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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第一章 白銀の哀悼

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魔力暴走の記憶②


「ねぇゼノ、あまりにも討伐隊の帰りが遅いのではないですか?森で何かあったのでは――?」



小食堂には、ジョナサンを除いた家族4人が集まり、食卓を囲んでいた。窓の外は暗闇。討伐隊の帰還予定をとうに過ぎていた。



子ども達の母親である王妃は不安な面持ちで、夫であるゼノ国王に問い掛ける。息子のことが心配で、豪華なお皿の上に素晴らしく盛り付けされた料理は、ほとんど形を変えずそのままになっている。



「確かに遅すぎるな。しかし、何かあれば直ぐ様、緊急信号の魔法が打ち上がるはずなんだが……城に残っている兵士に、様子を見に行かせるか」



ゼノが片手を上げると、壁際で待機していた執事が素早くこちらへと歩み寄ってきた。



「今すぐ、城に残っている兵士に、討伐隊の様子を見に行かせろ」



「かしこまりました。すぐに手配いたします」



執事はゼノに礼をし、踵を返して小食堂から足早に去っていった。



――クレアも、あまり心配するな。たがかスライム討伐ではないか。と、ゼノは妻である王妃をなだめ、また食事を再開する。



「そうですね……ガレスも同行しているんですものね……」



窓の外は相変わらずの闇。黙々と食事を続けていたフェリシアがその闇の中に、松明を手に馬で森へ駆けてゆく兵士たちの姿を見付けた。彼らは城門からグングン遠ざかっていく。


だか、その向かう先をさらに辿っていった闇の奥に不自然な光を見付けた。



「──お父様、あの赤い光は何ですか?ずいぶん、たくさんあるように見えますけれど……」



背の高い木々が多い茂る森の中、その木の葉が揺れるたび、隙間から無数の赤い光が見え隠れしている。そして、その光は僅かに蠢くように動いているのが確認できた。



「……わぁ、なんだか光テントウが沢山集まっているみたいで、キレイですね!」



食事の手を止め窓の外へと視線を向けたアンナが、無邪気な様子でその不思議な光景に目を奪われる。



娘たちの言葉に、『この時期に光テントウは飛ばんだろう』と怪訝な表情を浮かべながら窓際へ近寄るゼノ。



「⋯なんだ、あれは」


「ゼノ、やはり森で何かが起こっているのではないですか?」



両親が発する緊張と不安の色が、徐々にフェリシアとアンナにも伝染していく。アンナは不安を通り越して恐怖を抱き始めているようだった。



「……お兄様、スライムにやられちゃったの?」


「そんなわけないでしょ!お兄様は、私よりもっともっと剣の腕がいいんだから!アンナ!!縁起でもないことを言ったらダメよ!!」



パァンッ パンパンッ パァンッ



フェリシアが叫ぶのとほぼ同時に、紫、赤、赤、緑と順番に四発の閃光魔法が空に打ち上がった。



紫は王族を表す色、赤は失敗や危険を表す色、緑は救援を表す色だった。


その激しい閃光で深い森に掛かっていた黒いヴェールが薄れ、ほんの数秒だけ見通しがよくなる。



「――城に残っている兵士や騎士を全員集めろ!!急ぎ討伐隊の救出に向かう!!ジョナサンが危ない!!急げ!!」



そう言うと、ゼノも小食堂を飛び出していった。

その地響きのような大声を合図に、城全体が振動しているかのように慌ただしくなる。



「……森の中にいた、無数の大きな魔物は一体なんなの?牛一頭くらいある怪物の群れが、スライムなわけないっ!!」



フェリシアは、今しがた見た光景が信じられず、窓に齧り付くようにして森の中を見ようとするが、閃光魔法が消えた今、またチラチラと赤い光が見えるだけだった。


クレア王妃とアンナは絶句して動けずにいる。



「……お兄様を助けなきゃ!!」



―─お父様!!私も行くわ!!と、叫びながらフェリシアも、小食堂から走り出ていった。



「森へ急げ!ジョナサンを助け出すのだ!」



騎馬の上から戦士の表情になったゼノの緊迫した声が響く。

フェリシアが城塞外郭の広場へとたどり着いた時には、ゼノを先頭に全兵士と騎士が、ジョナサン救出に向けて出発し始めたところだった。



「お父様!!私も連れて行って――!!」



フェリシアが必死に叫ぶが、その声は地を駆ける馬の蹄や、鎧の擦れる音、兵士達の咆哮にかき消されてしまう。もう一度、叫ぼうと息を吸い込もうとすると、何とも形容し難い不快な臭いが鼻をつく。



(⋯⋯何の臭い?)



不思議に思っている間も、フェリシアの横を続々と騎馬隊が駆け抜けていく。はっ、と我に返ったフェリシアは焦って周りを見渡すが、すでに最後の一頭が駆け抜けた後だった。


馬に乗せてもらえなければ、とてもじゃないが子どもの足で森の奥まで辿り着くことはできない。


――どうしたらいいの、とフェリシアが唇を噛んで呟いたその時、城門のすぐ外が騒がしくなっていることに気が付く。



兵士や騎士、軍馬でごった返す混雑の中に、月の光に照らされても輝きを失わない、眩しい金髪が目に入った。目を凝らしてよく見ると、エドガーの横には、彼に身体を支えられてやっとのことで歩いているジョナサンの姿が見えた。



「――お兄様っっ!!」



フェリシアが駆け寄ろうとした瞬間



――ゴゴゴゴゴ⋯⋯ズゥゥゥゥン!!



森の木々が大きく揺れるのと同時に地を割くような激しい振動が地面を襲った。


あまりの衝撃にバランスを崩して倒れ込む兵士や騎士たち。ジョナサンやエドガー、そしてフェリシアもその場に激しくしゃがみ込んでしまう。


ようやく揺れがおさまり、フェリシアが立ち上がろうとした時、辺りが暗いことに気付いた。



――月はどこへいってしまったの?



不可解に思いフェリシアが顔を上げると、天に輝く月の光さえ遮るほどの、とてつもない大きさの“何”かが圧倒的な威圧感を持って森の木々の中に立っていた。



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