込めず震えている侍女の手を強く握ったアリシアは、優しく語り掛ける。そして、これからどうしようかを考えていると、寝室の扉がノックされた。




──コンコンッ



アリシアは直感で、この扉の向こうにいるのは自分たちを害する可能性があると感じて身構える。



(廊下から不穏な音しか聞こえてこないのに、冷静にノックができるなんておかしいわ)



何も言わずに水龍の中から扉を見守っていると、ドアノブがゆっくりと回される。そして、扉が開かないと分かると、狂ったようにドアノブを激しく回し始める。



──ガチャガチャガチャッ! ドンドンドン!

──バンバンバンッ!! ドォン! ドォン!



次第に扉を叩く音に変わったかと思うと、どうやら体当たりをして扉を破壊しようとしているようだった。


アリシアの侍女は隣で、真っ青な顔をしてガクガクと身体を震わせていた。彼女もまた、透明な水龍の身体の中から、寝室のドアが大きな衝撃音と共に室内側へ歪むのを目の当たりにしていた。



(何も言わずに扉を破ろうとするなんて──確実に、この城の者ではないわね)



──バァァァァン!!!



「アァァアリ……シししぃぃ……シアぁぁぁあ……ささササまぁぁ!!!!」



扉を破壊して入ってきたのは、ゲイルだった。

今はロイズの執事である彼は、アリシアの夫であるアルベリヒにも仕えていた男だったが、今は見る影もなく異形の形に成り果て、ただ「アリシア様」と叫び続けながらこちらへと近付いてくる。



「いやぁぁぁぁぁ!!!!」



侍女はついに恐怖の限界を超えたのか、甲高い叫び声を上げると気絶してしまった。アリシアは、緊張した面持ちで一歩ずつこちらへ近付いてくるゲイルを見つめていた。



(──ゲイル……一体、何が彼をこんな姿に変えてしまったの!?)



アリシアが彼をゲイルだと判断したのは、かろうじて破れず着用したままになっている執事服の胸元に光る、ガルヴァスを象徴する赤い宝石を嵌め込まれた黒竜のブローチがあったからだった。



「アァぁああぁぁ……リシィィィィアーーーしシアさまぁぁァァァァーーーー!!」



最後の距離を一気に詰めるように飛び掛ってきたゲイルを、水龍はその鋭い前足の爪を振り下ろし薙ぎ払う。



──ガシャーーーーーーン!!



水龍によって弾き飛ばされたゲイルは、寝室の窓を突き破る。それでも、アリシアの名前を叫びながら中庭へと落ちていった。



「リヴァイアサン、城の中にいる無事な人を救出したいの」



アリシアの言葉に、素早く動き出した水龍は、静かになった寝室から出ると廊下を滑るように移動していく。無惨な姿で息絶えている使用人や、ゲイルのように同僚に襲い掛かっている兵士、困惑した表情で応戦する者が、廊下や部屋の中にいるのが見える。


そして、何より不気味なのが天井から止め処なく滴り落ちる朱色の雫だった。異形の怪物は、その雫に触れるたびに魔力量が上がり、凄まじい攻撃を繰り出していた。



「命のある者、私の声が届いている者は、この水龍の後ろから来なさい!!中庭へ向かいます!」



アリシアは水龍の中から、よく通る美しい声を張り上げる。その声と水龍の出現に安堵と勝機を感じた者たちは、仲間同士で手を取り助け合いながら異形の怪物の攻撃を防ぎ、少しずつ水龍の周りへと集まり始める。



「怪我の酷い者は、水龍の中へ入りなさい!戦える者は、背後からの攻撃に警戒しながらついてきなさい!!進むべき道は私が切り開きます!!」



圧倒的な統率力を見せるアリシアの率いるガルヴァス城の人々は、壮絶な状況からの脱出を開始した。



──ズドォォォォーーン!!



エドガー達は、突然、中庭に響き渡った衝撃音に驚いて音のした方向に視線を向けた。


地面が窪んだ中央にいる人の形に似た異形の怪物が、ゆっくりと立ち上がる。城の上階から落下したのか、身体中に硝子が突き刺さり、腕はあらぬ方向に曲がっている。そして、執事服の破れた胸元からは魔晶石が見えていた。



「──ゲイルなのか?」



ロイズが呟くと、ゲイルは複数の瞳をギョロギョロと動かした後、一斉にロイズへと視線を定めた。涎が垂れる口元をガクガクと震わせると、咆哮の代わりに意味のない言葉を発する。



「おおおぉォォ……茶ちゃああ……を…おももももォォォぢぢ……じまじだだだだぁぁぁ!!」



ロイズもシリルもルカも、その異常で異様な光景に目を疑い、魔法にかかったかのように動けなくなってしまう。ゲイルは、少しずつスピードを上げながらロイズへと突進していく。



(──ゲイル!!何故こんな姿に──!?)



ロイズは自分の目の前までゲイルが迫ってきても、まだこの現実を受け止めきれないのか、身体が呆けたように動かず、むしろ走ってくるゲイルを受け止めようとするかのように両手を広げていた。



「──何を血迷っているんだ!!」



動きのない世界の中でエドガーだけが風のように流れるように動く。彼は、両手を広げてゲイルを待ち構えるロイズを後ろから思い切り引っ張ると、自らの後方へと投げ飛ばした。


エドガーに弾かれたロイズは、尻もちをつき目の前で抜刀した金髪の男の背中を見上げる。エドガーの深い青の瞳は、ゲイルの胸の魔晶石だけを捉えていたようで、瞬きするよりも速く剣を振り下ろした。



──ズバッ!! バギィィィィィィン!!


 

だった一撃だけで魔晶石を砕いたエドガーは、鋭い瞳をゲイルに向け続ける。そして、フェリシアを背後に庇うように移動すると、中庭にいる全員へと檄を飛ばす。



「城の中に、これと似たような気配を無数に感じる!!各々、戦闘態勢に入れ!!こいつも、まだ活動をやめていないようだ!!」



魔晶石を破壊され仰向けに倒れたはずのゲイルは、手足の関節をボキボキと鈍い音を響かせながら有り得ない方向へ曲げる。鈍い音が止まった彼の身体は、仰向けのまま手足だけを地面へ付いた四つん這いになっていた。


そして、エドガーをギロリと見たゲイルは、耳のすぐ下まで裂けた口をし三日月の形に吊り上げると、その下か鋭い牙が顔を出した。



──がぁぁぁぁぁあああ!!



ゲイルは、もはや言葉にもなっていない咆哮を上げながら、エドガーへと弾丸のように突っ込んでくる。



(──私があの化け物の攻撃を避けると、後ろにいるフェリシアに被害が及んでしまう。真正面から受けるしかない!)



エドガーは、両足をしっかりと地面へ接地させると、剣を握る手に力を籠めた。その時、背後にいたロイズが立ち上がる気配を感じると同時に、魔法の詠唱が聞こえてきた。



「ヴェント・ソウラム!!──フェリシア様の周りに空気の層を作った!時間制限ありだが、こっちは任せろ!」


「──頼んだ!!」



──ガチィィィン!!



ゲイルの牙を剣の腹で受け止めたエドガーは、右足でゲイルを思い切り蹴り上げる。ゲイルの身体が浮き上がったところへ、エドガーはすかさず剣技を叩き込む。



「エア・エッジ!!」



しかし、下から斬り上げた剣はゲイルに当たることはなかった。彼は、人間の身体の構造からは有り得ない俊敏な動きで、剣に軽く手を付き後ろへと回転して避けたのだった。



──ぐぁぁぁぁぁぁああ!!



エドガーから距離を取って地面へと着地したゲイルは、中庭の中にいる三人へと標的を変えたらしく黄金の影が一歩を踏み出すよりも早く、地を這うような恐ろしい速度でそちらへと駆け出す。


意識を失い眠っているアンナを守るように、ルカとシリルが剣を握り立ちはだかる。シリルは、もう動かなくなった大木の影の位置を素早く確認すると、詠唱を始める。



(夜は影が薄くて使えない魔法ですが……グレゴール様が「永遠に降り注ぐ灯り」を作ってくれたお陰で、これが使えます!)



「ダーク・レイ!」



大木の影から細い糸が伸びたかと思うと、ゲイルの身体へ絡み付く。そして、一瞬で強固な網へと形を変えると、ゲイルの身体を締め上げた。


ドサリと地面へ突っ伏したゲイルは、苦しそうに暴れ、鋭い牙で網へと牙を立て、噛み切ろうとしている。その隙を逃さずに駆け出したルカが、一気にゲイルへと距離を詰め剣技を叩き込んだ。



「迅風・ヴォルテクス!!」



ルカが巻き起こした巨大なつむじ風によって上昇気流が生み出され、逃げることも避けることも出来ないゲイルはそのまま上空へと持ち上げられていく。


そして、つむじ風の真下へと走り込んだエドガーが先程よりも強烈な剣技をゲイルに向けて放った。



「天烈一閃!!」



エドガーが放った剣技は、つむじ風の上昇気流に乗り速度を上げながら猛烈な勢いで、ゲイルを目掛けて垂直に突き進んでいく。



──バシュンッッッ!!


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」



エドガーの剣技を防御も出来ず、真正面から受けたゲイルの身体は空中でバラバラになっていく。


その光景をじっと見つめていたロイズは、ゲイルの肉片がグレゴールの魔力と混ざって城へと降り注ぐ前に魔法を放った。



「フレア・バースト!!」



ロイズの放った炎に巻かれたゲイルの肉片は勢いよく燃え上がる。そして、完全に燃え尽きる刹那──その一つ一つがピンク色の炎へと代わり、空いっぱいに桜吹雪が舞っているような幻想的な光景を生み出した。



(──ゲイル、こんな頼りない僕に仕えてくれてありがとう。叔父上のことは、必ず止めるからあの世から安心して見守っていてくれ!)



ゲイルがロイズの想いを受け取ったかのように、フッとピンクの炎が消えたかと思うと、燃え尽きた灰は城へと降り注ぐことはなく、風に乗りふわりふわりと遠くへと運ばれていったのだった。



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